気が付くと、俺は誰もいない公園に立っていた。
「大丈夫だろうか?」
変わっている際の詳細な記憶はない。
あるのはただの概念のみ。
つまりは、”○○を××にした”という事だけなのだ。
会った人物の名前、そして会話などすべてを、俺は知らないのだ。
俺が知っているのは、竜斗がザスティンさんと勝負をしてかったということだけなのだ。
「帰るか」
このままここにいたら変な騒ぎになるだろう。
何せ、トラックが公園の出入り口をふさぐような形で横転しているのだから。
俺は半ば逃げるようにして、公園を後にするのであった。
「ん……」
翌日、いつものように目が覚めた俺は枕元にある時計を覗き込む。
「早っ!?」
表示されていた時刻は、俺がいつも起きる時間よりもかなり早い物だった。
(たまには美柑を驚かせてやるか)
妹の中では俺=寝坊という不名誉な式が成り立ちつつあるので、ここいらでそれが違うと証明するのも良いだろう。
「っと、日記日記」
そんな野望を抱きながらも、俺はいつもの習慣である日記を確認する。
昨夜の詳細が書かれているかを確認するためだ。
「は?」
俺はそこに掛かれている内容に思わず首を傾げた。
そこに、意味不明な言葉が羅列されているわけでもない。
書かれている内容はシンプルと言えばシンプルなものだ。
ララさんがお姫様だったこと。
そして彼女が家出をしてきたこと。
『気を付けろ』
だが、最後に書かれていたたった5文字だけが大きな謎だった。
何に気を付けるのかも書かれていなかった時点で、もはや意味が分からない忠告になっていた。
(一体どうしろと?)
悩んだところでどうにもならないとあきらめた俺は、朝食を取るべく下に降りることにした。
「もう起きたの!?」
俺を見た瞬間に目を丸くして驚く美柑の姿を見れたのはある意味良かったが。
「気を付けろって、何に気を付けるんだよ」
いつもより早めに学園に向かう中、俺は周囲を何度も見渡していた。
だが、周囲には特におかしい物も、不審な人影もなかった。
(はぁ、やめだやめ。気にしてたら精神的に疲れる)
警戒態勢を続けて気が滅入りそうになっていたため、俺は竜斗からの忠告を気にしないようにした。
何かあれば、それはその時に考えればいい。
「結城君」
「西連寺さん?」
突然かけられた声の正体は、西連寺さんだった。
一瞬これは夢かと思ってしまった。
何たって、あの西連寺さんから俺に声をかけてくれたのだ。
(これはチャンスじゃないか)
周りに人の気配はない。
つまりは今この時に、告白をするチャンスじゃないか。
「西連寺さん!」
「な、なに!?」
思わず大声で呼んでしまったため、西連寺さんを驚かせてしまった。
(何やってんだよ。冷静に冷静に)
「俺、あの時から君のことがずっと好きでした。付き合ってください!」
(言った。ついに言ったぞ)
まくしたてるように頭を下げながら告白の言葉を言いきることができたことに、浮かれかける自分を俺は必死に抑えた。
まだ相手から返事をもらってない。
浮かれるのは返事をもらえてからだ。
「へぇ、そっちもそういうつもりだったんだ~」
「っ!?」
なんだろう?
今、この場にはいない人物の声がしたような……しかもその声は昨日現れた、家出したお姫様のものに聞こえるのは。
きっと俺がおかしいんだ。
そうだ、これは幻聴だ。
目を開ければそこには西連寺さんの姿が――
「これで婚約成立だね」
なく、代わりにやはり満面の笑みを浮かべた先日の家出したお姫様の、ララさんの姿があった。
「じゃ、結婚しよっ。リュウスケ」
「な、なんでお前がここに……ていうか結婚?!」
とんでもないことを言いながら思いっきり抱きつかれた俺は、ただただわけのわからないことを口にしていくのであった。
(気をつけろって、このことだったのか?)
もう少しわかりやすく忠告してほしいと、俺は心の中で竜斗に文句を言うのであった。
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