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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第19話 危機

夏の暑さもそろそろ陰りを見せるであろう8月下旬。
僕は練習のために、軽音部の部室を訪れていた。

「まさか、集合日を一日間違えるとは」

部活をする日を間違えたがために、部室には誰の姿もなかった。

「ん? これは何だろう」

帰ろうかと思いドアの方へと向かおうとした僕だったが、ふと机の上に置かれた緑色の本に目が留まった。

(そう言えば、この前も置いてあったよな)

前に部活をした日も置かれてあった緑色の本のようなものは、僕も若干気になっていたのだ。

(ちょっと見てみるか)

そう思った僕は、律がいつも座っている席を借りて緑色の本を見ることにした。

(これは卒業生たちの部活写真か)

どうやら卒業アルバムのようで、吹奏楽部や運動系の部活の集合写真が貼られていたために、僕はそう結論付けた。

「あ、あった…………」

そんな中、軽音部と思わしき集合写真のページを見つけた僕は時間が止まったような錯覚を感じた。
その写真には数人の女子学生が写っていた。
いや、それなら問題は何もない。
まあ、恰好が派手な衣装だったり顔に度派手な化粧を施されていたりと、かなり昔のバンドのような風貌をしているのは、ある意味問題であったりはする。
だが、僕が今上げているのは、写真の下のほうに書かれた文字だ。

――『DEATH DEVIL結成』

荻原さんのファンである、『DEATH DEVIL』とまったくもって同じバンド名だった。
もちろん、ただの偶然という可能性もあるが、高校のバンドであることとガールズバンドだという二点が一致している以上、偶然では片づけられない。

(この人がキャサリンか)

調べた際にわかった、ギターを担当する女性の名前はキャサリンとクリスティーナの二人名前。
もちろん、顔まではわからないが、おそらくは昔もこの音楽準備室を部室で使っていたのか、栗色の髪にやはり度派手なメイクを施してギターを持っている写真があったことや、なによりこの人だけが写っているが多いためバンドリーダー的な立ち位置であることも想像ができる。
よって、この人がキャサリンであると思ったまで。
もちろん間違いがあるかもしれないが。

(この人、どこかで見たような)

写真に写るキャサリンと思わしき女性を観察してみるが、具体的な人物の顔や名前が出てこない。

(ということは、ただすれ違っただけなのか忘れているのか………)

考えてみても、答えなどは出なかった。

「帰るか」

これ以上考えても無駄だと思った僕は、アルバムを閉じると荷物を手にして部室を後にするのであった。















9月に入って少し経ったある日のこと。
始業式やマラソン大会などを終え、残すはすこし先に行われる学園祭となった。

「なあ、やっぱりメイド喫茶のほうがいいと思わねえか?」
「うるさい」

HRでクラスの出し物を決め終えクラスのみんなが帰り支度をする中、未練がましく慶介が声をかけてきた。

「別にいいじゃない。名称なんて」

このクラスの出し物は『喫茶店』だ。
服装は男子はウエイトレスの服を、男子は執事服を着ることになっている。
ちなみに、この案は慶介の提案だ。

「いいや違う! お前はわかってないんだ。いいか? メイドさんだぞ? 入って『おかえりなさいませご主人様』って言われた時の快感。それがわからねえんなら男じゃねえ!」
「…………」

何やら意味の分からないことを熱く語る慶介だが、彼はわかっているのだろうか?
周囲の女子からの冷ややかな視線を。
そんなこんなで、案は通ったが名称の修正を求められるという事態に発展し、ただの”喫茶店”という異例の事態となった。
ちなみに余談ではあるが、喫茶店の名前は僕の出した『喫茶ムーン・トラフト』で決定となった。
自分としてはダメもとで出した名前なので、通ったことに案を出した自分が驚いたのは記憶に新しい。

「だったら、周りが見えないあんたは人として問題があると思うけどな」
「……た、確かに」

ようやっと周囲の様子に気づいた慶介は冷や汗を浮かべながら肯定した。

「ところで、だ」

そして話題を変えた。

「本当に参加しないのか? 歌自慢コンクール」
「し・な・い」

慶介からの何度目か分からない問いかけに、僕ははっきりと拒否した。
歌自慢コンクールとは文字通り、体育館のほうで行われる催しだ。
5人の審査員(普通の生徒だが)の出した総得点(100点満点)で、一番高い点を取った人が優勝となるものだ。
参加人数は三人。
慶介はここぞとばかりに参加を表明し、ほか二人も何の問題もなく決まることになった。
正確に言えば三人が手を挙げるのがほぼ同時だったというだけだが。
そして、慶介はこの歌自慢コンクールに対してすごい執着(とはいえメイド喫茶ほどではないが)を見せていた。
尤も、理由なんて見え透いているわけだが。
その執着の度合いは朝から『歌自慢コンクールに参加しよう』と持ちかけてくるほどだ。

「僕は歌が下手だから、そういうのには出たくない」
「下手、ねぇ……」

僕の言い訳に、慶介は咎めるように目を細めてつぶやいた。

「な、なんだよ」
「歌が下手な奴が歌うこともある軽音部に……いや、何でもねえよ」

途中まで言いかけた慶介はため息交じりに諦めたようだった。
もちろんだが、歌が下手だというのは僕の嘘だ。
下手どころか、おそらくはかなり上の部類に入るのではないかと思う。
これは自惚れではない。
魔法使いとして強ければ強いほど、歌などの音楽関係においてかなりのクオリティのものになることが統計で出ているほどだ。
ちなみに、魔法使いとして強いからと言って必ずしも歌が非常にうまいということは言えない。
僕のも母国での話。
歌が下手な魔法使いだっているほどだ。
要するに、井の中の蛙。
ここの世界には数えきれないほど歌の素質を持った人がいるだろう。
だからこそ、僕の”へたくそ”という言い訳も、ある意味正しいのかもしれない。

「そこまで嫌がらなくてもいいと思うんだけどな」
「……」

慶介の言葉に、僕は何も答えられなかった。

「さて、そろそろ部活に行くか」
「おう、今日もハーレムをた―――がふっ!?」
「黙れ」

いつものように慶介を黙らせた僕は、部室へと向かうのであった。










「部として認められてないだって!?」
「ん?」

部室前にたどり着いた時、律の驚いたような叫び声が中から聞こえてきた。
とはいえ、聞き捨てならない内容だったが。

「それはどういうことだ?」
「あ、浩君」

ドアを開けながら声をかけると椅子ではなく床に軽く座っていた唯が声を上げた。

「それがね―――」

僕の疑問に、ムギが事情を説明してくれた。
なんでも澪に頼まれて学園祭でステージを使用するために申請をしに行ったらしいが、軽音部は部として認められていないために断られたらしい。

「部員が五人そろっていれば大丈夫じゃなかったの?」
「そのはずなんだけどな」

全員がうなりながら理由を考える。

(もしかして顧問がいないからとかか?)

確か、部活動では顧問の存在が非常に重要であるという話を聞いたことがある。

「ていうか、部として認められてないのに自由に使ってもよかったのかな?」
「……あ」

部室(認められてない以前で部室という表記は正しくないが)に置かれているアンプなどの楽器類に、食器棚に入れられたコップなどかなりこの部屋を私物化している。

「ま、まあ何も言われてないんだからいいんじゃないのか?」
「とにかく、どうして認められてないか生徒会のほうに問い合わせたほうがいいだろ」
「そ、そうだな。ところで、澪は?」

僕の提案に乗った律は提案を受け入れると、あたりを見回しながら聞いてきた。

「あ、澪ちゃんならあそこでまだ怯えてるよ」

唯の指差す方向にはうずくまって耳を押さえている澪の姿があった。

「帰って来い!」
「何をやったんだ? いったい」

何をしたのか簡単に想像できる僕も、ある意味あれであるが。
そんなこんなで僕たちは部として認められてない理由を尋ねるべく、生徒会室に向かうのであった。










「あそこが生徒会室か。唯」
「了解であります、律ちゃん隊員!」

生徒会室が見えて来たところで呼びかける律に、まるで兵隊のように答える唯。

「ここは突撃だ!」
「おー!」
「突撃って……」

どこぞの犯罪集団のアジトに突入する警察官じゃないんだから、という僕のツッコミが入るよりも前に、

「たのもーっ!」

唯によってドアがいきよい良く開けられた。

「唯?」
「あれ、和ちゃん? なんで和ちゃんがここに?」

生徒会室にいたのは、意外にも真鍋さんだった。
なんでも彼女は生徒会の役員となったようだ。
まあ、そのことを話してもらった際に幼馴染のはずなのに初耳といった様子の唯に、少し首をかしげたくなったのはどうでもいい話だが。
そんなこんなで、真鍋さんに部として認められてない理由を調べてもらうことにしたのだが、棚から取り出された青いファイルにはさまれている用紙をペラペラとめくっていく。

「やっぱりリストにはないわね」

ほとんど調べ終えたところで真鍋さんが口を開いた。

「ひょっとして、これは弱小部を廃部に追い込むための生徒会の陰謀!」

律の推測が初めてあり得ると思った瞬間だった。
生徒会ならやりかねない。
生徒会を見たら泥棒だと思えという教訓(当然だが僕の持論だ)まで出ているほどだ。

「和ちゃんは心がきれいな子! 目を覚まして」
「というより、それは人として終わってるだろ」

真鍋さんの手を握りながら呼びかける唯をしり目に、僕はポツリとつぶやく。

「何の話? それよりも、部活申請用紙を出していないんじゃないの?」

そんな唯の行動に目を丸くしながら、指摘した。

「「部活申請用紙?」」

真鍋さんの口から出た言葉に、僕とムギは思わずおうむ返しに聞いてしまった。

「そんなの聞いてないぞ!」
「聞いてるだろ!」
「ひぃっ!?」

すさまじいオーラ(これは一種の殺気?)を纏う澪に、僕は思わず飛び上がってしまった。
どうでもいいが、女性の放つ殺気のようなオーラはとてつもないほどに恐ろしい威圧感がある。
僕は殺気の中でも女性の殺気のようなオーラだけが怖かったりする。

「………あ」

そして、心当たりがあるのか、律が口を開いた。

「やっぱりお前のせいかっ!!」

その反応を見た澪は律の頬をつまむと引っ張り始めた。
ムギが澪をなだめに向かった。

(まあ、制裁を受けてるから放っておいていいか)

とはいえ、生徒会=悪と決めつけた僕は、どれだけ心が荒んでいるのだろうか?

「なんて言うか、軽音部って唯にピッタリの部活だと思うわ」
「お願いですから、一纏めにしないでください」

あまりな言われように、僕は反論した。
これでは僕が間抜けみたいになる。
いや、もしかしたらイメージチェンジにはいいのかもしれないが、倒産の耳に入った瞬間地獄を見るのは目に見えている。

「しょうがないわね。私が何とかしてあげるわ」

ため息交じりにそういうと、彼女は”部活申請用紙”を取り出してそれに必要事項を書いていく。

「ところで、顧問は?」
「顧問ぐらいいるよな?」
「コモン?」

真鍋さんの問いかけに僕も四人に尋ねると、まるで初めて聞いたような反応が返ってきた。
それだけで、どうなっているのかが容易に想像できた。

「あなたたち」

真鍋さんの呆れたような言葉は、罵声を浴びせられるよりもきつかった。
そんなこんなで、僕たちは軽音部を部として認られるようにするべく、顧問探しに向かうのであった。

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