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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
タイトルのおかげで、完全に話の内容が想像しやすいものとなっております。
そして、次話は少しばかりオリジナルの話になる予定です。


それでは、これにて失礼します。

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第39話 歓迎会

「…………」

突然だが、僕にはとても重大な悩み事がある。
衣替えも終わり、徐々に夏に向かっていくこの季節。
梓が軽音部に入部してそろそろ2か月が経とうとしていた。
それ自体はいいのだ。
問題は……

「はぁ、楽しかった~」
「練習していないのに疲れました」

満足げの唯とは対照的に疲れた様子で肩を落とす梓だった。
そう、梓の言うとおり、練習が問題なのだ。
時間が経つにつれて唯たちの梓に対する歓迎ぶりはさらに拍車をかけて強くなっていた。
例えば、ティータイムの際には素早く飲み物が並々まで注がれたり、お菓子は僕たちよりも多めだったりなどなど。
例を挙げればきりがない。
それに比べて、練習の時間はほぼ0だ。
”オー”ではない、ゼロだ。
これまでも練習は全くと言っていいほどしていなかった。
それでも今までは練習とティータイムの比率は2:8の状態だった。
だが、現在はどうだろうか?
比率は0.1:9.9という、最低値ぎりぎりを記録している。
ちなみに、0.1は”これからの演奏をどうしていこうか”と言う内容の律のティータイムで出された疑問でもある。
これも数十秒後の唯の『このケーキおいしいよ!』で幕を閉じた。
これにはさすがに開いた口が塞がらなかった。
ちなみに、この二か月で僕と梓の方にも若干の変化はあった。
それが

「まああずにゃんには同情を禁じ得ないね」

梓への呼び方を唯が名づけたあだ名”あずにゃん”にしたことくらいだ。

「あの、浩介先輩。アズにゃんって呼ぶのはやめてくれませんか?」
「嫌だ」

後輩のお願いを、僕はバッサリと斬り捨てた。

「どうしてですか?!」
「僕のあだ名を笑ったから」

前にティータイムの際に唯が語った”浩ちゃん”というあだ名に、梓が吹き出しそうになっていたのを僕は見逃さなかった。
それから報復で僕も彼女にはあだ名で呼ぶようにしたのだ。

「あー、浩介って一度こうと決めると絶対に変えないからあきらめたほうがいいぞ」
「そんな……」

律の言葉に、青ざめる梓。

「まあ、あだ名で呼ぶときには、TPOを弁えるから大丈夫」
「お願いします」

学校を出たところでは梓という呼び方に戻しているのが、いい例だ。
さすがに吹き出しそうになっただけであのあだ名を言い続けるのは、かわいそうだと思ったからだ。
閑話休題。

今はまだ戸惑っている程度だが、いつ梓が、”やめる”と言い出してもおかしくない状況だった。
今の軽音部はただの休憩所へと成り果ててしまっている。
どうにかしなければいけないのは当然だった。
一番手っ取り早いのは、僕が練習をするように告げることだ。
だが、そこで問題が生じる。

(それを、僕はどの立場で言うのか……だよね)

僕はH&PのDKである。
そして、腕を落とさないためにはギターの練習をしなければいけないのは当然だ。
部活で練習ができない以上、自宅でするしかない。
そうすると、睡眠時間が大幅に削られてしまうことになる。
つまり、彼女たちの知らないところで、影響が出てしまっている状態だ。
僕が練習を促すのは、それをなくすためなのか、それとも純粋に梓をやめさせないようにさせるためなのかが重要になる。
前者ならば僕の注意は自分勝手なエゴに、後者ならば後輩思いの先輩……部員の一因ということになる。
そして、僕はどっちの立場なのかが、いまだにはっきりしていない。
それは今後もしないだろう。
ならば、別の方法でアプローチをするしかない。
僕は、その方法を探していたのだ。
しかしいつまで経ってもその方法が見つかることはなく。
時間だけがむなしく過ぎていた。

「あ、そうだ。私の家の近くにおいしいアイスクリーム屋さんがあるんだよ。一緒に行かない?」

帰り道、そう提案してきたのは唯だった。

「行きましょう、行きましょう」

そんな提案に、即答で賛成したムギをしり目に唯が”奢る”と口にした時はとても驚いた。

「は、はぁ……」
「違うよあずにゃん。返事は”にゃー”だよ」

そんな唯の提案に浮かない表情を浮かべる梓に、唯は真顔で指摘した。

「え?」
「はい、にゃー」
「に、にゃー」

首をかしげる梓に、唯は一押しするかのように猫の手をしながら猫の鳴きまねをするように促すと、梓は頬を赤くしながらもそれに応じた。
そして、僕と澪以外の全員がまるで猫を愛でるかのようにくっついて頭をなでたりしていた。

(完全に手懐けられてるし)

そんな僕の考えをよそに、唯の先導の元アイスクリーム屋に向かうと各々が好きア味のアイスを注文した。
ちなみに、梓のアイスクリーム代は有言実行とばかし、唯が奢っていた。
僕はストロベリー味のアイスを頼むことにした。

(チーズ味のアイスはないのだろうか?)

先ほど購入したストロベリー味のアイスを食べながら、僕はそんなことを考えていた。
全員がアイスクリーム屋の前に置かれているベンチに腰掛ける中、僕は梓の後方に立っていた。

(まだアイスの時期ではなかろうに)

確かに衣替えで夏服になり、少しだけ昼が伸びてきたような気もするが、まだ”夏だ”と言えるような気温ではない。
せいぜい”ちょっと暑くなってきたな”程度だ。
尤も、この感覚は僕を基準にしているのでもしかしたら皆にとっては”暑いな”と感じているのかもしれないが。

(にしても)

僕は再び視線を前の方で、ベンチに腰掛けながらアイスを食べている梓に向けた。

「どうかな、軽音部でやっていけそう?」
「えっと………このゆっくりのんびりとした雰囲気がちょっとあれですけど」

梓の前に移動してしゃがみこんで問いかけた澪に、梓は少しばかり言葉を選んで答えた。
だが、後半の”ゆっくりのんびりとした雰囲気”という部分が彼女の本音のような気もした。

「大丈夫! いつか慣れるから!」
『ていうか、慣れたくない』

そんな梓の肩に手を当てって唯が告げるが、梓の心の声が聞こえてきた。
読心術を使っていないにもかかわらずになぜか聞こえてくるということは、それほど強い思いなのだろう。
……きっと。
その後、アイスを食べ終えた僕たちは、いつもの信号機のところで別れた。
澪と律は家が同じ方向のため、一緒に帰っている。
変わって僕と唯に梓は途中まで帰り道が同じこともあって、一緒に帰っている。

「ねえねえあずにゃん。やっぱりアイスはバニラだよね?」
「は、はい」

そして別れ道まで唯と梓はいろいろな話をしている。
それがいつもの下校風景でもある。

(今だけならいいんだけど、これが常時だもんな)

部活中もこんな感じなので、あまりよろしくないことは明らかだった。
逆に、よく毎日話のネタがあるものだと感心するほどだ。





「このままは、まずいよな」

夕食も終わり、後は軽く勉強をするだけとなった中、僕は現状の軽音部について考えていた。

(梓のあの様子だと、来週までもてばいいほうかな)

どんどんと曇っていく梓の表情を見ていた僕は、このままで行けば梓は確実にやめるであろうというところまで来ているのを察知していた。

(手を打つなら今日中か)

今週中に練習をするようになれば、梓が辞める可能性は大幅に減少する。

(かといって、何をすればいいか……)

僕は直接的に練習をさせるように促すのはできれば避けたい。
よって、間接的にそれをしなければいけない。

「………明日の放課後に緊急会議を開くか」

結局僕に思い付いたのはそれだけだった。
僕は梓以外の全員にメールで明日の放課後に、梓を除いた全員で緊急会議を開くことを書いたメールを一斉送信した。
梓には明日の部活は休みであることを告げるメールを送信しておく。
これでまた退部の可能性が上がってしまったが、明日の会議でちゃんとした結論を導いたときの結果を考えれば、微々たるものであった。
その後送信した人全員から了解の旨の連絡が返ってきた。

(よし。これで準備は大丈夫)

後は明日に賭けるしかない。










そして、いよいよ迎えた運命の日。
この日は土曜日で午前中のみの授業なので、いつもより長い時間を話し合いに割くことができる。

「それで、なんなんだよ。緊急会議って?」

全員が集まり、ムギがお茶を全員分入れ終えた所を見計らって律が口火を切った。

「今まで何も言えなかった、僕にも責任があるから皆だけを責めるつもりはないんだけど……」
「もったいぶらないではっきり言いなよ」

できる限りオブラートに包もうとしたが、それは律の一言で無駄になった。

「分かった。それじゃあ、はっきりと言わせてもらう」

その律の言葉を受けて、僕は直球で言うことにした。

「新入部員が来たからと言って、最近弛みすぎじゃないか?」
「そうか?」
「別に今まで通りだよ?」

僕の問いかけに、首をかしげながら律と唯が返してくる。

「では聞くが、ここ二か月で、練習をしたのはいつだ?」
「それは………」

僕の疑問に、律は腕を組んで考え込むが答えが出なかった。

「このままでは梓は辞める。というより、確実に辞める」
「え? あずにゃんが辞めるのは嫌だっツ」

(よし、ここまではいい感じ)

僕の言葉に慌てた表情を浮かべる唯の様子を見て、僕は心の中でガッツポーズをとった。
まず大事なのは、今どれほど危機的状態に立たされているかという事実を伝えることだ。

「こうなったら、梓の弱みを握ら――――あいたっ!」
「変なことを言うと、叩くぞ」

カメラを片手に、卑怯なことをしようとする律の頭をハリセンで叩いた。

「もうすでに……叩いてるじゃないか」
「つまり、浩介が言いたいのは、活動計画を立てたほうがいいんじゃないかということ?」

頭をさすりながら抗議する律をしり目に、澪が僕の言いたいことを組んでくれたのか、分かりやすくまとめてくれた。

「そう言うこと」
「活動計画?」

頷く僕に、同いう意味なのと言いたげな表情で首を傾げてくる唯。

(内容のことで首をかしげてるんだよね? 言葉の意味が分からないとかではないよな?)

唯だから後者だとしても不思議ではない。
……ものすごく失礼だけど

「そう言えば、活動計画をしっかり立てていなかったなぁ」

どうやらちゃんと考える気になってくれたようで腕を組んで考え込み始めた律の様子を見た僕は、ほっと胸をなでおろす。

(これで梓の退部危機は遠ざかるかな)

「よし、それじゃあ――――」

そして、僕は律の”活動計画”を聞くのであった。










翌日、律の発案した活動計画が実行された。
場所は学校の部室……ではなく、近くの公園。
周辺は子供連れの母親や父親の姿があったり、貸出ボートで川を渡りながらいちゃいちゃするカップルの姿があった。
そんなのどかな場所で、広げられたのは楽器や楽譜など……ではなくレジャーシートと豪勢な料理の数々だった。

「はい、あずにゃん。食べて食べて~」
「これも食べてね」
「あ、あの……」

そしてレジャーシートの上では唯やムギが料理を梓に進めていた。
当の梓は困惑した様子で、視線を色々な場所に向けている。

「梓にはこのたい焼き、だ!」

そして律は強引に梓の口の中にたい焼きをツッコんだ。

「…………何故だぁぁぁぁっ!!!!」

ついに僕の中で何かが限界を迎え、大きな声で叫び声をあげてしまった。

「うお!? いきなり大きな声で叫ぶなって」
「そうだよ。迷惑になっちゃうよ」

そんな僕に、驚きをあらわにした律とケーキを手にしながらうんうんと頷く唯の二人に注意された。

「……失礼」

二人の言うことも尤もなため、僕は静かに謝罪の言葉を口にした。

「念のために訊くが、これが活動計画?」
「そうさ! 私たちに足りなかったのは、ずばり歓迎するおもてなしの心! なら歓迎会を開くのが一番さっ!」

間違いであってほしいという願いを込めて聞いた僕に、律は自信満々でまばゆいほどの笑みを浮かべて答えた。
そう、律が立てた活動計画というのは”歓迎会をする”というものであった。
今日この時この瞬間まで、僕はそれが律なりのジョークだと思っていた。

(この二か月間、常に歓迎会のような感じになっていたのを知っているのか?)

思わず律にそう問いかけたくなった僕だったが、楽しい雰囲気をぶち壊すようなことは避けたかった。
ただ、僕が言えるのは

(律に期待した僕がバカだった)

だった。
とはいえ、

「たい焼き……好きなの?」

たい焼きを口にして幸せそうな表情を浮かべる梓を見ていると、律の提案もある意味的を得ているのではと思えてくる僕なのであった。





昼食をとり終えた唯たちは、梓に遊ばないかと誘ったが本人は疲れたので休むと告げて断った。
すると、唯は”あずにゃんの分楽しむね”と言ってムギと律の三人で遊び始めた。

(歓迎する人を差し置いて自分たちが楽しんだらダメだろ)

さんさんと日が照りつけ、日光にさらされただけですぐに暑く感じるようになってきたこの頃、僕は太陽の光から逃げるように木の幹に寄り掛かりると大はしゃぎで遊ぶ唯たちに、心の中でツッコんだ。

(何だか、視線を感じるんだけど)

横で体育座りをしている梓からものすごい視線を感じる僕は、どう反応すればいいのかに悩んでいた。

「何かな?」
「あ、いえ」

どうやらそれは澪も同じだったようで、声を掛けられた梓は視線を僕たちから外した。
かと思えば再び梓からの視線を感じた。

「澪先輩は外でバンドとか組んだりしないんですか?」
「うーん、外バンか~。確かに面白そうだよね」

梓のその問いかけに、僕には退部することを示唆しているのではないかと感じてしまった。

(僕の邪推ならいいんだけど)

そんな澪に迫る黒い影があった。

「はは~ん。そんなことを言っていいのかな~?」
「な、何よ」

いつの間に来ていたのか、澪の横で不気味な笑みを浮かべる律に、澪は問いかけた。

「例えば、こんなのとかがあるのに」
「ち、ちょっと!? 何よそれはっ!」

律が取り出したのは写真のような気がした。
それに反応した澪は律から写真を取り戻そうと奮闘していた。

(あれって、間違いなく桜高祭の時のだよな)

一瞬見えてしまった写真の隅の方に写っているもので、何の写真家がわかってしまった。
ちなみに、これは余談だが澪の転倒事件はある意味伝説となりつつあるらしい。
あの時聞こえたシャッター音は、写真部の部員のモノではないかという噂があるか真偽は定かではない。
閑話休題

「浩介先輩はどうですか?」
「僕? そうだね……」

なぜかこちらにも質問が飛んできた。
梓の問いかけに考えてみた。
軽音部以外のバンドで演奏をする自分の姿を。

(………)

きっと、うまいバンドに入れば僕の力はかなり活かされるはずだ。
それでも

「考えてないかな」
「どうしてですか?」

梓のもっともな質問に、僕は即答で返す。

「外バンをすると色々とややこしいことになるから」
「は、はぁ……」

僕の口にした理由に梓は分からないと言った様子で相槌を打った。
梓に告げた理由は本当のことだ。
僕が所属する事務所”チェリーブロッサム”は、勝手な活動を許さない厳格な事務所で有名になっている。
ゲリラライブをするにしても、必ず事務所に話を通してから行わなければいけないのだ。
それは、金銭トラブルを回避するための策であり、自分たちを守るためでもあるので納得もしているし、特に異論もない。
では、今の僕の状態はどうなのか。
僕が軽音部でバンド活動をするのにあたって、事務所側には話を通していない。
だが、そのことで怒られたことは一度もない。
要は、金銭トラブルに発展するか否かのラインなのだ。
社長からは『最初にバンド演奏を大勢の前でする際には料金徴収等はしないように』と言われている。
この国では、バンド演奏等ですでにある他人の曲を演奏すると、使用料としてお金を支払わなければならない。
コンサート形式になってくると、この使用料に加え舞台の貸切料まで加わってくるので、利益はほんの1~2割なのだ。
一応これは営利目的ではなく、観客からお金を徴収しなければ大丈夫らしいので、それを知りたかったのだと思う。
当然だが、桜高祭や新歓ライブでも料金の徴収は行ってもいないし、僕たちに報酬金が支払われたこともない。
なので、事務所からは公には許可されていないが、認められているのだ。
だが、もし外バンをしようとすれば、確実に許可はされない。
というより、そもそもH&Pの皆が認めない。
僕が軽音部で活動を認められているのも、H&Pのメンバーが認めていることの方が大きい。
これ以上バンド活動を多くすれば、H&Pのバンド活動が疎かになる可能性がある。
そして、第一に挙げられる理由が

(僕は、こことH&P以外のバンドで活動する気はない)

それが一番大きかった。
僕が外バンをすることになる日こそが、軽音部をやめる時だろう。

(そんな日が来ないことを願いたい)

そんなことを考えていると、梓の背後に再び怪しい影が忍び寄っていた。
背後に忍び寄っていた山中先生は、梓の頭にウサギの耳の形をしたヘアーバンドを取り付けた。

「バニーもいいわね」
「ひぃぃぃっ!?」

顎に手を当ててつぶやく山中先生に、梓は顔を真っ青にしながら後ろに下がった。

「あ、さわちゃん先生!」
「ごめんねー。仕込みに手間取っちゃって」

(仕込みって何?)

見れば、山中先生の手にはジュラルミンケースがあった。
それを芝生の上に置くと、ケースを開いた。
そこには様々な衣装が入っていた。
ゴスロリ風のドレスだったり制服のようなものまである。

「あずにゃんが嫌だったら私たちが着るね」

(そう言う問題じゃない)

唯の言葉に、僕は思わず心の中でツッコんでしまった。










それから遊び続け、あたりはオレンジ色のベールに包まれていた。
唯たちは満足そうに次に行く場所をどこにするかを話し合っていた。

「…………」

僕と梓はそんな唯たちの様子をへとへとになりながら見ていた。
僕はともかく梓にとって、これほどまで壮絶な休日はなかったはずだ。
そう思えるほど振り回されていた。
僕は梓に同情を禁じ得なかった。

(もうこれは確定だな)

僕はこの時すべてをあきらめていた。
そんな僕の横に立つ一人の人物。

「皆!」

澪の一言で、話をしていた唯たちは一斉に話をやめて澪に視線を向ける。

「私たちは軽音部だから、明日は絶対に絶対に絶対に絶対に練習をするからな!」

澪の”絶対”を強調した叫びに皆は圧されるように頷いた。
結局、みんなを動かしたのは澪だった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんにちは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
タイトルは完全に遊びです。
今までで一番の長さなのではと思います。
次章からはオリジナルの話になりそうです。


それでは、これにて失礼します。

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第38話 部員狂想曲~あずにゃん誕生~

新入部員を獲得して初めての部活の日を迎えた。

「………」

いつもの席に腰掛けていた僕は、今後のことについて考えをめぐらせていた。
今後のこと、それはバンドの形式だ。
現在は、ギターが二本にベースが一本、ドラムとキーボードが一つずつという形式になっている。
そこに加わった新入部員でもある梓のパートは、ギター。
すると、ギターが三本になってしまう。
そう言うバンドもあることにはあるが、そうなると曲の編成だ。
三本のギターを有効に使う曲というのはある意味難易度が増す。
だからと言って、片方のパートと同じパートを弾く形式は、タイミングや音程などすべてを合わせなければいけないため、演奏の難易度が高すぎる。

(ラインを作るべきか、それとも同一パートで弾くべきか……)

当然だが、こういうことはみんなで話し合って決めるべきだ。
だが、一応考えておくのが筋というものだろう。

「こんにちは!」

そんな結論を出した時、部室のドアが開けられ元気な声が掛けられた。
ドアを開けたのは、新入部員でもある梓だった。
その背中には自信の相棒となるギターがあった。

「お、元気いっぱいだな」
「はい! 放課後が待ち遠しかったです」

律の言葉に、梓は元気な声で若干興奮気味に答えた。

「それじゃ、梓も来たことだし早速……」
「練習ですか!」

律の言葉を受けて、梓はさらに前のめりになって尋ねた。
それを見ながら僕も練習をする準備をしようと席を立ちあが―――

「お茶にするか」
「え!?」

りかけたところで告げられた言葉に、思わずずっこけてしまった。

「浩君大丈夫?」
「またベタなコケを」
「だ、大丈夫」

そんな僕に気遣いの言葉をかけてくる律とあきれた様子で声を上げる二人に答えながら、僕は席に座り直した。

(普通、新入部員を獲得して最初の部活動の時は練習しないか?)

この軽音部は練習とお茶を飲む時間の比率は2:8だ。
つまり、練習は全くと言っていいほどやらないと言っても過言ではないのだ。
とはいえ、新入部員が来たのだからいい刺激になって比率が5:5になるか、変わらなくとも最初ぐらいはまじめに練習をする物と踏んでいたのだが、いつものように平常運転だった。

「ほら、座って座って」
「は、はい」

律に促されるまま律の対面の席に座らされた梓のもとに、紅茶の入ったティーカップが置かれた。

「あ、あの。部室でこんなことをやっても大丈夫なんですか?」
「大丈夫だって」

不安げな表情の梓に、律は軽く答えた。
そして今度は僕の方に視線が向けられた。
僕はそれに肩をすくめて答えた。

「あ、やってるわね」
「ッ!」

程なくして現れた顧問の山中先生に、梓の体が震えた。
そして、自分の左側……僕から見ると対面に腰かけた山中先生に、うつむいた。

「あ、あのこれは――」
「ロイヤルミルクティーをお願いね」

罪悪感のようなものがピークになったのか、いたたまれなくなったのか、梓がしなくてもいい釈明をし始めたところで、山中先生はムギに紅茶を淹れるように頼んでいた。
さすがにそれは予想外だったのか、驚きをあらわにする梓に、僕は苦笑しながら先ほどおかれた紅茶を一口すするのであった。










「顧問の山中さわ子よ。よろしくね」
「中野梓です。よろしくお願いします」

遅れてやってきた澪を交え、梓と山中先生は自己紹介をした。

「お菓子もどうぞ」
「お、ケーキだ!」

そして各々が自由気ままに動き始めた。
ある者は雑談をしたり、またある者は雑誌を読んだり等々、ばらばらだった。

(うーん。机を一つ増やすべきか)

かくいう僕も、その例にもれずに考え事をしていたわけだが。
今現在、ムギが立ちっぱなしになっている。
僕が立てばいいのかもしれないが、それでムギが快く座ってくれるのかが疑問だ。
人に立たせといて自分が座ることはできないという性格ならば、まず無理だろう。

(机を増やすとなるとやっぱり生徒会か。一度掛け合ってみるか)

そう心の中で結論付けた僕は、ふと梓の方へと視線を向けた。
梓は戸惑った様子で律たちを見ていた。
やがて、何を思ったのかいきなり立ち上がるとギターケースから、ボディーの色が白と赤色を基調としたギターを取り出すと、ストラップを肩に通して構えた。

(まさか、この雰囲気を強行突破して練習をさせようとする気か!?)

梓のやろうとしていることがわかった僕は、勇敢な行動に目を瞬かせた。
ピックを手に、弦をストロークさせた。
すると甘い音色の音が響き渡った。

「うるさーいっ!!!」
「ひぇぇ!?」

やはりと言うべきか、魔人と化した(非常に失礼な言い方だが)山中先生の一喝が浴びせられた。

「ぅ……ぅ」

その迫力に、梓は涙ぐむと床にうずくまってしまった。

「さわちゃんのドアホウ!」
「だって、静かにお茶したかったんだもん」

律の一喝に、山名先生はハンカチで目元を抑えながら言い訳をした。

「だもんって、年を考え――「今なんか言ったか。あぁん?」――空耳でしょう」

山中先生のやくざでもビビッて逃げていくのではないかという視線から逃げるように立ち上がると、うずくまっている梓の素へと歩み寄った。

「大丈夫だ」
「あの先生ちょっと変なんだ」
「変とは何よ」

僕に続いて声を掛けた澪に、山中先生が抗議の声を上げる。

(ちょっとどころか、”かなり”だけどね)

口に出したら今度こそ危ないと思った僕は、心の中でツッコんだ。

「ほら、一緒にケーキを食べよう!」
「ティータイムがうちの売りなんだ」

(そんな売りはいらない)

心の中で再びツッコんでいるが、梓の反応がない。
見ると、梓の肩が震えていた。
悲しみと言うよりも、それとは真逆のオーラをまき散らしながら。

「こんなんじゃ、だめですっ!!!」

ついに我慢の限界に達したのか、勢いよく立ち上がると大きな声で叫んだ。

「うわ、キレた!?」
「今度はこっち?!」

今日はよく誰かがキレる日だなと、まったく見当違いなことを感じていた。

「皆さんやる気が感じられないです!」

まったく同意見だった。

「い、いや、新歓が終わって間もないから」
「そんなの関係ないです!」

律の見苦しい言い分をバッサリと切り捨てた。

「部室を私物化するのは良くないと思います! ティーセットは全部撤去するべきです!」
「それだけ、それだけは~」

梓のまっとうな意見に、上着をつかんで涙ながらに懇願するのは山中先生だった。

「「どうして先生(あなた)が言うんですかっ!!」」

山中先生の醜態に、思わず梓と同時にツッコんでしまった。
梓の言っている正論は、僕が常日頃から言おう言おうと思っていたことだった。

「ま、まあとにかく落ち着いて――」
「これが落ち着いていられますかっ!!」

律がなだめるが全く効果はなく、怒りが収まらなかった。
そんな彼女の背後に忍び寄る怪しい(そうでもないが)影。

「いい子、いい子」
「そんなので落ち着くはずが――」

背後から抱きついた唯がやさしく梓の頭をなでる。
そんな彼女に、梓は

「ほわ~~~」

(お、おさまってるし)

幸せそうな表情を浮かべており、すっかり落ち着きを取り戻していた。





「さっきは取り乱してすみませんでした」

数分ほどして、落ち着きを取り戻した梓が僕たちに頭を下げて謝った。

「ううん。大丈夫だよ。まったく気にしてないから」
「え!?」

唯のフォローに、表情がこわばる梓。

(少しは気にしろよ)

その気持ち、わからなくもない。

「梓の言うことは一理ある。みんなもちゃんと練習をするように」
「これを機会に練習の時間を増やしなよ」

澪と僕の言葉に、全員は若干不服そうに返事を返した。
こうして、新入部員である梓を加えた初めての部活動は、不穏な雲行きで幕を閉じることとなった。










土曜日日曜日を跨いだ月曜日の放課後。
新入部員梓を加えた二回目の部活動の日を迎えた。

「浩介、浩介!」
「なんだ、鬱陶しい」

大きな声で名前を二回も呼ばれた僕は、不機嫌であることを隠そうとせずに返事を返した。

「うわ、いつにもまして不機嫌だな。何かあったのか?」
「強いて言うなれば、部活に行こうとしたのを止められて、それがしかも慶介だから……かな」

僕は考え込むようなしぐさをしながら、慶介に答えた。

「ひどっ!? 本人前にして言いますか?!」
「普通は言わないけど、慶介だから」

慶介は罵声されても喜びそうな気がする。

「俺とお前は親友だもんな。フッ! もてる男はつれぇぜ」
「……………」

かっこをつけるように髪を払う慶介に、僕は彼を無視して教室を後にした。

「って、そうじゃなくてたな! お前に訊きたいことがあるんだ!」
「なんだ?」

ため息をつきながら足を止めた僕は慶介に向き直る。

「軽音部に新入部員の女子が来たそうじゃないか」
「本当に耳が早いな。それがどうした?」

僕は話の続きを促した。

「おめでとう。ようやく念願の新入部員を獲得できたんだし、しっかりやれよ」
「慶介……」

いつになくまじめな面持ちで送られた祝福の言葉に、僕は感動に飲み込まれた。
いつもはあれな慶介だけど、やはりちゃんとしたいいやつなんだ。

「それで、その子の胸の―――」

その一言がなければ、もっとよかったが。
僕は慶介をいつものように始末すると、今度こそ軽音部の部室に向かうのであった。










「ん? あれは」

階段の前に差し掛かったところで、うつむきながら歩いてい来る黒髪の女子生徒の姿が目に入った。

「梓」
「え? あ、浩介先輩。こんにちは」

声を掛けられてようやく僕の存在に気付いた梓は僕の方を見ながら挨拶をしてきた。
僕もそれに返しつつ、一緒に部室に向かうこととなった。

「あの、浩介先輩」
「何?」

階段を上っていると、横からかけられた声に僕は用件を尋ねた。

「その……この間はすみませんでした」
「その件に関しては梓には非がないんだし、謝る必要はないよ」

前回の大激怒の件を謝ってくる梓の律義さに感心しながら、僕はそう返した。

「でも、皆さんに迷惑をかけて……」
「迷惑? ご冗談を、梓は正論を言ってるんだから、迷惑なんて思ってないし。というか、梓の言っていたことは僕が日ごろから言いたかったことだから、それを言ってくれて感謝してるくらいだ。ありがとね、梓」
「そ、そんな。私は……」

僕のお礼の言葉に、梓は慌てながら反応してきた。

「あいつらに何言っても動じないからな……まあ、今度ばかしは効果はあるだろう。何せ、待望の新入部員に一喝されたんだから、普通は恥ずかしくて練習をまじめにしたくなるはずだよ」
「だと、良いんですけど」

僕の予想に、梓の不安そうな声で相槌が返ってきた。
いくら、動じる気配のない二人でも梓の一喝はかなり効いている……はず。

「お先にどうぞ」
「あ、はい。こんにちは」

先に梓を中に入れ、僕も続いて部室に足を踏み入れる。

「……………」

僕の目の前に広がる光景は、練習の準備を整えている唯たちの姿ではなく、ティーカップ片手に談笑している唯と律、ムギの姿だった。

(全然動じてもいない)

僕の予想は最悪な形で破られることとなった。
隣にいる梓も呆れた様子だった。

「あ…………」

そして、僕たちが来たことを最初に気づいたのは唯だった。

「お前ら、いい度胸してるよ。本当に」
「い、今から練習をしようと思ってたんだよ! 本当だよ!?」

僕たちの視線に、唯たちは慌てて楽器を手にした。
しかもそれらはすでに後ろの方に置いてあったものだったことから、僕たちが来たら誤魔化せるようにしたのかもしれない。
……本当に練習をしようとして、用意していたが皆が来ないのでお茶を飲んでいたという見方もできなくはないが。
できれば、僕もそうであってほしいと思っている。
そして、練習が始めった。
ギターを構えた唯が弦を弾く。
だが数回ほどコードチェンジをしたところで、力突きたのか地面に座り込んでしまった。

「はや!?」
「お腹がすいて力が出ないよー」

(そんなのあるはずがないだろ)

唯の言葉に、僕は心の中でツッコみを入れる。
そこへすかさずムギが手にしていたケーキを一口サイズフォークに刺して唯に差し出す。

「う、うま!?」
「なぜに!?」

ケーキを一口食べた瞬間に、速弾きでコードチェンジがうまくできるようになっている唯に、驚愕の声しか出だせなかった。

「梓ちゃんも、一口」
「え、でも……」

速弾きで疲れたのか若干疲れたような表情を浮かべながら一口分のケーキをフォークに乗せて差し出す唯に、梓は躊躇っていた。
だが、何かに負けたのか梓はケーキを口にした。

「あ、おいし――」
「ん? 今なんか言ったか?」

ケーキの感想を口にした梓に、律がすかさずツッコんだ。

「おしいって言ったんです!」

(いや、それ無理があるから)

梓の返事に、僕は心の中でそう口にした。

「うぅ~ん、梓ちゃんは気に入らなかったか」
「うぅ……」

残念そうにケーキが乗っているお皿を見ながらつぶやく唯に、梓の表情は切なげなものとなった。
そんな唯は、梓にケーキが乗っているお皿を差し出した。
すると、梓の表情はまるでひまわりのごとく光輝いた。
だが、逆に唯が腕をひっこめると、今度はどんよりとした雰囲気に包まれる。
そしてまた腕を前に差し出すとひまわりのごとく光輝き、逆にひっこめるとどんよりとした雰囲気に包まれる。

「おもろい」
「後輩で遊ぶな」

若干遊び始めている唯に注意をした僕だった。
ちなみに、この後どうなったのかを目の当たりにした某顧問曰く。

「皆、練習はかどって……って、食べてるし!?」

だった。










「そう言えば、どうしてティーセットを撤去しなかったの?」
「撤去の発起人が……」

山中先生の疑問に肩を震わせた梓の手にはチョコケーキを乗せたフォークが握られていた。

「な、何事も否定するのは良くないかなと思ったので」
「へぇ」

梓の答えに、山中先生たちは意外だと言わんばかりに相槌を打つ。

(間違ってもケーキに買収されたとは言えないもんね)

「梓ちゃんはいつギターを始めたの?」
「小4からです。親がジャズバンドをやっていた影響で」

唯の問いかけに、梓が答えるが完全に初心者というキャリアではない。

(単純計算で5年はやっているのか)

もはや中級者と言っても過言ではない年数だった。

「そう言えば、唯先輩はどうしてギターを始められた切っ掛けってなんですか?」
「え!? えっと……」

梓の疑問に、唯は視線をそらせながら口笛を吹いて誤魔化した。
経緯は律から聞いたが、ものすごい勘違いをしていたということは言えないだろう。

「あ、あの」
「いやー! 新入部員ができて良かった!」

答えようとしない唯を不思議に思った梓が声を掛けた瞬間、唯はわざとらしく大きな声で話した。

(今絶対に誤魔化したな)

「こ、浩介先輩の切っ掛けってなんですか?」
「僕? えっと……」

梓からの問いかけに、僕は視線をそらして考え込む。
唯の二の舞になりかけているが、仕方がないのだ。
何せ、彼女ほどファンとして一番怖い存在はいないのだから。
一つでもミスをすれば全て明かされそうな予感さえするほどだ。

「……三歳のころまで英才教育で、ピアノをやっていたから」
「はい?」

結局、この間律たちにした説明と同じことを話すことにした。
案の定梓はあっけにとられた様子でぽかーんとしていた。

「あ、あの。ピアノからギターに行く過程が分からないんですけど」
「ピアノをやっていたけど、飽きたから試しにとばかりにバイオリンをやってそこからチェロ、ハーブと行ってもう弦楽器が無くなったからギターの方に手を伸ばしてみたら意外としっくりきてやっているんだ」
「す、すごく手が広いんですね」

僕の説明に梓は、苦笑しながら大人の対応をしてくれた。
何だか対応まで律の時と同じような気がしなくもない。

「あ、そうそう。私、梓ちゃんの入部祝いでプレゼントを持ってきてるの」
「本当です………か」

山中先生の”プレゼント”という単語に、表情を明るくしながら期待にみちた表情を浮かべる。
だが、プレゼントを目にした梓が固まった。
ムギの横で立っていてよく見えなかった僕は、少し移動してそれを確認してみた。
その手にあったのはネコ耳のヘアバンドだった。

「あ、あのこれは?」
「ねこ耳だけど?」

梓の疑問に、山中先生は分からないのと言いたげな様子で応えた。

「いえ、それは分かるんですけど。これを一体どうすれば」
「ウヒヒヒヒ」

困惑した梓の背後に忍び寄る黒い影。

「ヒィッ!?」
「あー、大丈夫大丈夫。儀式みたいなものだから」

(一体どういう儀式?)

肩に手を置かれた恐怖で体を震わせる梓に安心させるようにかけられた律の言葉に、僕は心の中でツッコんだ。
そんな中、梓は山中先生の魔の手から逃れることができたようで自分の体を抱きしめるようにして距離をとった。

「あらあら、恥ずかしがり屋さんね」
「当たり前です! 先輩方も恥ずかしいですよ……」

初々しいわと言った様子の山中先生に反論しながら同意を求めるように背後に視線を向けた梓は、再び固まった。
僕もその方向を見ると、そこにはムギが何の躊躇もなくねこ耳をしている姿があった。
さらには、律に唯と続いてねこ耳をするという始末だ。
一瞬自分が変なのかと思ってしまってもおかしくないだろう。

「はい。今度は梓ちゃんの番」

唯から手渡されたねこ耳に、梓はこちらに救いを求める。

「抵抗するとひん剥かれるから、素直に応じたほうがいいよ」
「ちょっと、私を一体なんだと思ってるのよ?」

(いつも悪酔いをしている人みたいなことをする人)

口には出して言えないので、心の中で答えた。

「ぅぅ……」

そんな僕の返事に、観念したのか梓は断腸の思いでそれを頭に付けた。

「おぉぉ!」

その姿に、思わず僕も完成を上げてしまった。
それほどまでにねこ耳が似合っていたのだ。

「すっごく似合ってるよ!」
「私の目に狂いはなかったわ」

その姿に満足した様子で山中先生が頷いた。
こればかりは僕も同意せざるを得ない。

(これほどまでねこ耳が似合う人っているのか?)

「梓ちゃん可愛い~!」

そう言って梓に抱き着く唯の気持ちが僕には十分わかった。

「”にゃあ~”って言ってみて、”にゃあ~”って」

さらにそこへ律が追い打ちをかける。

「に、にゃあ~」
「がはっ!?」

ネコの手をしながら上目づかいで鳴きまねをした梓に、僕は深刻なダメージを負い、後ろに下がった。

(な、なんという威力……お、恐ろしい)

梓の恐ろしさを再認識する僕なのであった。

「あだ名は”あずにゃん”で決定だね!」

そして、唯の手で梓へのあだ名は”あずにゃん”になるのであった。





ちなみに、これは余談だが。

「何あれ」
「さあ?」
「あれって二年の人だよな?」
「そうだと思う」

僕たちの教室の前の廊下では、粛清されたためにのびている慶介を不思議そうに見ている後輩たちの姿があった。
この日を境に、慶介は廊下を歩いていただけで注目されるようになったらしい。
本人は喜んでいるので、特に問題はないだろう。
……たぶん。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
内容的にはついにあの人物が登場するというものになります。
本格的に出てくるのは次話ですが、楽しんでいただければ幸いです。


それでは、これにて失礼します。

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