健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
これより、番外編の内容に入ります。
しばらくはこんな感じが続きますが、少し続いたらいよいよ3年生編に移ります。
そちらでも様々なネタをご用意しておりますので、楽しみにしていただければ幸いです。


それでは、これにて失礼します。

拍手[0回]

PR

第93話 移ろいゆくもの

11月下旬。
季節はすっかり冬へと移り、ひと肌恋しい季節が訪れようとしていた。
周りを歩く女子生徒は、みなマフラーやらカイロやらで寒さを紛らわしている。

「はぁ……」

試しに息を吐いてみると白い靄のようなものが出てきた。
季節はもう冬だ。
僕はここのところ毎日ある場所に立ち寄っている。
それはとある橋だ。
そこに差し掛かった時、ツインテールの髪形の女子生徒の姿があった。

「何をやってるんだ?」

しゃがみこんで何かに手を伸ばそうとして、逃げるように走り去っていった。

「………あぁ、なるほど」

少し近寄ってみると、そこには虎次郎の姿があった。

「おはよう、虎次郎。はい、いつもの御飯だよ」
「にゃ~」

下から差し込むように魚の切り身の入ったアルミパックを差し出すと、口元に黒い模様の入った猫はそれを食べていく。
この猫は、この間偶々見つけた野良猫だ。
本来であればこのようなことはしないが、魔が差したのか僕は今でも餌やりを続けている。
可愛げは全くない。
というより最初は威嚇されたりもしたが、最近はそんなこともなく頭を撫でても威嚇することもなかった。
そのうち飼い主と誤解してついてくるのではないかとも思ってしまったりするのだが、さすがに考えすぎだろう。

「それじゃあね、虎次郎」

食事を終えた虎次郎の頭を軽くなでると、アルミパックを回収して僕はその場を立ち去った。
ひと肌恋しいお寒いこの季節。
僕の心はどこかホッカホカだった。










「寒いな、浩介」
「なにだらしないことを言ってるんだ……”男たるもの寒さには強くあれ”だぞ。まあ、確かに寒いけど」

教室で寒さに体を震わせている慶介に、僕はため息交じりに言った。
そんな時、僕の席に近寄る数人の女子生徒の姿が目に留まった。

「高月君でも寒いって感じるんだね」
「超人だから寒さも厚さも感じないって思ってたんだけど。やっぱり高月君も普通の人だったんだね」
「お前らは僕をなんだと思ってるんだ?」

女子生徒たちのあまりな言葉に、僕はジト目で追及する。
まあ、言いたいことは分かるけど。

「だって、夏なんて暑いのに平然と汗もかかずにいたじゃない」
「慣れの問題だ。もっと熱いところにも行ったことがあるんだから、ここの夏の暑さなんてまだまだ可愛い物だ」

任務で様々な世界に行くことがある僕の仕事上、仕方がないのかもしれないが中には劣悪な環境の世界もある。
気温数百度の灼熱地獄もあれば、氷点下90度越えの所だってある。
そう言った場所に対応できるように訓練を積んでおり、ある程度であれば耐性が出るようになっていた。
とはいえ、暑いものは暑く、寒いものは寒いわけだが。

「はぁ。寒くても、暑くても浩介はモテるんだよな。不公平だよな」
「不公平って……」

慶介の嘆きに、僕は言葉を失った。

「ちくしょー。なぜだー、なぜ俺だけモテないんだー!」
「それは……」
「やっぱり……」
「性格じゃない?」

慶介の言葉に、女子生徒から周りに回って僕の方に来たため、思いついた理由をそのまま口にした。

「あの、それは逆にダメージがでかいんですが」
「知るかっ!!」

季節がどうなろうと、僕たちはある意味いつも通りだった。










放課後、いつものように部室に集まった僕たちは唯が来るのを待つことにしたのだが……

「暗くないか」
「明かりでもつけるか?」

僕の言葉に反応した律がこっちを見ながら聞いてきた。

「いや、照明じゃなくて雰囲気が」
「冬だからこんなものだろ」

(冬と雰囲気が暗いのとどういう関係があるんだ?)

律の言葉の意味が、僕にはまったく理解できなかった。
もしかしたら冬の空気というのは人の雰囲気を暗くする何かが、あるのかもしれない。
そんなこんなで、再び部室内が沈黙に包まれた。
先ほどからずっとこのような感じなのだ。
さすがに冬だからと言って雰囲気まで暗くされるのはたまったものではない。

(抗議してでも元に戻してもらうか)

そんなことを考えた時だった。

「うぅぅ~、寒いぃぃぃ~」

体を震わせながら唯が姿を現した。
そしてそのまま流れるように僕の横に腰掛けた。

「律ちゃん、お寒いですな」
「お寒うございますね~」

(それはどこのおばあさんだ?)

口にすると何だか面倒くさいことになるような気がしたので、あえて何も言わないことにした。

「あ、律ちゃん」
「何だ唯―――――ひゃああああ!!?」
「おぉ~、あったかい―」

ふと何かを思い出したような表情をした唯は律の頬に両手を触れさせた。

「何を、するんだっ」
「ひゃああああ!!!?」

律もやり返す形で、一気に部室が賑わしくなる。

(さすが唯。雰囲気を変えるのが上手だ)

もはやそれは素質なのかもしれない。

「こうなったら、ぴと」
「ッ!?」

いきなり腕に抱きつく唯。

「うん、やっぱり浩君はあったかあったか、だよ~」
「あはは、僕もだよ」

寒さなど感じてもいなかったが、体の内側から暖かくなるような感じがする。
きっとそれがひと肌なのかもしれない。
どんどん僕は元気になっていくような気がした。
きっと唯の力なのかもしれない。

「………なんだろう、寒いはずなのにそれが気にならなくなるこの感じは?」
「私も、なんだか寒さが吹っ飛んだよ」
「私はもう慣れました。でも、暑いです~」

それを見ていた周りが別の意味でぐったりとしてしまったが。





そんなやり取りもひと段落したところで、練習を行うことにした。

「うーん、寒くてギー太が弾けないよー」
「何、洒落ごとを」

唯の漏らした言葉に、僕は冷たく返した。
それほどくだらない理由だったのだ。

(まあ、気持ちは分からなくもないけど)

「そうだ! 手袋をすればいいんだっ!」
「やってみろよ」

唯が名案だとばかりに口にした案が、どのような結果をもたらすのかがわかったのか苦笑しながら律が促した。
それを受けた唯は手袋をはめるとピックを持とうとするが

「ピックが持てないよ~~」
「そこからかいっ!」

ピックをお手玉のように弾く唯に、思わずツッコみを入れてしまった。
そんなこんなで、ようやくピックを持つことができた唯は、弦を抑えてピックを持った左手をストロークさせる。
聞こえた音色は、伸びが悪くミュートしているようなものだった。
つまり、簡単に言うと

「あぅぅ、弾けない!」

ということだった。
すると、何を考えたのかギターを横に置いて手袋を外すとそれを先ほど自分が座っていたベンチに置き、それを指差して

「失望したっ!」

などと叫んだ。

(まあ、ある意味予想通りの結果だけど)

弾けた方が僕にとっては驚きだ。

「当たり前だ。なあ、律?」

そんな唯に言った澪は、律にも同意を求めようと声を掛けるが、返事が返ってこない。

(ん?)

「律?」

澪が再度声を掛けるが、やはり反応がない。
ぼーっとどこかを見ているだけだった。

「律、どうしたんだ~?」

僕はドラムの椅子に腰かけている律の顔の高さに合わせてかがむと手を振りながら声を掛けた。

「ッ!? きゃ!!」
「たんぺ?!」

一瞬何が起こったのか理解できなかった。
だが、左頬からじんわりと伝わる痛みが何が起こったのかを物語っていた。
叩かれたのだという事実を。

「………………なぜ?」
「あ、わ、悪い。浩介の顔が目の前にあったから、びっくりして」

慌てて謝ってくる律だが、僕は怒りよりも疑問の方が強かった。
窓側に移動して首を傾げ続ける。
窓から伝わる冷気がなぜか一番冷たく感じた。

「浩介先輩大丈夫ですか?」
「僕の顔って、ビンタされるほど変なのか?」

心配そうに声を掛けてくる梓に、僕はそう尋ねた。

「い、いえ! 浩介先輩は何も悪くないですよ!」
「そうだよ! みんな冬が悪いんだよ」

梓に続いて唯が返事を返した。

「冬のせいにしないでください」
「あ、そうだよね。冬でもいいことはあるもんね」

何とか立ち直れた(というより、深く考えるのが馬鹿馬鹿しく思えてきた)僕は窓から視線を外した。

「あ、そうだ! 今度の日曜日皆で鍋をしようよ!」
『……………』

唯の唐突な提案に対して、みんなの反応は冷ややかなものだった。

「あれ?」
「ごめんなさい。その日は私、用事があって行けないの」
「私も。弟を映画に連れてく約束をしてるから」
「私も、その日は家から出られそうになくて」

ものの見事に用事が重なっていた。
ここまで来ると作為的なものを感じる。

「えぇ~………澪ちゃんと浩君は?」
「私も、歌詞の方を考えたいから」
「そんなぁ~」

澪の返事に、悲しげな表情を浮かべる唯に、圧された澪は視線を逸らした。

「いつも唯や律が邪魔をして作詞に集中できないんだよ」

そう言って床に置いたのは一冊のノート。
それは澪が作詞をするときに詩を綴る物だった。

「ほら」

それを開いた澪は見るように促したので、それを覗き込んだ。

「なんだ、これ?」

そこにはページ一杯に色々な絵が描かれていた。

(これはいつから作詞ノートからお絵かき帳になったんだ?)

そんな変な沈黙が走る中、これを書いた主犯の二人はというと

「「申し訳ありませんでしたぁっ!」」

土下座をして息を合わして澪に謝っていた。

「あ、それじゃ、浩君は?」
「僕も無理だ」

こちらの方にも及んだ問いかけに、僕はきっぱりと告げた。

「そ、そんな……」
「おやおや、もしや不倫ですか?」
「はぁ!?」

にやりとほくそ笑んだ律の一言に、僕は首をかしげる。

「そうなんですか!?」

何故だか僕に不倫疑惑がかけられてしまってる!?

「信じてたのに……」
「浩介君、それは人として最低よ」

そして非難の目が向けられる。

「だぁぁぁ!! 不倫なんかするわけないだろうが! 僕が愛してるのは唯だけだっ!!」
「ッ!?」
「おやおや~、お熱いどすなぁ」

僕の大声の告白に、唯の顔が真っ赤になる。
そんな中、律のいたずらっ子のような表情が全てを物語っていた。

(嵌められたっ!)

「浩介先輩、恥ずかしいことを大きな声で言わないでくださいっ」
「………………」

もう、何も言うまい。

「そ、そそそそれで、どうしていけないんだ?」

そんな中、澪によって話題が変えられた。
まあ、ドモらなければもっとよかったんだけど。

「一回故郷の方に戻るから」

答えも非常に簡潔だった。

「故郷って、魔界ですよね? どうして戻るんですか?」
「新人のバカがどうも気が弛んでいるようだから、一回徹底的にしごいてやるんだよ」

それはこの間父さんから言われたことだった。

『管理センターの新人がどうも気が弛んでいるらしくてな、遅刻をしたり転送ゲートの座標を間違えたりしている。このままでは任務に支障が出る故、お前の方で性根を叩き直してもらいたい』

それが、父さんの指令だった。

「ついでに、年始に行う仕事も一緒に片づけてくるから帰るのはかなり遅くなると思う。まあ、年末年始はゆっくりしたいからね」
「むぅ……それじゃ、ギー太と憂の三人で鍋にしよう」

(三人……なのか?)

何だかツッコんではいけないような気がするんだが、すごく気になった。

「ギター汚さないでくださいよ。この間メンテナンスしてもらったばっかりなんですから」

ティーカップを手にしながら注意をする梓に、唯はピースサインをしながら口を開いた。

「大丈夫だよあずにゃん。ちゃんと前掛けをするからー」
「……ならいいですけど」
「いいのかよ!?」

梓の反応に思わずツッコみを入れてしまった僕だが、みんなもそれは同じだったようで、梓の方に視線を送っていた。
そんな冬の部活風景だった。





「あ、浩君。寄り道していい?」
「別にかまわないけど、どこに行く気だ?」

帰り道、全員と別れふたりきりになって少ししてから聞いてきた唯に、僕は疑問を投げかける。

「コンビニ♪」

何のためらいもなく、笑みを浮かべて告げたのはそれだった。

「なぜにコンビニ?」

(今日はみんなおかしいな)

律はいきなり顔を叩くし、ムギは突然どこかに行くし、梓は”おもちゃ”を買いにどこかに行くし、唯はなぜかコンビニに行こうとするし。

「何の食べ物を買うんだ?」
「あぁ!? 浩君、私の心の声を読んだんだね」

当たりだったのか頬を膨らませて抗議の声を送る唯に、僕はため息をついた。

「心を読むまでもない。さっき唯のお腹がかわいらしくなってたし」
「あうぅぅ~、浩君のイジワル」
「はいはい、むくれないむくれない」

気づかれていないとでも思ったのか、頬を膨らませる唯に、僕はなだめながらコンビニへと向かうのであった。





「にっくまーん、ホッカホカ~♪」
「良いよな、お前は何事にも幸せそうで」

当たり前のことなのに、それを嬉しそうに喜んでいるのはある意味才能なのかもしれない。

「浩君は私といて楽しくない?」
「そんなことはない。ただ、唯のように何事にも楽しむという感覚がわからないだけ」

悲しげな表情を浮かべる唯から視線をそらして、僕はそう返した。

「それじゃ、浩君はこれからそれがわかっていくんだね」
「…………そうだな」

そのような日が来るかはわからないが、僕はそう返しておくことにした。
その日が来るときこそ、僕は本当の意味で変われるかもしれないから。

「ということで、浩君には肉まんを半分進呈しよう!」
「どうも」

唯から肉まんを分けてもらった僕は、それを口にする。
肉まんの生地に入った肉が、実に絶妙な味を出していた。

「どう?」
「最近のコンビニはレベルが高いんだね」

唯に促されて出てきたのは、そんな言葉だった。

拍手[1回]

『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回で話はいったんの区切りを見せました。
いよいよ次話からは番外編の内容となります。
此処から次なるステップの話に移りますので、楽しみにしていただけると幸いです。

さて、拍手コメントの返信を行いたいと思います。

『今回はいろんな話のネタがありましたね』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
確かに、色々なネタがありました。
例えばBLネタとか。
慶介というキャラは意外に動かしやすいので、大好きだったりします。


それでは、これにて失礼します。

拍手[0回]

『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回で、留学生の話は終わりとなります。
そして終盤のほうでまたBL要素がありますが、これはあくまでもネタですので、苦手な方はご注意ください。

さて、拍手コメントの返信を行いたいと思います。

『いなくなるんですか留学生』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
はい、その通りです。
交換留学生なので、期間が終了すれば帰っていくのが当然の結果です。
本当は、前々話あたりの話を掘り下げたかったのですが、大人の都合でカットということに……
違う話では、もう一度トライしてみたいと思います。


それでは、これにて失礼します。

拍手[0回]

第92話 サプライズとお別れと

ついに運命の日を迎えた。

「よし」

昼休みの終盤に差し掛かったところで、僕は席を立った。
そしてその足で向かうのは、佐伯さんのところだ。

「佐伯さん、ちょっといいかな?」
「何?」

声を掛けると、今まで話していた女子たちから視線をそらして用件を尋ねてくる。

「一つ、お使いを頼まれてくれないか?」
「へ?」

僕の言葉に、予想していなかったのか驚きのあまりに目を瞬かせる佐伯さんの前に、ジョンへの宛名を記した一通の封筒を差し出した。

「留学生のところに行って、これを渡してもらいたいんだけど」
「えっと……自分で渡せばいいんと思うんだけど」

僕の頼みごとに、困惑した表情で言ってくる佐伯さんに、僕は肩を竦めて答えた。

「この間偉そうに言った手前、自分から行くというのは少し憚られるから」
「高月君ってそういうところ真面目よねー」
「そうそう。別に気にしないのに」

苦笑しながら理由を言う僕に、周りにいた女子たちは笑いながら相槌を打った。

「それに、僕クラス知らないし」
「あー……」

補足する形でつぶやいた僕の言葉に、佐伯さんと話していた女子が苦笑しながら声を上げた。

「分かったよ。その代わり……」
「……なにこれ?」

佐伯さんの手から僕に手渡されたのは、一枚のチラシだった。

「ここのケーキを私たちに奢ってね♪」
「チョイ待て、なんで佐伯さん以外にも」

それは有名なケーキ屋さんのチラシだった。
ケーキの味はお墨付き。
フランスなどでの賞をいくつもとっているパティシエールが作っているらしい。
そのため一個一個のケーキの値段が、べらぼうに高いのだ。
コンビニにあるショートケーキの2~4倍と言ったところだろうか。

「だって、私たちも行くし☆」
「それぼったくり!?」
「じゃ、よろしくね~」

僕のツッコミをスルーして佐伯さんたちは教室を去っていった。
僕の手紙をジョンに届けるために。

「浩介」
「何? 慶介」

そんな彼女たちの背中を見送っていると、肩に手を乗せながら慶介が話しかけてきた。

「大丈夫。いいことと悪いことはセットで来るものさ」
「何でだろう、お前に同情されると無性に腹が立つのは」

うんうんと頷きながら励ましの言葉に、僕はなぜか怒りが込み上げてきた。

「平沢さんと付き合ったことで、男子から呪いを与えられたのだっ! 俺という名のっ!」
「いや、意味わからないし」

いきなり呪いと言われても、話の筋が全く理解できなかった。

「だから、身から出たさびというか、自業自得ということだぜぇい!」
「……………………………呪いならば、払って見せよう、力ずくで」

僕はサムズアップしながら耳元で大声を上げる慶介の手を振り払って、慶介と対峙する。

「あ、あの。顔が怖いですよ。浩介さん」
「ふふ、ふふふふふふ」

僕は元凶と距離を詰めていく。
そして僕は、

「ぎゃあああああああ!!!!」

呪いを払いのけるのであった。










「準備はできた?」
「こっちは問題なし!」
「私もよ」
「私も」
「私もです」
「私もできているであります!」

放課後、軽音部の部室で演奏の準備をしていた僕たちは、お互いに確認を取り合って状況を確認した。
もうすでに演奏ができる状態になっていた。

「山中先生の方は?」
「さわちゃんはあそこでお茶を飲んでもらってれば問題はないと思う」

今回の一番のネックは山中先生だった。
ジョンは現在この学校の生徒ではないのだ。
放課後、HRを終えたのと同時にジョンは他校生となったのだ。
そんな彼が校内にいるのを教師に見つかるのは、避けなければいけないのだ。
ただ、山中先生はこの部活の顧問を担っている。
当然、部室に来ることになる。
来ない日もあるが今日は来ないということを保証できるわけではない。
山中先生にはお茶を飲んでもらっている間にベンチに腰掛けてもらうつもりだ。
そうすればばれにくくなると思ったからだ。
本当であれば、しかるべき場所に申請をすればいいのだが、完全に私用のために、生徒会や風紀委員に協力を求めることもできない(というより、そもそも承認されるわけがない)ため、現在危ない橋を渡っている状態なのだ。

「よし、頑張って演奏しよう!」
『おー!』

皆で気合を入れたところで、部室のドアが静かに開いた。

「浩介、言われた通りに来たけど……」
「オルコットさん、そこに座ってください」

困惑した様子で訪ねてきたジョンに、ムギは人当たりのいい笑みを浮かべながらジョンに英語で告げた。

「さあさあ」
「そ、それじゃ」

促されたジョンはベンチに腰掛ける。

「これから演奏するのは浩君が友人に感謝の気持ちを込めたカバー曲です。聞いてください『翼をください』」
「1,2,1,2,3,4!」

唯のMCと同時に律が早いテンポでリズムコールをする。
そして曲が始まった。
アップテンポでメリハリの効いた曲が、部室を包み込む。
その曲に唯の柔らかな歌声でさらに場を和ませ、ムギと律に僕がそれを支えていく。
そして澪の歌声で広がりすぎた曲調を引き締める。
この曲は軽音部が始まるきっかけとなった曲。
そして、それは今目の前にいる友人に感謝を告げる曲へと変貌していた。
まるでみんなが一つになったような錯覚を感じるほどにまで、曲の完成度は高かった。

(あれ?)

そんな時、僕は何かを感じた。
ただそれは、違和感などのようなものではない。
ただ、なんとなく頭に引っかかっただけだ。

(今は曲に集中しよう)

僕は自分にそう言い聞かせることで、演奏の方に再度集中する。
唯のギターパートで曲は終わった。
それはまさしく駆け抜けるような速さだった。
そして、僕たちに贈られる観客からの拍手は、それが成功したものだということを現していた。










「はぁ。うまくいってよかった」

夜、自室のベッドで横になった僕は、息を吐き出しながらつぶやいた。
ジョンへの感謝の気持ちを曲に乗せて送るという僕の提案は、見事成功の結果を収めることができた。

(今頃ジョンはどのあたりにいるんだろう?)

時間的にはまだイギリスにはついていないはずだ。

『ありがとう』

別れ際に言われた嬉しそうな表情を浮かべたジョンのお礼の言葉は、今でも僕の心の中に残っている。

(一体なんだったんだろう?)

そんな中、ふと思い浮かぶのは、演奏中に感じた違和感。
どうしてなのかは分からないが、考えられるものとしては

(もしかして、いい演奏をしていたから?)

というものであった。
別に自惚れているわけではない。
これほどまでに、時間の流れを忘れるほどいい演奏をしたのはあっただろうか?
答えは否だ。
おそらくは、今までで一番いい感じの演奏をしたと思う。

(やっぱり、進化している)

そう、その一言に尽きるのだ。
唯たちは凄まじい速度で進化して、次のステップに踏み込もうとしている。

(これならば、もしかしたら)

第二のH&Pになるのも時間の問題なのかもしれない。

「だとすれば、彼女たちは僕の………ライバルになる」

これまではあくまでも土俵下でのやり取りだった。
でももし、同じ土俵に立つというのであるならば、僕は彼女たちと争うことになるだろう。
そして、僕は負けるつもりは一切ない。

(いつの日か、対決できる日を楽しみに待つことにしよう)

僕はいつか来るかもしれない対決の日を夢見て微笑むのであった。










「それで、今度は何の用?」

またある日の休日、僕はいつぞやのように慶介に家に来るように言われ、ギターの練習を切り上げて慶介の家に来ていた。

「まあまあ、入ってくれよ」

今度案内されたのは、リビングだった。
テーブルには見たことのない花が置かれていた。

「また惚れ薬とかを混ぜてるんじゃないだろうな?」
「そんなことはもうしないって」

何気にこの間の惚れ薬混入のことを根に持っている僕は、目を細めて慶介に確認して、大丈夫だと判断した。

「実はこの間の惚れ薬は、ある植物からできているらしいんだ」
「植物?」

なんとなく嫌な予感がした。
例えば、目の前に置かれた強烈なにおいを発している謎の植物とかが。

「これがその花らしいんだ。おっと、匂いを嗅がない方がいいぜ。常人だと嗅いだだけでコロッと行く場合があるから」

(ずっと匂いを嗅いでも何も変化がない僕は、いったい何なんだろう?)

効かないのかもしれないが、僕は植物から距離を取った。

「ふははははは」
「………」

その植物を慶介はあろうことか花に近づけると思いっきり匂いを嗅いだ。
そして、ゆっくりと鼻を元の場所に戻した。

「よくよく見ると、あの人結構美人だよな」
「……………」

慶介が指し示す先に視線を向けるとカレンダーが壁に掛けられていた。
そこには盆踊りで踊っているおばあさんの姿があった。

「慶介、またバカ効きだぞ」
「え? 俺ってウザイ?」

返ってきたのは、全くもって的外れな内容だった。

(会話が成立していない!?)

どう考えてもそれしか思い当らなかった。

「浩介、今日は何か違くない?」
「………はぁ!?」

唐突におかしな事を猫なで声で言い出す慶介に、僕は素っ頓狂な声で叫んだ。
というよりこの光景は何だかひどく既視感を覚えるのだが。

「あぁ、髪を切ったのか」
「け、慶介?」

この間よりも何だか目が血走っていて怖い。
しかも今度は鼻息も荒いし。

「口づけというのは生物に共通するコミュニケーションさ。さあ、目を閉じて」
「………ひ!?」

いきなり肩を力いっぱいつかんできた慶介は、再びわけのわからない言葉を口にした。

「しねえええええええええ!!!」
「ぎゃーーーーーーーー!?」

背筋が凍りついた僕は、条件反射で慶介の顔面を無我夢中で殴り続けた。

「………は、はは。男、佐久間慶介。愛に生き、愛に死ぬ……ガク」
「何が愛だ。バカたれが」

とりあえず惚れ薬の大元となった植物は燃やしておき、僕はそこから逃げるように立ち去るのであった。

(あいつ、いつかホモ疑惑が流されるぞ)

そんな友のことを心配しながら。
ちなみに、液体の方は適切な手段で処分をしているため、探しても見つかることはないだろう。

(あいつはそうまでして、女子にモテたいものかね)

思わずため息が出てきそうになるが、完全に持っているものの余裕のような気がするので、心の中に留めた。
そんなこんなで、僕は自宅の方へと戻っていくのであった。










『DK、ライブの件正式に決まったぞ』
「そうですか。どうぞ」

夜、自室で予習復習をしているさなかにYJからかかってきた電話の内容は、今年最後となるライブについてのことだった。
僕は、次のライブの詳細を話すよう、YJを促した。

『時間は30分、使用する楽曲は3曲ほどが限界だろう』
「そうですか。楽曲名の方は決まりましたか?」

本当に小規模のため、こちらに割り振られる時間の方もかなり短くなっていた。
だが、僕たちには不満等はない。
演奏する場所(ステージ)があるだけでも、十分にありがたいのだから。
昔は場所探しから奔走していたのだから、今考えれば非常に恵まれていると言っても過言はなかった。

『いや、それはまだだ。それで、楽曲を決めるために、明日そっちに行くから、準備をしておけ』
「分かりました」

YJの指示に応じた僕は”失礼します”と、告げてから電話を切った。
そして先ほどまで腰かけていたベッドから立ち上がると、僕は窓際の方へと歩み寄った。

「いよいよか」

そしてぽつりと僕はつぶやいた。
これまで9月のライブを最後に小休止を取っていたH&Pだったが、再びライブ活動を再開させる時期に突入していたのだ。
ここから先は年末年始を通して忙しくなることが予想されている。
なにせ、

「2月には大規模なライブがあるんだから」

2月のライブが年度末最後の大規模なライブとなるのだから。
このライブでの一番の目玉はやはり、”NEW STARS PROJECT”だろう。
今回から1時間に拡張された事と、これまでこのプロジェクトに応募・当選したものにも参加権を与えていることから、かなりの選考難易度が考えられる。
拡張できたのは、ひとえに社長の努力のおかげだ。
本当に社長様様である。

「これから忙しくなるな」

言葉とは裏腹に、僕の心の中はわくわくしていた。
やはり、演奏をしているときが一番僕にはスッキリできる時間だからなのかもしれない。
放課後ティータイムの方も、特に用事がなければライブはないはずなので、十分両立はできるだろう。
ただ、ライブの日などはどうしても部活に参加できなくなるので、こればかりは仕方のないことだ。

「さぁて、これからも色々とがんばりますか!」

こうして僕は、年末年始に向けて気合を入れるのであった。

拍手[1回]

カウンター

カレンダー

05 2025/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

最新CM

[03/25 イヴァ]
[01/14 イヴァ]
[10/07 NONAME]
[10/06 ペンネーム不詳。場合によっては明かします。]
[08/28 TR]

ブログ内検索

バーコード

コガネモチ

P R