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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第29話 テストと代行者

「ん………」

それは突然だった。
まず聞こえたのは鳥のさえずりではなく、遠くの方で聞こえる学園の予鈴の音。
次に見えたのは最近見慣れた天井だった。

「そうか……倒れたか」

僕は即座に自分に何が起こったかを悟った。
魔族や神の力を完全に制限した状態での高の月武術の連続行使。
それは体に重大な負荷をかけることでもある。
元々高の月武術は、近接戦闘能力が高くない人物でも多少ではあるが戦えるようにするための簡易的な術という名目で僕がはるか昔に作り上げた物だ。
その仕組みは自分の持つエネルギーを媒体(剣や薙刀、拳など)に収束させて様々な効果を持つ技を放つもの。
それ故、使いようによっては人間にも扱うことは可能なのだ。
だが、高の月武術は腕や体中の筋肉を酷使するため、使えば肉離れ等が起こる可能性もあるため使い方は僕以外には伝えていない。
要するに、これが扱えるのは僕だけだ。
だからこそ、今回のような副作用は全く持って想定外だった。

(結局、迷惑かけちゃったし)

僕が気を失った後、どうやってここまで運ばれたのか(おそらくは神楽やシンたちが運んでくれたのだろう)は定かではないが、皆をかなり心配させた事は簡単に想像がつく。

「あれ?」

起き上がった僕が目にしたのはラップを掛けて置かれた、やや大きめなお皿の上に置かれたおにぎりだった。
そのお皿の近くにはメモが置かれていた。

『これを食べて元気になってね』

おそらくは神楽の物だろう。
そして悲しきかな。
おにぎりを見た瞬間に、体はお腹がすいたと猛アピールをし始めた。

「ありがとう。いただきます」

作ってくれたであろう神楽にお礼を言うと、僕はおにぎりを口に頬張る。

「ッ!?!?」

次の瞬間、体中に雷が落ちたような衝撃が走った。
別に毒が入っていたわけではない。
ただ、

「甘い」

とても甘かった。
おそらくは塩と砂糖を入れ間違えたのだろう。

(さすが、闇鍋をして料理を作るのを禁止になっただけのことはある)

少し前の闇鍋事件を思い浮かべた僕は、苦笑せざるを得なかった。

「残さず食べる。それが僕の感謝の気持ち」

僕は、地獄に身を投げるような覚悟で残り三つのおにぎりに手を付けるのであった。
ちなみに、味は察してもらいたい。










「もうこんな時間だし、みんな作業を始めてるかな」

神楽の砂糖おにぎりの処理に思ったよりも手間取り、学園に到着した時には、放課後となっていた。
とはいえ、もともと起きた時間からは1時間ほどしか経ってはいないが。
勝手知ったる何とやら、もう一週間も入り続けている生徒会室に僕はノックをせずに入った。
最初に感じたのはどんよりとした空気だった。
まるでこの世の終わりだと言わんばかりの雰囲気に、僕は動けなくなった。

「テストか……」
「テストね……」
「テスト……」

それぞれの口から紡がれる単語と、深いため息は何となく理由が分かったような気がした。
どうやらテストが嫌なようだ。
とは言え、ごく一部はテスト大歓迎というスタンスで良そうな気がする人物も含まれるが。
そして、そんな中に響くシャッター音とフラッシュ。

(ん?)

そこにはなぜか、あの赤い髪の女子学生が立っていた。
手にはとても大事そうにカメラを手にしながら。

「よ、容赦ないね」

そしてリアさんは苦笑しながら女子学生に言っていた。

「一体テストがどうしたんだ?」
「あれ? 高月君」
「もう体は大丈夫なの?」

声をかけたことで、それぞれが心配そうに尋ねてくる。

「ええ。ご心配おかけしました」
「まったくよ」

聖沙さんからきつい言葉が返ってきた。
前に無理をしないという約束をした手前、罪悪感を感じていたりする。

「それで、テストが何?」
「あぁ、実はね」

僕の疑問にシンが答えてくれた。
どうやら来週からテストがあるらしい。

「いいじゃん。シンは一夜漬けが得意なんだし」
「僕はさ、今まで最低限の予習復習を万全にしたうえで、テスト前に一夜漬けしていたんだよ。今回はその下ごしらえが全くないんだ」

(何、その微妙にすごい勉強法は)

一夜漬けというよりは追い込みにも近い。

「ふふふ。みなさん暗いですよ。私なんかもうばっちりですよ」
「「「「「ええっ!?」」」」」

ロロットさんの言葉に、全員が驚いた声を上げる。
かくいう僕もだが。

「裏切られた気分だわ」
「ロクでもないオチがつく予感がするぜ」

何だかロロットさんへの扱いがひどいような気がする。
とはいえ、同じようなことを思っている僕も人のことを言えないが。

「じたばたするからいけないのです。最初から―――」
「あー、それ以上言わないでいい」

大賢者の言うとおり、ロクでもないオチがついた。

「というより、そんなことをしているとそのうち人生のどん底に落ちると思う」
「ガーンっ」
「容赦ねえぜ」

僕の一言で地面にうずくまるロロットさんを見た大賢者にそう言われてしまった。

「パッキー並みの毒舌だね」
「おいおい、俺様でもそこまで言わねえぜ」

(いや、この毒舌。あんたのがうつったんだけど)

昔はここまで毒吐きではなかったと自負している。
尤も、口にはできないが。

「それにしても、さすがは先輩です。こんな時でも落ち着いていらっしゃるなんて」
「ごめん。私三年生だからテストないんだよ」
「リア先輩、声に出さずに口だけを動かすのはやめてください」
「今、重要なことを聞き漏らしたような気がするよね」

ナナカさんが疑いのまなざしをリアさんに向ける。
まあ、おそらく彼女たちの中ではある意味重要なことだろう。

「………何も言ってないから大丈夫だよ」
「言ってないって。はっきりとテストが――「浩介君」―――っ!?」

あきれながらもテストがないと告げようとした瞬間、リアさんはいつもの彼女からは予想にもできないような凄まじいオーラを纏わせて僕に声をかけてきた。

「分かってるわよね?」
「ぎ、御意!」

僕はそう答えるしかなかった。

「こういう時は、生徒会役員一同、潔く玉砕ですよ」
「でもでも、僕には特待生が続けられるかがかかかってるんだよっ」

(シンって、特待生だったのか)

今知った真実だった。
その特待生が、あんな風にしているとは、誰も夢には思わないだろう。

「この状況で、ずいぶんとでかい野望ですね」
「シン様は生活がかかってんだよ。ついでの俺様の生活もな」

(…………)

僕の予想が正しいのだとすれば、シンは非常にひっ迫した生活状態になっているはずに思えるんだが。
そんな僕の予想は裏肌に、校則を変えて生徒会役員はテストを自動的に満点に使用などというあんまりなあんまで出される事態となった。
それだけでも、非常に平和だなと実感する僕は、きっと感覚がくるってるんだろうか?

『大森浩介さん。至急プリエまで来てください。繰り返します―――』
「あれ、なんだろう?」

突然の呼び出しに、疑問を口にするシンだったが

「何だか、嫌な予感がする」
「何か心当たりでもあるの?」
「きっと、つまみ食いしたんですね!」

”僕は子供か?”と心の中で突っ込みながら、シンたちに一礼して生徒会室を後にするのであった。









「おい」
「ん?」

プリエに向かうべく、校舎を出て、人気のない並木道を歩いていると突然背後から声をかけられた。
振り向くと、そこにいたのは生徒会室にいた赤い髪の女子学生だった。

「何か用?」
「………」

僕の問いかけに答えるそぶりを見せず、ただただ僕を見つめるだけだった。
だが、そのまなざしは見極められているような気がして居心地が悪くなってくるのに十分だった。

「やはり」

ようやく口を開いたかと思うと、女子学生はこう口にした。

「お前が主であらせられるのか」
「は?」

その言葉に、僕は一瞬頭の中が真っ白になった。

「えっと……名前は」
「アゼル」

アゼルと名乗った女子学生の目にあるのは、一種の尊敬のまなざし。
いや、誰かに仕えている者の目と言ったほうがいいだろう。

「なるほど、お前がリ・クリエの代行者というわけか」

その僕のつぶやきに、アゼルは静かに頷いた。
リ・クリエ。
それは三つに分けられた世界が一つになる自然現象だった。
そして、このリ・クリエが起こる際には、必ず登場する人物の一人が”代行者”。
代行者はリ・クリエを成就させる役割を負う。
代行者になる条件など明確にはない。
人間がなることもあれば魔族がなることだってある。
まさしく、運だ。
そう、”悪運”だ。
そしてそんな悪運が強いがために代行者になった少女が今目の前にいる。

「こうしてお目にかかれて、光栄だ」

目の前の少女は、かしこまった様子で口を開いた。

「ああ。敬語はなし。不自然すぎるし僕は尊敬されるような存在ではない」
「だが」

僕の言葉に、アゼルは抵抗を見せる。
それを見た僕は、あまりやりたくはないが強引な手段を講じることにした。

「これは命令だ。敬語はなし」
「……………分かった」

”命令”という単語を受けたアゼルは指示通りに敬語を辞めた。

「一応いうが、僕はお前の言う”主”ではない」
「………では、同胞か?」

どうやら目の前の少女はかなり優秀なのだろう。
隠している(とはいっても、完全に隠しているわけではない)状態の僕の霊力を見て種族を特定することができるほどなのだから。

「帰れ。ここはお前のいる場所ではない」
「いきなりだな、おい」

非常に直球の言葉に、僕は思わず突っ込んでしまった。

「アゼル」
「なんだ?」
「お前は、この世界をどう見る? 何を感じる」

僕は気になったことを尋ねることにした。
その答えが、かなり重要なことだったりする。

「くだらない。すべてが無駄の穢れた世界だ」
「なるほど……」

それはリ・クリエが言わせているのか、彼女の本心なのかは断言できないが、彼女がどれほどの危険な存在であるかだけはわかった。

「最後に一つだけ忠告しておく」

だから、僕はアゼルに告げた。

「主を見限れ」
「なに?」

僕の言葉に、アゼルは冷たい視線で僕を射抜く。

「そうしなければ、お前は遠からず未来に、後悔することになる」
「お前っ! 主を愚弄する気か!」

アゼルが、今にも襲い掛からん勢いで叫ぶ。
僕はそれを一蹴して彼女に背を向けて歩き出す。

「必ずわかる。この言葉の意味を、お前は」

彼女の言う”主”の正体を知っているからこそぼくは、口に出てしまった。

「あいつが命を賭して守ったこの世界。どうする気だ、イレア?」

ここにはいない先輩でもある上級神に、僕は思わず問いかけてしまうのであった。

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