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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
これでようやく次回はライブ編になります。
歌のみを表現するのはかなり難しいということを、思い知らされました。
でも、なかなかに書きごたえがあるのもまた事実ですが。


それでは、これにて失礼します。

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第24話 コンクールとMC

「あ、佐久間君どこに行ってたのよ! こっちは棄権するかどうかの判断をする期限が迫っているのに」

講堂の方に到着すると短めの黒い髪に、少しばかりおっとりとした感じの目が特徴的な女子学生が慶介を罵る。

「悪い悪い。でも、土産を持ってきたぜ」

慶介は謝りながらそう言うと、横に移動した。

「あれ? 高月君がどうして」
「慶介に歌えと言われて」

女子学生の問いかけに、僕はそっけなく答えた。
あまり気のりしないのが僕の本音だった。

「良かったぁ。これで棄権しなくて済む。それじゃ、実行委員の人に話してくる」
「おう! 任せた」

駆け出していく女子学生の後姿を見送りながら、僕はある肝心のことを聞くことにした。

「それで、曲目は?」
「そうだった。全部で二曲。一曲は委員会が指定した曲で後一曲がそれぞれで選んでいい曲らしい」

三曲、四曲だったらどうしようかと思ったが、二曲だったら何とかなりそうだ。
僕がコンクール参加を拒否した理由は、”歌う”からだ。
H&Pはファン数を増やすという戦略によって、普通の歌手グループとしての顔を持つ。
尤も、通常の歌の時も生演奏をするように心がけてはいたりする。
だからこそ、歌声だけでもDKであることがばれてしまうのだ。
ならば、歌うときにはDKの時の声色で歌わなければいいだけだ。
だが、それが長く続くとさすがに疲れる。
主に精神的に。
だが、二曲程度であれば負担は少ない。
後は、難しめの曲を選んでなければいい。

「一曲目は確か『You're my sunshine』で、二曲目は『天狗の落とし文』って言ったな」
「…………」

どうやら、かなりの高負担のようだ。
一曲めは二か所ほどにラップが入っているだけであとはハモリが主なためそれほど負担は高くない。
この曲の主役はあの女子学生なのだから。
だが、二曲目の『天狗のお落とし文』はそうはいかない。
この曲はラップの中でも高速の部類に入る曲だ。
曲の8割が高速ラップなのだから、さらに性質が悪い。
とはいえ、決まればかなりすごい曲になるのは間違いない。
ちなみに、一度うたったことがあるだけに、この曲の歌声にはかなり気を使わなければいけない。
その前に確認すべきことが一つある。

「慶介、ひとつ聞きたいんだが」
「おう。なんでも聞いてくれ」

この問いかけの答えで、僕の方針が180度変わることになるのだ。

「ラップとかはできるか?」
「『You're my sunshine 』のラップ程度だったらできるけど、最後の曲になると無理だな」

やはり、最後の曲は慶介は無理のようだった。
と言うことは、僕が歌うことが必然的になる。

「嘘ばっかり。佐久間君カラオケで歌ったらボロボロだったじゃん」
「ぐっ! 少しでもかっこいい男と思わせたい俺の思惑がぁ!」

委員会の人に話してきたのか女子学生の指摘に、慶介は頭を抱えて崩れ落ちた。

「安心しろ。慶介」
「浩介……やっぱりお前はいいやつ――」

僕の言葉に、顔を輝かせて立ち上がる慶介の言葉を遮り、僕はさらに言葉を続ける。

「端からそんなこと思ってないし、思うこともないから」
「今の言葉、想像以上にグサッと来たぞ」

再び崩れ落ちる慶介をしり目に、先ほどから視線を感じる方へと顔を向ける。

「えっと……織部さんだったっけ」
「はい、織部 幸恵です」

僕があげた名前に織部さんは名前を述べる。

「相手をするのも、大変じゃないか?」
「確かに……まあ、扱い方さえ分かれば」

僕の問いに織部さんは苦笑を浮かべ崩れ落ちる慶介を見ながら、ボリュームを落として答えた。
まあ、彼ほど扱いやすい存在はいないだろう。

「高月君は、ラップとかできる?」
「下手で良ければ」

織部さんの問いかけに、僕はそう答えるにとどめた。

「だったら大丈夫そうだね。一応今やっているグループが終わったら私たちの番だから」
「何、この俺との扱いの差はっ」

そんな慶介の嘆きと、講堂の方から『ありがとうございました』と言う言葉が聞こえたのはほぼ同時だった。

「もう終わったみたい。さあ、行きましょう」
「了解」

ため息をつきたい気持ちを抑え、僕は崩れ落ちている慶介に喝を入れている織部さんをしり目に講堂の中へと向かうのであった。

「さあ、次は最後のグループです。どうぞ」

ステージで司会を務めているであろう女子学生に促らされ、僕たちはステージに出る。
講堂のステージ上には3台のカラオケ用の機械とマイクが設置されている。
おそらくあのテレビのような機械に歌詞が表示されるのだろう。
来ている生徒数は満員ではないため、これなら変に力を入れなくてもいいと思えるような状態だった。
とはいえ、8割ほどの席が埋まっているため少ないというわけでもないのだが。

「さあ、自己紹介をどうぞ!」
「さ、佐久間慶介です」
「織部幸恵ですっ」
「高月浩介です」

若干だが緊張の色を隠せない二人をしり目に、僕は冷静に名前を名乗る。
冷静にとはいえ、緊張していないわけではない。
しっかりと隠し通せるかどうかが心配なのだ。

「はい、どうも―。それじゃ一曲目行ってみよう。最初の曲の曲名は『You're my sunshine 』!」

司会の人の言葉が言い切ると、音楽が流れだす。
それこそが『You're my sunshine』の前奏だった。
最初は織部さんが歌いだす。
それに合わせてハモリを入れていく。
取る音程は少しばかり高めに。
織部さんの歌いだしが終わると、今度は僕と慶介で英語の歌詞を歌う。
練習していた成果か、目立ったスペルミスもなく歌えていた慶介には舌を巻いた。
とはいえ、音程と速度があっていない状態だったが、緊張している中でここまでできるのはかなり伸び代はありそうだ。
そんな英語の歌詞部分が終われば、再び前奏へと戻る。
落ち着いた曲調から徐々に激しい曲調へと変化していく。
そこに慶介の英語の歌詞が入る。
それが始まりの合図だった。
そう、ラップだ。
結局ラップは僕がやることになり、僕はマイクを口元に近づける。
自然とマイクを持つ手に力が入る中、僕はラップパートを歌いだす。
音程は地声に近い感じをキープしつつ、英語のラップを歌っていく。
歌っていると妙なざわめきが聞こえてくる。

(集中集中)

ざわめきの方に意識を向けそうになる自分に喝を入れ僕はラップパートを歌い切った。
そして再び織部さんの歌うパートに入っていく。
そこに適度適度に僕と慶介でハモリを入れていく。
間奏の箇所で織部さんが再び歌を紡ぎ、サビに入っていきAメロに移動する。
そしてBメロが終わると再び間奏に入ると先ほどと同じく織部さんがサビの箇所の歌を歌う。
だが、今度は歌い切ったのと同時に、僕ラップパートがある。
僕は英語のラップを歌い切るが、まだ終わりではない。
もう一度同じような流れがあるのだ。
そこも僕は何とか歌い切ることができた。
残すはサビのみ。
あとはハモリを入れるだけ。
最後は織部さんが見事に歌い切り、一曲目は終わった。
それと同時に講堂内に拍手が響き渡る。
その拍手に、思わずお辞儀をした僕は、ふと横を確認すると二人はお辞儀などしていなかった。
と言うか、余韻を味わっているような様子だった。

「はい、お見事でした。それじゃ最後の曲。私たちが選考した曲です曲名は『天狗の落とし文』」

司会の告げた曲名に、ついに来たかと僕は心の中でつぶやいた。

「これまでほとんどすべてのグループが、涙を流した最難関曲ですっ。さあ、君たちは見事歌い切れるかな? それでは、行ってみよう」

二人からの”任せたよ”視線にさらされながらも、ついに曲が流れ始めた。
前奏が流れる中、僕は深呼吸をして歌う音程を決める。
音程は、今まで歌ったことがなく、なおかつこれから先歌わないだろうという音程。
その音程を決めて少しして、ついに高速ラップが始まった。
所々に慶介のハモリが入りながらも、僕は一気に高速のラップを歌い切る。
そしてBメロに入る。
ここからは織部さんが合いの手を入れながら少しばかり速度が落ちたラップバートに代わる。
それを繰り返すと、次はCメロ。
音を伸ばしたり伸ばしてはいけなかったりと少し難しいところだ。
ここは前半を慶介が歌う。
そして僕のラップから織部さんが歌いだす。
そして間奏を経て再びAメロに戻る。
Bメロではラップのテンポが少し変わるため、歌いにくかったりはするが何とかそこもやり過ごしCメロに入る。
そしていよいよ肝心のサビだ。
ここは織部さんが主に歌う。
そこに合わせて僕の高速ラップパートを挟む。
そしてサビが終われば、後はラストスパート。
高速ラップのパートを一気に歌い切り織部さんの歌う箇所も何とか決まれば、後は僕が最後の1フレーズを歌った。
そして、あっという間に最難関の曲は終わった。
それから少し間が相手、拍手が鳴り響く。

「どうもー。いやー、まさか本当に歌い切れるとは。私も驚きです」

(あ、やばっ!)

このコンクールで忘れていたが、この後には楽器機材の運搬をするはずだ。
女子だけにそれをやらせるのは男としては問題がある。

(約束は”歌うこと”。最後まで付き合うことじゃないから、抜け出しても問題ないよな)

そう勝手に結論付けた僕は、マイクを素早くカラオケ用の機械に戻すと音を立てずにステージを後にした。

「って、もう運搬されてるし!?」

舞台そでには、既にドラムやらアンプやらの機材が置かれていた。
どうやら手遅れのようだ。

(仕方がない。みんなに謝ろう)

最悪の場合には多少の出費も覚悟しよう。
僕は心の中でそう思うと、足早に部室へと向かうのであった。










部室前に到着した僕は、ドアを開けようとドアノブに手を伸ばす。
中からは和気あいあいとした話し声が聞こえているが、安心はできない。
顔を見た瞬間に怒りが込み上げることも十分あるのだから。

「あれ、浩介」
「ご、ごめんなさい。別にサボるつもりはなかったんだ」

突然予想もしない方向からかけられた声に、混乱した僕は言い訳じみた言葉を口にする。
自分で言っていて情けなくなってきた。

「い、いや、別に怒ってないから。浩介の方も色々あるんだろうし」
「って、澪は何をしてたんだ?」

苦笑しながら許してくれた澪に感謝しながらも、僕はふと浮かんだ疑問を投げかける。
機材の運搬だったら、既に終わっているはず。
ならば、澪はすでに彼女たちの話に加わっているはずだ。

「ああ、律に用事を頼まれてそれをやってたんだ」
「あー、そういうことか」

なんとなくだが、律の本心がわかったような気がした。
唯が声を枯らしてしまったため、二曲を歌うことになった澪だが、二曲ボーカルを担当することがわかった瞬間に失神した彼女に機材運搬をさせたらどうなるかは想像するに難くない。

「入るか」
「そうだな」

そして僕は部室のドアを開けた。

「機材運ぶの終わった?」
「あ、澪ちゃんに浩君!」

澪を先に部室に入らせてそれに僕も続く。

「機材運べなくてごめん」
「いやいいって。そっちもいろいろ大変だったんだな」

機材運搬を手伝えなかったことに謝罪の言葉を贈ると、何だか悟られたような言葉が返ってきた。
その言葉がとても痛い。
とりあえず、僕はいつも座っている場所に座ることにした。

「あれ、意外と落ち着いてんな。ボーカルやるのあんなに嫌がってたのに」
「子供じゃないんだから、動揺してなんかいられないわよ」

そういいながらムギが注いだ飲み物が入ったカップを手にする澪だが、にこやかな表情と言葉に反して手は小刻みに震え、それは次第に大きくなっていく。

(ものすごく動揺しているじゃないか)

どうやら時間は解決できなかったようだ。

「もうすぐ本番なのに、どうするんだよ?」
「……もうやだ」

心配そうな律の問いかけに、しばらく間が空いてぽつりと声を上げだした。

「律、浩介! 私とボーカル変わって!」
「おいおい、ドラムとギターはどうするんだ?」

澪の突拍子もない頼みに僕は呆れながら聞き返す。

「私がやるから!」
「それじゃ、ベースはどうするんだよ?」
「それも私がやるから!」

澪の答えは非常に支離滅裂状態だった。
一人で異なる二楽器を弾くのは、世界中を探せばいるかもしれないが絶対に無理だ。

(というより、そんなことしたら逆に目立つだろうに)

そんなどうでもいいことを律と澪がせめぎ合っている光景を見ながら思っていた。

「ごめんね澪ちゃん。私が声をからせなきゃ澪ちゃんが歌うことはなかったのに」
「いや、どっちにしても澪は歌うんだけどね」

何せ、澪がボーカルを担当する曲は最初から一曲あるのだから。
それが一つ増えただけだ。

「やっぱり、私がボーカルをするよ!」
「ダメだからっ! それ以上悪化しかねないからやめとけ」

僕は何とかボーカルを強行しようとする唯を思いとどまらせる。
そんな唯の様子に、澪は僕たちに背を向ける。

「あ、そうだ。MCとかを考えておかないと」
「えむしー?」

そんな中、律の提案に唯が首をかしげる。

「コンサートとかで曲と曲の合間にしゃべったりする奴のことだよ」
「なるほど」

首を傾げる唯に、僕は説明する。

「みなさーん、こんにーちはー」

突然席を立ったかと思うと、律は澪の横まで移動すると腕を大きく振り上げながら声を上げ始めた。

「軽音部のライブにようこそー」

なぜだか歓声が聞こえてきそうなほどに輝いていた。
そして律は唯とムギの順番でメンバー紹介を始めた。

「ベース&ボーカル! 怖い話と痛い話が超苦手。デンジャラス・クイーン、秋山澪ッ!」

澪の自己紹介を終えた瞬間に、澪の鉄拳が律に落ちる。

「誰がデンジャラスだっ!」
「いたた……ギター! 正体不明のミステリアスボーイ!―――」

痛む頭を手で押さえながら、律はさらにメンバー紹介を続ける。
と言うより、それは僕の自己紹介か?

「ハーレム道まっしぐら! 男の敵! ハーレム大魔王、高月浩介ぇぇっ!!!」
「「「「「……………」」」」」

誰のものでもない声が、律の言葉を遮って響き渡る。
よく見れば、いつの間にか軽音部の部室に慶介の姿があった。

「ほう? 僕は大魔王か」

痛い静寂が部室内を包み込む中、僕はゆっくりと席を立つ。

「トイレは済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はオーケー?」
「ウ○ルター!?」

どこからともなくツッコミが入るが、それを無視して手の骨をぽきぽきと鳴らしながら慶介の方に歩み寄る。

「こ、浩介? 目が怖いぞ」
「ちょっと二人で話をしようか」

引きつった表情を浮かべる慶介の肩を僕はつかむ。

「あぁ! 俺、大事な用を思い出したからまたあとでな!」
「いいから、来い」

僕は慶介を引きずって部室の外へと向かう。

「ごめんね。僕慶介君ととてーも大事な大事なお話があるから。すぐに戻るから、気にしないでねー」
「お、おい! 誰でもいいから助け――」

慶介が言い切るよりも早く外に出た僕は部室のドアを閉じる。
そして、

「くたばれっ!!!」
「ギャーー!?」

いつもの9割増しで鉄槌を浴びせるのであった。
こうして、ライブ前の時間は過ぎていくのであった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRです。

大変お待たせしました。
本日『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
学園祭編にようやっと突入した感じです。
次回は、コンクールとライブの話になります。
そのあと1,2話ほどはさんでクリスマス編に突入する予定です。


それでは、これにて失礼します。

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第23話 学園祭

ついにやってきた学園祭当日。

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

僕たちのクラスの出し物『喫茶・ムーントラフト』はそこそこ順調だった。
盛況と言うわけでもなく、かといって不況と言うわけでもない。
そんな中、シートで囲まれた教室の一角にて、僕と慶介はバックスタッフとして料理を作るのに専念していた。
向こう側から聞こえる声で、お客が増えたことを知った僕は、慶介に声をかける。

「これでまだオーダー完了で調理が必要な人数が一人増えたな」
「そうだな。くそっ、どうして俺はこんなことをしてるんだ?」

今調理しなければいけない人数は、4人分。
注文の内容も軽食系(サンドウィッチやおにぎりなど)のため、それほど問題にはならないが、人数が増えればそれだけで負担も上がる。

「そっちの方は下準備はどのぐらい進んでる?」
「こっちは軽く20人分ほどはできてるよ」

僕はさらに別の場所で下準備をしているチームのほうに声をかけた。

「俺のボヤキはスルーなんだな」
「そんなどうでもいいことより、ハムとおにぎり3個の調理だ」
「へいへい」

慶介のボヤキは無視して、僕はさらにオーダーされた料理を作るよう慶介に指示を出す。
慶介が外でウエイターをやれない理由は、察していただけるとありがたい。
さて、関係ない話だがこの学園は電力関係の理由で各クラスで使用できる電化製品の数に限りがある。
ここの場合はご飯を炊くための炊飯器が2台、さらにおにぎりを焼いたりするためのホットプレートが1台と決められている。
それ以上使うとブレーカーが落ちるのだ。

「って、落ちた!?」

考えていたところにいきなりブレーカーが落ちたため、僕は思わず声を上げてしまった。
外の方から『何? 停電?』といった戸惑いの声が聞こえてくる。

「あ、悪い。俺のせいかも。プレート2台使っちまった」
「このドアホ!」

とりあえず元凶である慶介には鉄槌を浴びせる。
よく見ればハムとおにぎり用で2台も使っていた。
1台壊れた時の予備として、炊飯器とホットプレートは1台余分に用意しているため、気を付ける必要があるのだ。
とはいえ、すでに最悪の事態は起きてしまったわけだが。
とりあえず、悶絶する慶介は放っておき素早くおにぎりをハムと同じ台に入れると、1台のプレートの電源を切って電源コードを抜いた。
これで間違って使おうとする人はいないだろう。

「そっちの方も復旧次第炊飯をもう一度やり直して」
「分かった」

後ろの方にも指示を飛ばし、混乱を最小限に済ませるようにしていく。
すでに完成した料理を紙製のお皿に乗せ、さらにオーダー表に書かれている席の番号を示す番号札をトレーに置くと完成品を置く場所に置いた。
後は運んでいく人が持っていく。

「ちょっと、電化製品は3台までよ! ちゃんと守ってる?」
「げっ」

向こう側から聞こえた怒りの声に、僕は思わず顔をしかめる。

「悪い。ホットプレートを1台多く使ってたみたいだ。本当に申し訳ない」
「気を付けてよね! まったく」

慌てて謝罪すると、女子学生はぶつぶつと文句を言いながら去って行った。

「皆さんにも、ご迷惑おかけしてすみません」

そして、お客さんたちの方にも謝罪の言葉をかけて僕はもう一度バックヤードへと戻る。

「浩介、悪い俺のせいで」
「謝罪をする暇があれば手を動かせ。決まり事を守り借り、効率的に動け」
「おう!」

少しして電力が無事に復旧したため、下準備と仕上げの工程が再開された。
そんな学園祭の一幕であった。










「男の勝負だ!」
「で、それがどうしてここだ?」

こちらの当番が終わったため、自由行動となった。
僕は部室で練習をしようと思っていたのだが、それをしようとする前に慶介に連れて行かれる形で入ったのはお化け屋敷だった。
そして今に至る。

「いや、度胸試しには最適だろ? 一番ビビらないやつが男だっていう、わかりやすい出し物はここ以外にはないし」
「………」

ものすごくくだらないと思うが、心の中でとどめておいた。

「にしても、ここはどこのクラスだよ」

連れ込まれる形だったため、どこのクラスかもわからない。
唯一分かるのはここの名前は『悪夢の館』であることくらいだ。

「さあ。行くぞ」

中は薄暗く、足元には赤色の明かりが灯されていた。
周囲にある小物が、より一層不気味さを醸したてる。

「わぁ!!」
「ん?」
「うぉ!?」

まずは小手調べとばかりに現れた幽霊役の女子学生。
僕は首をかしげただけだ。
ちなみに、驚きの声を上げたのは慶介だ。

「………」

僕は片方は驚き片方は目立ったリアクションをとっていないことに唖然としているであろう幽霊役の女子学生をしり目に奥の方へと進むことにした。
そんな中、僕は横にいる慶介のほうに視線を向ける。

「慶介」
「ビ、ビビッてないからな!」
「分かってるから。手を放して。歩きづらい」

まだ何も言っていないにもかかわらず、否定してくる慶介にため息交じりに返す。
怖いのが苦手なら入らなきゃいいものを。
それを言うのは野暮だろう。
この後も色々と幽霊役の学生が脅かしてくるが無事に出口付近までたどり着けた。

「何で、お前は平気なんだ?」
「作りものだってわかっているから」

慶介の恨めしそうな問いかけに、僕は簡潔に答える。
もちろんそれもあるが一番の理由は、すでに底に誰かがいることを知っているからだ。
ここにいるのはただの学生。
気配を消すなどと言う芸当は早々できやしない。
そのため、気配から居所を悟って脅かしてくると判断しているのだ。
そこに何かがいて脅かすことがわかっていれば、驚きも半減だ。
しかもそれが作り物であることを知っていればなおさら減っていく。
とはいえ、お化け屋敷の楽しみ方には反しているわけだが。

「恨めしや~!」
「……………」

そんな僕たちを遮るように目の前に現れたのは、骸骨の仮面をかぶった男子学生と思わしき人物だった。
慶介は後ろの方に飛びのいたが、悲鳴を上げないあたりさすがと言うべきだろう。

「ガ、ガオー!」

動じない僕にヤッケになって驚かせようとする男子学生。
きっと今までで始めて驚かない人が出たために、驚かせようと躍起になっているのか、クラス内で驚かせた人数によってMVPを決めるというものがあるのかもしれない。
とはいえ、

(鬱陶しい)

その一言に尽きる。
もとより、僕には部室で練習しなければいけないため、少し急いでいたりするのだ。

(少し申し訳ないが、やるか)

僕は、心の中で男子学生に謝罪の言葉を送りつつ、それを行うことにした。

「邪魔。退いて」
「恨めしや~」

僕の言葉に返ってきたのは、時代遅れの脅かし文句だった。

「退いて」
「ガオー!」

何だか、ちょっと頭にきた。

「退けっ」
「は、ハィィ!」

僕は殺気を目の前の幽霊役の男子学生に放つことで強引に退かせた。
そして、そのままお化け屋敷を後にするのであった。










外に出た僕は、慶介が何かを言うよりも先にその場を後にした。
おそらくもう全員部室にいるだろう。
なので、僕はできるだけ急いで部室へと向かう。

「悪い、遅れた」
「遅いぞ!」

謝りながら部室に入った僕にかけられたのは律の咎めるような声だった。
何だか、無性に腹が立ったが、遅れたことは事実なので飲み込んだ。

「律たちも今来たばかりだろ」

そんな律に澪は咎めるような視線を律に向けながら指摘する。

「さ、さあ。練習練習!」

そんな律は、まるでごまかすように口にすると練習の準備を始めた。
そんな律に倣い、唯たちも準備に取り掛かるので、僕も準備を始めた。

「それじゃ、最初は『Leave me alone』から」

律の曲のコールに、僕たちは頷くと、律はリズムコールを始めた。
そして、最後の練習は幕を開けるのであった。





ギターとベース、ドラムの音がほぼ同時に終わる。

「よーし。まあまあなんじゃない?」

最後の曲目でもある『ふわふわ時間(タイム)』が終わり、感想を律が口にする。

「澪ちゃん、大丈夫そう?」
「え? う、うん」

唯の問いかけに答える澪だが、その表情はまだ硬かった。
どうしたものかと考えをめぐらせようとするのを遮るように、扉が開け放たれた。

「みんないるわね?」

そう言って入ってきたのは、顧問の山中先生だった。

「不本意ながら軽音部の顧問になったわけだし、私も何か役に立てないかなと思って、衣装を作ってみました!」

そう言って山中先生が掲げたのは白地のシャツに赤色のスカートの衣装と黒色に襟元が白いドレスのような衣装だった。

「いや、センセ。気持ちはありがたいんだけど……」
「あんな服を着て歌うの? 大勢の前で?」

律の手が指し示す先にいたのは顔面蒼白で固まる澪の姿だった。
確実にタイミングがまずかった。

「うーん。これはお気に召さなかったか。それじゃ……私の昔着ていた衣装はどう?」
「や、やっぱりさっきの服が来てみたくなった!!」

最初は首を思いっきり縦に振っていた澪だが、山中先生が取り出したなまはげを彷彿とさせるお面のついた衣装を見た瞬間、顔をひきつらせた。

(あんなの、澪じゃなくても来たくない)

「こんな衣装、澪じゃなくても来たくないよ」

それは律も同様だったのか、山中先生を止めていた。

「せっかく頑張って作ったんだけど……それに唯ちゃんたちは嬉しそうに来ているわよ」
「おいこら!」

山中先生の視線の先をたどると、そこにはノリノリにスクール水着を着る唯とナース服を着るムギの姿があった。
いつの間に着替えたんだ?

「ところで、山中先生」
「何かしら?」
「男物の服は?」

山中先生の衣装は女性物しかない。
当然だが、僕は男なので、女性物の衣装は着れないし着たくもない。

「ないわよ」
「………」

さらりと当然だといわんばかりに答える山中先生に、僕は何も言えなくなった。
まあ、ある意味当然の結果だろうけど。

「それじゃあ、頑張ってね」

そういって去っていく山中先生。

(どうしたものか)

制服のままだと後が怖いため、衣装を着なければいけないわけだが、女性物だけは着たくない。

「私今ので全部忘れちゃったよーっ!」
「おいおい」
「練習、しましょう」

頭を抱えて叫ぶ唯に、ムギが手を合わせて提案する。

「そうだな。そうするか。ところで浩介――」

ムギの提案に律は頷き、僕に何かを言おうとした時だった。

「浩介っ!!」
「のわっ!?」

突然部室のドアが乱暴に開け放たれた。

「慶介ッ! 少しは静かに――うおお?!」
「ちょっと来てくれ!」

そしてドアを開けた張本人は、僕の言葉を遮るようにして腕を思いっきりつかむと、腕を引っ張って問答無用とばかりに部室から連れ出すのであった。










「離しやがっれ!」

どのくらい引っ張られたかはわからないが、僕は慶介の手を強引に振りほどくことでようやっと止まることができた。

「説明してくれ。これはどういうことだ?」
「実は、歌自慢コンクールに参加するはずだった女子の一人が体調を崩して休んじまったんだ」

僕の問いかけに、慶介は静かに事情を話し始めた。

「練習してきただけに、今更棄権とかはしたくない。だから、浩介に頼みがある」
「まさか……」

慶介の話からなんとなく頼みが何であるのか想像できた。

「歌自慢コンクールに出てくれ!」
「………」

慶介の言葉に、僕は思わず目を閉じてしまった。

「頼むっ! なんだったら土下座でもするから!」
「……………そんなのしなくていい」

僕は静かに息を吐き出すと、土下座をしようとしているであろう慶介を止めた。

「ということは?」
「……優勝できなくても責めるなよ」
「もちろんだよ。助かったぜ」

その僕の言葉に、慶介は答えを悟ったのか手を取ると思いっきり振りかぶった。

「それで、あと一名はどこだ?」
「ああ。あいつだったら講堂で待っているはず」
「だったら、そこに行っておいた方がいいんじゃないか?」

よく周囲を見てみれば、どこかの通路だった。

「そうだった。ちょっと走るぜ!」
「はいはい」

慶介の言葉に、そう返すとおそらく全力で走っているであろう慶介についていくのであった。

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巡回執筆予定作品

こんばんは、TRです。
今回の巡回執筆予定作品は次の通りになります。


・けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~
・魔法少女リリカルなのは~目覚めた力~RB
・ティンクル☆くるせいだーす~最高神と流星の町~
・魔法少女リリカルなのは~世界からの来客者~

執筆開始まで、今しばらくお待ちください。


それでは、これにて失礼します

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