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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回ほど、あきらめの悪い男は登場しないのではないかと思えるほど、あきらめが悪いです。
そんな彼が打ち出す次の策に注目です。

さて、拍手コメントの返信を行いたいと思います。

『最長で136話ですか。 大変ですね』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
確かに、大変でした。
実はこれは処女作でもあったこともあり、かなり思い入れの強い作品です。
ちなみに、完結までに約2年ほどの月日を要しました。


それでは、これにて失礼します。

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第82話 静かなる攻防

夜、某所にある豪邸にて。

「あぁ!? 圧力が効かねえだぁ?!」

広々とした寝室と思わしき部屋に竜輝の怒鳴り声が響き渡った。

『も、申し訳ありません。ですが、これ以上圧力をかけても無駄です』
「ああもういい!」

竜輝はそう吐き捨てると電話を切った。

「おのれ、高月浩介……こうなったらとことんやってやろうじゃねえかぁ!」

竜輝は再び電話をかける。

「俺だ」
『これは、竜輝お坊ちゃま。いかがなされましたか?』

電話に出たのは男性のようだった。
竜輝は電話口の男に容赦なく命令を与えた。

「琴吹グループの株を明日中にすべて買い取れ! 買い取ったら経営陣を追い出せ。いいか、明日中にだ!」
『かしこまりました』

それは企業買収の指示だった。

「貴様のせいで周りがどんどん不幸になっていく。その悔しさ、無力さを思い知れ!! ガハハハハ」

竜輝は勝ち誇ったように笑う。
だが、彼は知らない。
竜輝が喧嘩を吹っ掛けている相手がどれほど残虐で、恐ろしい人物であるかを。
そして、この行動がどのような結果をもたらすのかを。










ターゲットが動き出したのは僕が協力をしてほしいことを頼んだ次の日だった。

「おい、高月浩介」
「………何だ?」

いつものように通学しているさなか、内村から声を掛けられた。

「お前、俺様の忠告を無視したな」
「忠告も何も、私は貴様のような奴の命令を聞くつもりはない」

そう告げて奴の横をすり抜けようとした時、内村は小さな声で告げた。

「貴様のせいで周りにいる奴が不幸になるぞ。楽しみにしておけ」

そのまま勝ち誇った様子で立ち去る内村。

(さて、その不幸とやらを見せてもらおうか)

だが、その脅しにも僕は動揺などはしなかった。





変化は唐突だった。
それは昼休みになってから少ししてからのことだった。

「高月君!!」
「ッ?!」

突然教室中に響き渡る叫び声にも近い声に、僕は思わず直立不動で立ち上がってしまった。

「ちょっと、こっちに来て」
「あ、ムギ! 引っ張るな!!」

僕は血相を欠いたムギによって、無理やり教室から連れ出されるとそのまま廊下を走って階段を下りてさらに走り出す。

「いい加減に落ち着け!」
「……っ!」

僕の一喝で、ようやく落ち着きを取り戻したのか、ムギは走る速度を落として僕の腕を握りしめていた手の力を弱めた。

「それで、何があったんだ?」
「これを見てっ」

そう言ってムギから手渡されたのは、経済ニュースのトピックスだった。
そこにはこう記されていた。

『内村財閥、琴吹グループを買収か?』

(来ると思ってたけど、本当にやってきたか)

成金の権力を持つバカがやることと言えば圧力に買収などの嫌がらせだろう。

「私、どうすればいいかわからなくて」
「安心しな。僕は奴らよりも百歩先を行っている。既に手は打ってある」

当然想定済みなので、策は打ってあった。

「放課後になったら結果が出るはずだから。この間のお願い、くれぐれも忘れないで」
「うん、浩介君を信じる」

僕の言葉を信じたムギに、僕は頷くことで相槌を打った。

「ほら、早く行かないと昼休みが終わるよ?」
「あ、本当だ。それじゃ放課後」
「ああ」

去っていくムギに手を振りながら僕は彼女を見送った。

「にしても、墓穴を掘るとは言うが、本当に墓穴を掘ったな」

僕はそうつぶやきながら携帯電話を取り出すとある場所に電話をかける。

「私だ。例の件はどうなっている?」
『はい。こちらはすべて順調です。貴方に言われた通りに行っております。このままいけばこちらの勝利で確定でしょう』

電話先の男性の報告に、僕は心の中でガッツポーズをしながら頷いた。

「ご苦労。そのまま、作業を続けて」
『かしこまりました』

そして僕は電話を切る。
現在電話先の男を含め数十人が、琴吹グループ買収を阻止するべく行動を起こしているのだ。
そして僕の想像通り、放課後にはすべて片が付いているだろう。

(さて、次向こう側が打ってくるであろう手を考えますか)

僕は次なる手を考えながら教室へと向かうのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


同日の夜、内村家にて。

「は? もう一度言って、ママ」

自宅に戻った竜輝は、突然告げられた言葉が理解できずに、母親に聞きかえした。

「ですから、内村財閥が消滅したのよ!」

告げられたのは衝撃的な内容だった。

「そんな馬鹿な! 俺様の財閥が消滅だなんて! 事実なのよ! 株主たちが株を別の会社に売ってその会社に乗っ取られたのよ!!」
「パ、パパは!? パパはどこに?!」
「今、急いで株主の所に行って株を買い戻すように頼んでいるわ」

内村家は朝まではいつもの勝ち組から、一気に負け組の座へと転落することとなった。

「でも安心して竜輝。まだ、我が家には隠し資産が数十億あるから」
「そ、そうか。明後日には再建できるだろ」

母親の言葉に、竜輝も平静を取り戻した。

「さあ、お夕食を食べて寝なさい」
「ああ」

話はここで一度終わったかに思えたが、さらに転落は止まらない。
翌日、内村家の両親は賄賂や脅迫などの罪で逮捕された。
彼に関係する政治家や暴力団関係者も次々に摘発されていく。
徐々に徐々に、彼はつながりを失っていくのだ。
そして二日ほどして、竜輝は家を追われた。





とある工業団地内にある3階建ての廃工場となった建物。
そこは夜になれば人通りは皆無となり、絶好の潜伏場所となっていた。
廃工場になったのは、数十年前にある事故が発生したためであるとされている。
そこに竜輝は身を潜めていた。

『もう私には連絡しないでください。貴方とはもう手を切ったのですから』
「あ、待て! ……ちくしょう……ちくしょう……畜生!!!」

かろうじてつながる電話で、かつて便利屋のように使っていた男から拒絶された竜輝は、毒づく。

「どういうことだ。この俺様がどうしてこんな目に合うのだ!」

ついに彼は、何もかもすべてを失ったのだ。

「お坊ちゃま、ここにいましたか」
「あん?」

そんな中、竜輝に声を掛けたのはスーツを着込んだ中年男性だった。

「田中」
「このたびは大変な目に合われたようで」

同情の言葉を投げかける田中と呼ばれた人物に、竜輝は威圧的な目で睨みつける。

「私は、お坊ちゃまの味方です」
「はん! そうだ、それが正しい。またすぐに返り咲いてやるさ」

ようやく得たつながりに、竜輝の威勢が取り戻されたのだ。

「おい、こうなった理由は分かったのか?」
「ええ。お坊ちゃまが琴吹グループを買収し始めたのと同じタイミングで、ある企業が株主たちに高額な金を払って株を売らせたのです」

調べておいたのか竜輝の問いかけに答える田中が、事の真相を語った。

「その額、株を売った際の金額が最大で5億、それにプラスで毎年1億だそうです」
「な、なんだと!? どうしてそんな大金を株主に配当ができるっ!! その企業は何者だ!!」
「こちらです」

その高額すぎる金額に、驚きを隠せない竜輝は田中を問い詰める。

「ムーントラフィック? なんだ、この会社は」
「貿易会社だそうです。色々な技術を様々なところに低価格で販売する企業だとか」

ムーントラフィックこそが、今回の内村財閥の転落劇の幕を開けた張本人だった事を知った竜輝は、さらに核心に迫る。

「代表は誰だ?」
「それが、お坊ちゃまと同学年の学生です。名前が”高月浩介”となってます」

その名を聞いた瞬間、廃工場内に大きな音が響き渡った。
それは竜輝が近くにあった鉄材を蹴り飛ばしたからだ。

「ちくしょう! あの野郎っ!! そう言うことかっ」

竜輝はこの時初めて、浩介の言葉の意味を理解した。

『あまり私たちにケンカを売らない方がいいぞ?』

(そう言う意味かよ。だが、貴様はこの俺様を怒らせた! こうなれば地獄の底まで突き落として俺様と同じ目に合わせてやるっ!)

浩介に対して身勝手な恨みを抱いた竜輝は、口を開いた。

「おい、田中」
「はい。何でしょうか?」

そして、竜輝はそれを告げる。

「奴の……高月浩介に関する弱みを調べろ。脅せられるのであれば何でもいい」
「かしこまりました」

竜輝の命令に、田中は一礼すると、廃工場を去っていった。

「この俺様に惨めな思いをさせた罰、受けてもらうぞ。ガハハハハハ!!」

しばらくの間、廃工場から竜輝の不気味な笑い声が響き渡るのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


数日ほど経った10月になって間もないある日の放課後のこと。
僕たちはいつものようにティータイムの時間を過ごしていた。

「それにしても、まさか内村があんなことをするなんて」
「企業買収でのいやがらせ行為は、権力を持ったバカがやる行動だからな。真っ先に思い付いていたんだよ」

律の言葉に、僕はため息交じりに相槌を打った。

「他にも唯たちの両親の働く会社に妨害をする可能性を考慮していたけれど、どうやら琴吹グループだったようだし」
「あの、浩介先輩」
「何? あずにゃん」

そんな中、神妙な顔で聞いてくる梓に、僕は用件を尋ねた。

「一体浩介先輩は何をしたんですか?」
「目には目を歯には歯を。その理論に基づいて、逆に内村財閥を買収してやったんだよ」

僕が行ったのは実に単純なものだった。

「でも、財閥の買収は不可能だって……」
「え、そうなの?」

ムギの言葉に、唯が反応した。

「うん。いくつもの会社が一つにまとまったような感じで、買収するのは不可能だって言っていたわ」
「だから、それらの会社を一斉に買収したんだよ。株主に莫大な報酬を支払うことを約束してね」

普通ならば、財閥を買収することは不可能だ。
だが、僕は不可能を可能にすることができる。
経済での企業買収でものをいうのは、やはり資金だ。
幸い僕にはその資金はあまるほどあった。
なので、それを利用したのだ。

「ちなみに、おいくらくらい?」
「えっと………5000くらいかな」

単純計算ではあるが大体はそのくらいの費用はかかっているはずだ。

「それって、億単位じゃないよな?」
「もちろん。兆単位です」

本当はさらに値段がかさむのではないかと覚悟していたが、わりと安く済んでくれたので、よかった。

「ということは、内村財閥のすべての経営権が浩介の手の内に!?」
「そんなわけはないよ。個人でできることなんてたかが知れてる。買収を仕掛けたのは立派な会社だよ」

そう言いながら、僕は一枚の名刺を机の上に置いた。

「えっと……ムーントラフィック会長ぉ!?」
「僕、学生と会社の会長を兼任していたりするから」

僕の名刺を見た澪が、衝撃のあまりに語尾を荒げた。

「ムーントラフィックって、確か貿易会社だったよね?」
「表向きはね。さまざまな技術を格安で販売する企業。その真の顔は僕たち魔法使いの中継をする施設」

僕が行く世界(もちろん魔法文化なしだが)で長期間滞在する場合は、このような企業を設立することによってサポート体制を整えているのだ。

「もう何でもアリだよな」

律のどこか呆れたような言葉が、皆の心境を物語っていた。

「この会社の重役はすべて魔法連盟の職員だから、魔法関連に対する相談なども受け付けているし、一種の司令塔のような感じにもなっている。僕はそこで会長職として、会社の経営をコントロールしているんだ。今回の買収も、僕が部下に指示を出して職員総動員でやらせたから、功労者は部下だと思うよ」
「へぇ、浩君ってすごいんだね」

分かったような、わかっていないような、微妙は反応をしながら感想を口にする唯。

「それで、内村先輩は今どうなってるんでしょうか?」
「家も追われているはずだから今までのように不自由の無い生活はできないだろうな」

企業買収の後は本当にあっけなかった。
彼と深くつながっていた政治家を工作課の人に命令を出して逮捕させたりして、無力化していくのはとても簡単だった。

(まあ、まだ一か所残してあるんだけどね)

内村と深くつながっている人物で”田中探偵事務所”というのがある。
そこは内村が相手を蹴落とす材料を探させるために利用する、一種の情報屋のような存在だ。
そこを残したのは、まだすべてを終わらせるわけにはいかないからだ。
近いうち、彼は必ず報復行動を起こす。
それのシグナルとして探偵事務所を利用するのだ。
彼が動き出せば内村がついに行動を起こしたということになるのだから。
そして、そのためのエサも十分に用意している。
後は、彼が動き出すだけ。

「それよりも、この前の約束は忘れてないよな?」
「ええ、もちろん」

僕の確認の言葉に、ムギを筆頭に全員が頷いて答えた。





それは、この間久美が来た時のこと。

「それは一体何? 浩君」
「それは、内村に対して交渉のようなことを持ちかけないこと」

唯の問いかけに、僕はそう告げた。

「どういうことだ?」
「奴のような人種に交渉を持ちかけても無駄だ。逆上して危害を加えたり、辱めを受ける可能性があるということだ」
『っ!?』

久美以外の全員が僕の言葉に息をのんだ。

「僕はこれまでにそう言う人物を多く見てきた。だから言っている。絶対に交渉を持ちかけてはダメ。向こうが何をしてもこちら側で全て対処はする。だから、絶対に皆は行動を起こさないで。それが条件。約束できるか?」
「うん。分かったよ! 浩君」

唯をきっかけに、次々と頷いていく澪たち。
このおかげで、僕は思うように動くことができたのだ。
そうでなければ、現在はとんでもない事態に発展していたかもしれない。
この頼みは不幸な結末をたどった事例を多く見たからこその物だったのだから。
唯たちにそのような結末を辿ってほしくはない。
それが僕の思いだった。





「あの時の約束だけど、様子見でもうしばらく継続させる」
「それって、まだ終わりじゃないということ?」

澪はさすがに鋭い。
だが、本当のことを言うわけにはいかなかった。

「そう言うわけじゃないけど、念のためだ」

だからこそ、嘘でも本当でもないグレーゾーンの答え方をしたのだ。

「本当に終わってるといいですよね」

梓のその言葉が、今後のことをなんとなく示唆しているような気がした。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回から、浩介たちの反撃が始まります。
この先にはちょっとした笑い要素(ネタですが)がありますので、楽しみにしていただけると幸いです。

さて、拍手コメントの返信を行いたいと思います。

『100話はたぶんこえますよね?(汗)』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
はい、確実に100話は越えます。
それどころか一作品の話数自体が200以上行く可能性だってあるほどですから’(汗)
ちなみに、私の手がけた作品の中で、最長は136話だったりします。


それでは、これにて失礼します。

拍手[0回]

第81話 次の一手

「なっ!?」

目の前の光景に、律が固まった。

「ナイフが……」
「止まってる」

澪の言葉を引き継ぐように、唯が口を開いた。
唯たちの言うとおり、真鍋さんの手前でナイフは止まっていた。
まるで、そこに壁があるかのように。

「全く、苦労して頑張った人にやること? それ」
「それを言うのであればもう少しましな出方をしろ」

不満げな表情で空中で止まっているナイフを指差すそいつに、僕はため息交じりに言い返した。

「えっと……状況について行けないんですが?」
「浩君と和ちゃんって、そんなに仲が良かったっけ?」

そんな僕たちの様子を戸惑いながら見ていた律たちがある意味かわいそうに思えてきた。

「ほら、戸惑ってるじゃないか。いい加減ちゃんと元に戻れ」
「はぁい」

僕の小言に不承不承と言った様子で返事をすると、そいつは首元にあるタイを解いた。

「の、和ちゃんの姿が……」
「どんどん変わって行きます」

真鍋和の姿が崩れ、本当の姿に徐々に戻っていく。
やがて、そいつは本当の姿へと戻った。

「ふぅ……久しぶりね」
「何が久しぶりだ。この間勝手に来てたくせに」

一息つきながら白々しく挨拶をしてくる妹に、僕はあきれながら言い返した。

「あの時はぶっ倒れていたから会ったことにはなりません―」
「本当に変わらないな、お前」

妹のその姿は(というより心だけど)は未だに、昔のままだった。

「あのー、盛り上がっているところ大変申し訳ないんだけど」
「ん?」

そんな僕たちに、控えめに声を掛けてきたのは律だった。

「この人誰なの?」
「「あ」」

唯の問いかけで、みんなが会話に混ざってこない理由がわかった。

「そういえばこの間、自己紹介してなかったっけ」

僕の言葉に、放課後ティータイムのメンバー全員が頷いて答えた。
この前というのは、もちろん時間ループ事件のことだ。
あの時も、妹には僕の身代わりとして協力をしてもらった。
その時に、唯たちと面識はあるはずだが、名前を告げてはいなかったので、当然彼女たちが妹のことを知っているはずがない。

「それじゃ、ご挨拶だ」
「了解だよ」

僕の促す言葉に、妹は応じると数歩前に出た。

「はぁ~い☆ 私の名前は皆のアイドル、高月久美子でー―――ギャバン!!?」
「まじめに自己紹介をしろ」

馬鹿げた自己紹介をしようとする妹の頭に魔法でタライを5つ落とした。

「あんなやり取りをどこかで見たような気がする」
「奇遇だな、私もだ」

そんな僕たちを見ていた律たちがぼそぼそと何かを話していた。

(あー、なるほど慶介か)

慶介に制裁を下すのとほとんど同じだったことに、今僕は気付いた。
ある意味慶介は侮れない存在なのかもしれない。

「えー、高月久美子です。よろしく」

再び妹はみんなに自己紹介をした。
今度はかなりテンションが低いけど。

「あ、はい。よろしくお願い……高月?」
「高月ということは………」

妹の自己紹介に応じようとする唯たちだが、苗字の方に気が付いたのか、僕の顔と妹の顔を見比べはじめた。

「「妹だ(だよ)」」
『……』

一瞬部室内が沈黙に包まれた。

『えぇ!?』

かと思えば今度は悲鳴が響き渡る。

「ちょっと、そんなに驚くことか!?」
「だって、浩君に兄弟がいるなんて想像がつかなかったんだもん」

(皆の中での僕の立ち位置っていったい)

何だかとてもむなしくなってきてしまった。

「でも、この間言った時はいなかったけど」
「そりゃ、あの時は任務で不在だったからな」

8月に事故で魔界に来たときは、久美は任務で違う世界にいたため不在だった。
それもこの間終わったが。

「任務ということは」
「魔法連盟で兄さんの下で働いているのよ」

目を輝かせて興味津々といった様子のムギの言葉に頷きながら、久美は答えた。

「あの、久美子さんが―――にゃーッ!!?」

梓が名前を読んだ瞬間に、久美の攻撃魔法が彼女の耳元をかすめた。

「あ、こいつフルネームで呼ばれると今みたいなことをするから気を付けてね」
「それを早くいいなよ」

まさかいきなり下の名前で呼ぶとは思わなかった為、言わなかったことが仇となってしまったようだ。

(まあ、本気で当てるつもりはないだろうけど)

僕とは違ってそれくらいの分別はあるが、何も知らない人物からすれば恐怖であることには違いない。

「でも、一体どうして……」
「久美子の名前って”久しい”に”美しい”と”子供”という字で、自分が子供みたいだからいやらしいよ。だから”久美子”という呼び名はタブー。呼ぶんなら”久美”がいい」

昔、これが原因で家が半壊しかける騒動に発展したのだが、それはどうでもいいことだろう。

「それじゃ、久美さん?」
「別に呼び捨てでもいいのに」

澪の言葉に、久美はぼそりと声を漏らしたが、どうやら嫌そうな感じはしなかった。

「むむむ……」
「唯ちゃん、どうしたの?」

そんな中、腕を組んで唸っている唯に、ムギが不思議そうに尋ねた。

「閃いた!」
「……何が?」

まるで頭の上に豆電球に光がともったような勢いで声を上げる唯に、僕は少しばかり嫌な予感を感じながら意味を尋ねた。

「クーちゃんだ!」
『………はい?』

突然口にした誰かのあだ名と思わしき単語に、梓達だけではなく久美ですら目を瞬かせていた。

「まさかとは思うが、それ久美のことか?」
「うん! 可愛いでしょ?」

やはりというべきかなんというべきか、久美のあだ名だったようだ。

(しかし、何という命知らずなことを)

「…………」

あのようなあだ名を久美が何もしないわけがない。
これはもしかしたら大戦争に発展するかもしれない。
現に横にいる久美は、うつむいて肩を震わせているのだから。

(何としてでも怪我はさせないようにしないと)

「あはははは!!」
「はい?」

だが、久美の反応は僕の予想したものとは違っていた。

「”クーちゃん”って、何それっ。最高よ!」
「いいのか?」

久美の予想外の反応に、僕が戸惑う番だった。

「だって、子供だとは誰も思わないし、可愛いじゃない!」
「「「「「可愛い…」」」」」

久美の感受性には家族である僕ですら分からないことがある。

「平沢さん! 私はあなたのことが気に入った! 唯って呼んでいい?」
「うん! いいよー!」

そしていつの間にか二人は仲好くなっていた。

「えっと、ものすごく失礼なことを言っていい?」
「いいよ。僕も多分同じことを思ってるから」

律の確認の言葉に、僕は頷いて答えた。

「「ちょっとおかしい人だよな」」

僕と律の意見が一致した瞬間だった。

「それにしても、久美さんって唯先輩とお知り合いだったんですね」
「そりゃ、前に一回会ってるからな。あずにゃんもだけど」

楽しげに会話を始める唯たちを見ながら声を上げる梓に、僕はそう返した

「え? でも、私は会ったことなんてありませんよ」
「ある。時間ループの時に、僕の影武者をしたやつだ」
「えぇ!? だって、あの時はとても大人っぽいような印象だったの、にゃーー!!?」

梓が言い切る前に再び攻撃魔法が放たれた。
今度は直撃コースで。

「悪かったわね。あの時は正体を明かすわけにはいかないから、演技をしていたからね」
「はいはい。澪、梓を離して。何となくだけど、危ないから」
「わ、わかった」

これ以上は危険だと判断した僕は澪に梓を久美から離してもらうことお願いした。

「久美に何かを言う前に、一度考えることをお勧めするよ」
「は、はい」

僕の忠告に梓は小さく返事を返した。

「それにしても、貴女って人見知りで臆病な所があるみたいだけど、口調とかからはそんな感じはしないよね」
「え? な、なんで……」

久美の感心したような言葉に、澪が驚きで目を見開かせる。

「あんた、澪の精神干渉をしたな」
「い、いつ!?」
「兄さんが倒れた時」

澪の問いかけに、久美は簡潔に答えた。

「随分最近ですね」
「ここに来てみたら兄さんは倒れているしもう大変。しかもあなたたちが来るから薬も飲ませられなくて」
「薬?」

とりあえずということで席に腰掛けた久美は出されたお茶を飲みながら、ムギの疑問に答えた。

「これのことよ」
「草?」

久美が取り出したのは月見草だった。

「名前は月見草。私たちの国で取られる万能薬。かなり苦いけどこれを飲めば大抵の病気は治るわ。ただ、これは調合をしなければいけなくて――――」
「へぇ……」

久美の説明に、月見草をまじまじと見つめながら感心したような声を漏らす唯。

「感心したように言ってるけど、理解できてないだろ」
「え?! それは気のせいだよ! 浩君」

(絶対に理解できてない)

まあ、理解できなくて当然なんだけど。

「急須に入れて飲ませる準備は整ったけど、あなたたちから来たからしょうがなく」
「それじゃ、あの時起きた怪奇現象は」
「そ。私がやったの。貴女を操ったのも、兄さんに薬を飲ませたかったから。運ぶ人員は予想外だったから、全員に共通する人物に変装したの」

どうやら、慶介は久美の策略に巻き込まれてしまったようだ。

(なんだか慶介がかわいそうに思えてきた)

「皆もごめんなさいね。特に、澪さんには申し訳ないことを」
「あ、いえ。私はそんなに気にしていないですから」

申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする久美に、澪は手を振りながら答えた。

「いや、久美の言っているのはそういう意味じゃないと思う」
「干渉した時に、貴女の記憶を見てしまって」
「見た………ッ!?」

久美の言わんとすることがわかったのか、澪は恥ずかしさのあまり失神した。

「み、澪―、大丈夫か?!」
「えっと、これ私のせい?」
「はぁ……放っておけば回復するよ。今何かを言ったら逆効果だから」

戸惑いの表情を浮かべる久美の肩に手を乗っけて頷きながら返すのであった。










「それで、どうしてクーちゃんはここに?」
「それは兄さんに頼まれた物を届けるためよ」

唯の疑問に答えると、久美はどこからともなく紙媒体の資料を取り出した。

「どうもありがとう」
「全く兄さんって次から次に問題を引き込むよね」
「引き込みたくて引き込んでるんじゃない」

大げさに肩をすくませる久美に、僕はため息交じりに言い返しながら資料に目を通す。

「ねえ、その資料っていったい何?」
「脅迫状を送ったやつに関する個人情報」

唯の疑問に答えながら、さらに紙をめくる。

「何で、そんなものがここに?!」
「久美に調べてもらった。こういうことに関しては、久美よりも勝る者はいないから」
「諜報活動が私の役割だからね」

ツッコミ口調の律に答える僕に、久美は胸を張りながら口を開いた。

「まるで探偵さんみたい」
「そう言うけど、こいつにかかればその人物の知られたくない過去が何もかも全て丸裸にされるから、調べられる側からすればたまったものじゃないけどね」

そう言いながらも、僕はさらに資料を読み進める。

「っと、まあこんなものか」
「さすが兄さん。その読む速さには目を見張るよね」

資料を読み終えた僕は机の上に、奴に関する資料を置いた。

「それで、その人は一体どんな奴なんだ?」
「それは申し訳ないけどあなたたちに言うことは――「いや、いい」――兄さん」

身を乗り出して聞いてくる律に、申し訳なさそうに理の言葉を入れる久美の言葉を遮った。

「高月家の規約に反するわよ」
「別に反してはいないさ」

真剣な面持ちで忠告する久美に、僕は軽やかに返した。

「ねえ、”規約”って何?」
「高月家が調査で得た情報は部外者に漏えいしてはならないという物」
「他にもいくつもの条項があって、私たちはそれを守るように言われているの」

例を挙げるとすると”他の家系に権利行使ができるのは高月家に対して害をなす存在のみ”だったりする。
これを破ると最悪の場合は勘当となる。

「それじゃ、私たちが聞くとまずいよな」
「だから、どうしてマズイんだ?」
「だって、私たち部外者ですよ?」

僕の疑問に答える梓に、思わずため息が漏れた。

「あのね、奴は軽音部を廃部にさせようと画策した。つまり、ここにいる全員は被害者であり関係者でもある。ゆえに知る権利がある。これでもまだ部外者だというか?」
「…………」

少しばかり強引かもしれないが、それが僕の考えたロジックだ。
何より、知ってもらう方がメリットの方が大きい。
相手を知らずに、彼女たちに動かれればそれだけでこちらの計画は大きく狂うことになるのだから。

「情報を公開するが、条件は一つ。これから先のことは他言無用だ。ターゲットに対して忠告の道具にするのも。相手にこのことが知られた時こそ、これまでの苦労は水の泡になる。分かった?」

全員が無言で頷いたのを確認して、僕は先ほどの資料に明記されていたことを唯たちに告げることにした。

「ターゲットの名前は内村 竜輝。学年やクラスは唯たちと同じだ」
「内村って、あの人を見下したような感じのやつか」

名前だけで、顔をしかめる律をしり目に、僕は話を続ける。

「彼は”内村財閥”の御曹司。将来はそれなりのポストが保障されている。業界内でもかなりの影響力を持ち、まさに日本を代表すると言っても過言ではない存在だ」
「そう言えば、テレビでやっていたっけ」

内村財閥。
それは、金融や流通関係などあらゆるところに影響力を持つ企業だ。
当然、大富豪だ。

「その裏で、さまざまな悪事やらを行っている。こいつが、その記録」
「えっと……脅迫罪に賄賂、賭博、暴行、監禁、恐喝……って、どんだけあるんだよっ!」
「ざっと50犯以上だ。しかも暴力団の連中とも接点があるから、彼に逆らって生存が確認されているのは一人もいない」

僕の突きつけた真実に、唯たちが顔を青ざめる。

「他にも文部省やら財務省、公安等にも息がかかった者がいる。だから、何かをしてもすべて揉み消される」
「酷すぎますっ」

内村財閥の裏の顔を知った梓が、怒った様子で声を上げた。

「僕は、そう言うやつを何とかすることができる力がある」
「それって、魔法?」

ムギの言葉に、僕は首を横に振って応えた。

「権力だよ」
「権力?」
「高月家は大金持ちの家系や名家などに対抗する権力がある。それが調査と破門の二つ」

それが僕の持つ切り札だった。

「ねえねえ、破門ってあのドラマとかで良く出る奴?」
「ちょっとニュアンスは違う。僕たちで言う破門は、簡単に言えばその家の資産や財産、家財すべてを没収して家そのものの活動を止める行為のことを言う……分かる?」
「さっぱりわかりません!」

簡単に説明してみたが、簡単には言えなかった。
唯がわからなくて当然なのかもしれない。

「まあ、とりあえずすごい力ということだけを覚えてくれればいいよ」

それが一番確実だった。

「破門という行為は人権を無視しているから、やれば確実に僕たちは犯罪者になる。しかも公にすることも不可能だ」
「それじゃ、どうする気なんですか?」
「工作課の者たちを使う」

僕の出した策は工作課の職員を利用することだった。

「工作課?」
「あ、工作課っていうのはね、ここのように魔法文化の無い世界に任務に出る魔法使いの人をアシストする人たちのことよ」
「工作課の者たちは、出版業界や金融関係、教育や医療に公安系など様々な業種の場所に普通の人間を装って潜り込んでいる。主な任務は対象者の監視などかな」

新たに出てきた単語に首をかしげて率に、久美と僕は工作課について説明した。

「そう言えば、去年のクリスマスあたりに、あなたたちが監視されていたっていう記録があるけど」
「なんと?! 私たちはいつの間に危険人物に!?」
「それはちょっと言いすぎだと思うぞ」

律たちはそこまで危険じゃないのだから。

「クリスマス会で彼女たちの前で一発芸をするために魔法を使ったから」
「あー、確かにそれなら監視されても仕方ないかも」

糾弾しないあたり、僕がばれないように細心の注意を払ったことは分かっていたみたいだ。

「やっぱりあれって魔法だったんだ」

”やっぱり”という単語が出てくるのは、僕が魔法使いであることがわかったからなのか?
それとも、それよりも前に考えていたからなのか。
それが全く分からなかった。

「ちなみに、ここの学校にもいるからね」
「いつの間に!?」
「し、知らなかった」

実は先回り形式で潜り込むため、気づけばそこにいるのが工作課の特徴だ。

「ちなみに、探し出すのは困難だよ。催眠術で深層心理レベルで不自然がないように思いこましているから。聞きまわったりしたら変人扱いされるし」
「それに、当たりを引いたら面倒なことになる。工作課の人たちのことは気にしなくて平気よ。何もしなければ味方なんだから」

僕の言葉に続くように久美が補足した。
皆には言っていないが、工作課の存在は僕が生きるためには必要不可欠な存在だ。
それが、お金。
魔界の通貨は、日本円だ。
その所以は、魔界の者が最初に向かったのが日本だからというのがあるが、真相は不明だ。
故郷にあるお金を、ここに持ち込んで利用すれば、お札が大量に出回ることになり、それはこの国の財政をより悪化させる可能性がある。
それを防ぐのが金融関係に入り込んだ工作課の者たちだ。
どうやって課は知らないが、僕の所有する故郷のお金と引き換えにこの国の通貨に変換してもらっているのだ。

「僕はこれまで、こういう連中のやり口を見てきたから次に起こす行動は手に取るようにわかる。そこで、僕たちは次の一手を打とうと思う。そこでみんなに協力してもらいたいことが一つある」
「それは一体何? 浩君」

首をかしげながら聞いてくる唯たちに、僕は協力してもらいたいことの内容を告げるのであった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんにちは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回もまた、あれな内容です。
突如降ってわいた廃部の話に、浩介はどのような手を打つのでしょうか?
そして、和の運命は? 
そんなところで、次話へと続きます。

さて、拍手コメントの返信を行いたいと思います。

『面白い展開ですね』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
これからも、おもしろいと思っていただけるような展開を目指して努力していきたいと思います。
何気に80話を突破していたりしますが(汗)


それでは、これにて失礼します。

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