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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回から、原作で言うところの11話の話に入ります。
そして、しょっぱなから魔法要素がありますので、苦手な方はスルーをお願いします。


それでは、これにて失礼します。

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第67話 占いと楽器

「…………………………」

そろそろ学園祭が近くなったある日の夜。
僕は、自室でカードを置いていった。
一番上に一枚、その下に三枚並べ、その下にも二枚並べ、さらに下には一枚並べる。
そして、カードの上に手をかざして僕は目を閉じた。

「我を照らし出しし月よ。我が名の下に全てを示せ。我が前に立ちはだかるすべての物をここに表したまえ」

僕が言葉を紡ぎ終えるのと同時に、からだから掌にかけて暖かい何かが駆け巡る。
だが、それもすぐになくなった。

『”運命など自分で切り開くもの”と仰っていたマスターが、占いをするなんて珍しいですね』
「まあね」

苦笑しながらクリエイトの言葉に答えた。

「この間の時間ループ事件で、これから先に何が起こるかを予期しておくのも一手だと思ったんだ。知っているのと知らないのとでは違うから」
『そうですか』

僕の告げた理由に、クリエイトはただそれだけ答えた。
今僕がやったのは月の力を利用したタロット占いだ。
いつもはこのようなことをしないが、この間の時間ループの一件で目の前に立ちはだかる脅威をあらかじめ知ることができれば対処ができると思ったのだ。
普通の占いでは、未来を知ればその未来を覆すことはできないとされているが、このタロット占いはその未来にならないようにする道筋に沿って行けば回避(いい結果であれば的中)する物で、ある種の道筋を示すものなのだ。

「まずは、未来に起きる結果」

僕は手前に裏向きに伏せられている一枚のタロットをめくった。
それが、この僕が心の中で思ったことの結果だ。

「なっ!?」

そのタロットの内容に、僕は言葉を失った。
そのタロットは『BREAK』だった。

「よりによって、最悪なカードが出てきたな」

『BREAK』は、文字通りすべての破滅や崩壊を意味し、最悪な部類に入るカードだった。

(僕が考えたのはか学園祭のこと……軽音部の今後のことだから、これが指し示すのは)

「軽音部の空中分解!?」

思わず叫び声をあげてしまった。

(落ち着け……そうならないようにするんだ)

何とか自分を落ち着かせ、僕はその二つ上の三枚のタロットを表にする。
それは、この結果が出る原因から連想されるものを示している。
『HEAD BAND』、『BASE』、『NATURAL』

「ヘアーバンドに、基地に天然………まったく分からない」

タロットに表示された文字に、僕は首をかしげる。
ここがこのタロットの難しいところだ。
タロットカードの中には、思うことによって内容がころころ変わる物も存在する。
今回もそのカードのようだ。

「ヘアーバンドということは頭に付けている物………ベースは基地や基礎」

全く分からない。
だが、なんとなくわかるような気がした。

「ヘアーバンド……カチューシャ………律?」

もはや連想ゲームだ。
だが、ヘアーバンドでふとカチューシャが浮かび上がったのだ。
そしてカチューシャであてはまるのは部長の律だ。

「ということは、律が原因………あり得る」

律には申し訳ないが、空中分解しそうな要因がいくつか考えられた。
だが、それは今に始まったことではない。

「後は、この『BASE』か……もしかして、これってそのままでパートを指してるんじゃないのか? ”ベース”……澪のことを」

だとすれば、納得がいく。

「つまり、澪と律が原因で空中分解ということか。あと、この『NATURAL』は何を指してるんだろう?」

最後の一枚だけ、意味が思い浮かばなかった。

「まあ、律と澪に気を付ければいいということか。それじゃ、回避する方法で、まずは第三者のやつは……」

僕は一番上に一枚だけ置かれたタロットを表にする。
そこに書かれていたのは『TALK』
つまり、話すことだった。

「話し合いで解決か……それじゃ、僕のすべきことは……は?」

僕はまだ表にしていないタロット二枚をめくり、その内容に固まった。
『MAGIC』、『NOTHING』の二枚だった。

「最初は魔法、次が何もしない………矛盾しすぎだ」

『NOTHING』は、直接的な行動をしてはいけないことを示している。
つまり僕にできるのは、当たり障りのないアドバイスをする程度のことなのだ。

「………とにかく、これで僕たちの未来は分かった。律と澪を注意して観察するようにしよう」

こちらからは何も行動をせず、傍観に徹することを決めるのであった。










それから数日ほど過ぎたある日の放課後。

「~~~~♪」
「何だかご機嫌だね梓ー」

先ほどからご機嫌に鼻歌を歌っている梓に、律が声を掛けた。

「あ、はい。学園祭が近いと思ってつい」
「初々しいね~」

どうやら初めての学園祭に、梓は思いを馳せていたようだ。

「はい! 去年の先輩たちのライブも見たかったです!」
「ぶっ!?」

梓の言葉に、ティーカップを口元に運んでいた澪がいきなり噴き出した。

「そう言えば、澪は去年の学園祭ライブで大活躍だったもんな」
「え? どういうことですか?」

そんな澪の様子に苦笑した様子で見ていた律が漏らした言葉に、梓が興味を持ったのか律に内容を聞いた

「ライブの最後にステージ上で見事な転――「言うなーーー!!」―――もごごご!」

律の代わり応えようとした僕の口を、凄まじい速度で移動した澪が口をふさいだことによって、言えなくなってしまった。

(というより、あんた魔法とか使ってないだろうな?)

一瞬澪の気配が感じられなくなってしまった僕は、心の中で澪に問いかける。

「去年のライブの映像ならここにあるわよ」
「本当ですか!」

目を不気味に光らせながら手にしている一枚のディスクを掲げながら山中先生が梓に声を掛けた。

「見る?」
「ぜひ見たいです!」

梓は席を立つと、山中先生が置いたノートパソコンの前で腰を下ろした。

「いや梓。考え直さないか?」

そんな梓に、澪は見るのをやめさせようと必死に説得を始めた。

「律ちゃん唯ちゃん」

だが、そんな澪の様子に山中先生は指を鳴らした。

「「イェッサ―!」」

すると、それだけで内容を理解したのか、律と唯はピッタリな動きで澪の両腕をつかむとずるずると物置部屋の方へと引きずっていく。

「……」

僕は無言で、部室の入り口の方に移動した。

「梓、見ない方がいいぞ。呪われるぞ?」
「それじゃ、おすすめのシーンからね」

澪の脅し(という二はものすごく古典的なものだが)の言葉をすべて無視した山中先生によって、去年のライブの映像のおすすめシーンが再生された。
音声だけでもわかる。
それは、最後のステージの上で転倒した澪のシーンだ。

「ッ!? 見ちゃいました」
「遅かった………」

梓の言葉に、哀愁漂う澪の声が聞こえてきた。
それはまさに、喜劇……悲劇だった。










気を取り直して、僕たちは去年のライブ映像を見返すことになった。
もちろん、最初の方で山中先生の言う”おすすめシーン”ではない。
今は最後の楽曲であるふわふわ|時間《タイム》の演奏シーンだった。

「それにしても、演奏の時だけは本当にいい演奏をするんですね」

そんな映像を見ているさなか、梓が感想を漏らした。
やけに”だけ”を強調して。

「だけを強調するな、だけを」
「言うようになったな、こいつ~」
「にゃ~!?」

律がチョーキングを決め、横から梓の頭を軽く小突き続けた。

(本当に、ネコじゃないかと思う)

”にゃー”と口にしている梓に、思わず僕はそんなことを考えていた。

「どうしたの?」

そんな時、いきなり噴出した唯に、ムギが声を掛けた。

「あのね、この時のことを思い出したら。クスクス」
「そう言えば、この時って」

去年の学園祭でのライブのことを思い出したのか、ムギも笑い出した。

「そう言えば、声がおかしくなってたんだっけ」

その代わりに歌ったのが澪だった。

(こうしてみると、歴史を感じるよな)

「梓にとってはこれが初めての軽音部としてのライブだからな」
「成功させような」

僕たちは二回目、梓にとっては初めてのライブだ。
僕と律は改めて成功させることを決意した。

「はい! 私も皆さんと一緒に頑張ります!」

それに梓も力強く頷いて答える。
僕たちの目指すべき未来はしっかりと定められた。

(今のところ前兆はないけど、油断はできない)

僕の脳裏によぎるのは、あの時の占いの結果のこと。
それによれば、律と澪によって、軽音部は空中分解の危機を迎えることになるらしい。
注意して律と澪を見ていたが、それらしき兆候は見えなかった。

「盛り上がっているところ悪いけど」
「あれ、和? どうしたんだ?」

そんな僕たちに声を掛けてきたのは、生徒会の真鍋さんだった。
その表情は若干呆れているような気がした。

「はい、これ」

そう言って真鍋さんが律に手渡したのを覗き込むとそれは『講堂使用届』と明記されていた。

「今年の学祭の分、出してないでしょ」
「あ、忘れてた」
「そんな、軽い言葉で」

律の問題点で上げられるのは、書類を出すことを忘れることだった。

「あんた、またですか――「高月君もよ」――はい?」

なぜか僕にまでお咎めが来てしまった。

「貴方、副部長なんだから、しっかりと臨機応変に対応していかないとダメじゃない」
「ちょっと待った! 僕、副部長じゃないですよ!?」

真鍋さんの”副部長”発言に、僕はもう講義した。

「え? でも、部活申請用紙の時に、副部長が必要だって言ったら『それじゃ、副部長は浩介で!』って言ってたわよ」
「………律ぅ?」

僕はゆっくりと律の方へと振り向きながら事の真相を問い詰める。

「あ、ごめーん。忘れてた」
「「前にもこんなことがあったよな」」

僕と澪の声が思わぬところで一致した。

「あ、それは部活申請用紙の―――――あいたぁ!?」

この日、律は二人からの痛烈な鉄拳制裁を落とされる羽目になるのであった。










「それじゃ、梓が書記な」
「え? 別にいいですけど」

突然書記に任命された梓は、困惑しながらも必要事項を明記していく。

「この『名称』ってなんですか?」
「バンド名とかじゃないの?」

梓の問いかけに、僕は即答に近い形で答えた。
そしてペンを走らせようとしたところで、梓の手が止まった。

「そう言えば、バンド名ってなんですか?」
『………』

一瞬、沈黙が走った。
そして、全員が一斉にばらばらのバンド名を口にした。

「そう言えば、決めてなかったね、バンド名」
「この機会だし決めるか」

律の言葉で、僕たちはバンド名を考えることとなった。

「だったら、平沢唯とズッコケ五人組ってどう?」
「私たちは何もんだ!」
「というか、おまけ扱いだよな? それ」

唯の提案に、律と僕で却下した。

「それじゃ、”ぴゅあぴゅあ”は?」
「はいはい。ネタはいいから」

ネタなのか本気なのかはわからないが、ものすごくぶっ飛んだバンド名を口にする澪に、律が即答で却下した。

「うっ……本気なのに」
「「本気だったんかい!?」」

まさかの本気発言に、僕までツッコミを入れてしまった。

「ほ、ほら、センスは人それぞれですし」
「梓、フォローがきついぞ」

必至にフォローをする梓に、僕は声を落としてツッコんだ。

「よしわかった!」

そんなカオスになりかけている中、声を上げたのは顧問の山中先生だった。

「私が決める!」
『もう少しみんなで考えよう!』

今度は団結した。
何せ、あの山中先生だ。
とんでもないバンド名が飛び出してくるに違いない。
ならば、この反応はある意味正しいような気がする。

「それじゃ、書き終わったら生徒会室に持ってきてね」
「あ、悪いな、和」

同じクラスだというのは聞いていたが、最近真鍋さんと澪は仲が良くなってきているような気がした。
律の話では、極度の人見知りと恥ずかしがり屋のようだが、きっとそれを超える何かがあったのだろう。

「そうだ! たまには一緒にお茶でもしようよ、和ちゃん」
「分かった。それじゃ、あとでメールする」

唯の提案に答えると真鍋さんは部室を後にした。

「それじゃ、バンド名は各自考えてくるということで、練習でもするか」
「学園祭に向けて一生懸命練習しないとな」
「はいっ!」

澪の言葉に、梓は元気に返事を返すと、練習を始めるべく準備を始めた。

「あ、そうだ。最近私のギターの音の調子が悪いんだけど」
「ん? ちょっと見せてくれる?」

そんな中、唯が訴えたギターの不調に、僕はギターを見せるように唯に促した。
そして、唯から渡されたギターケースを長椅子のところに置いて、ケースを開けると中に入っているギターを取り出した。

「げっ!?」

それを見た僕は、思わず声を漏らしてしまった。
唯のギターは非常に最悪なコンディションだった。

「何? どうかしたの?」

僕のうめき声に、唯が首を傾げた様子で尋ねてくる。

「どうもこうも、これ弦が錆びてるぞ、おい」
「あ、本当です」

僕の肩の方からギターを覗きこむように見た梓が、僕の言葉に賛同する。

「これ、いつ弦を交換したんですか?」

梓が、唯に弦を交換した日を尋ねた。

「え? 弦って交換する物なの?」
『…………』

唯から帰ってきた疑問に、僕たちは一瞬言葉を失った。
僕は今のは幻聴だと信じたかった。

「っていうか、ネックが反ってるるし、これじゃオクターブチューニングとかが全く合いませんよ!」
「お、落ち着け梓! 気持ちは分かるけど、今の唯には理解ができない」

梓のマシンガンのごとく放たれた言葉の数々に、唯は理解ができなかったのかその場で固まってしまった。

「つまり、大事にしないとダメじゃないですか。とてもいいギターなのに」
「えぇ!? 大事にしてるよ! 一緒に寝たり、洋服を着せたりとか!」
「「大事にするベクトルが違う!」」

梓の注意に反論する唯の言葉に、僕と梓は思わず同時にツッコんでしまった。

(一緒に寝てよくここまでもったよな)

唯の寝相がいいのか、はたまたこのギターの運がいいだけなのか。
どちらにせよ、あまり好ましい状況ではないのは確かだ。

「うぅ……それじゃ、さわちゃん何とかしてよ」
「え゛!? そ、そういうのは楽器屋さんに見てもらったほうがいいんじゃないかな?」

唯が山中先生に助けを求めると、山中先生は顔をひきつらせながら答えた。

「絶対にめんどくさがってる」
「あ、あはは」

律の鋭い指摘に、山中先生は乾いた笑い声をあげてお菓子を口にした。

「じゃあ、浩君ならできるよね? プロだし」
「あ、そうですよね。浩介先輩ならギターの修理とかできそうですし」

なんだかすごく過大評価されているような気がする。

「言っておくけど、僕にだって修理できる限度はあるからね」

そう言いながら僕はネックの端の部分に人差し指を触れる。
ちなみに、ネックとは一番先端とボディの中間の部分のことを言う。
僕は目を閉じて全神経を指先に集中させると、ネックの端から端まで指を滑らせる。

「ど、どう?」
「順反り……つまり、上向きにネックが反ってる。これじゃ、音がちゃんとでないはずだ」

梓の指摘通り、ネックが反っていた。

「今ので分かるのか?」
「簡単にではあるけどね」

澪の感心したような言葉に、僕は頷きながら答えた。

「ねえ浩君。ネックって反るの?」

そんな中、投げかけられた唯の疑問に、どう答えるか悩んだ。
そのまま答えてもおそらく唯には理解できないと思ったからだ。

「本とかの紙を上か下か適当に折って広げると、こういう風になるよね?」
「あ、本当だ」

ためしに、近くにあった不要な紙を軽く折って広げると折った方向に髪が動いた。

「これと同じ原理。弦を強く張っている時ネックの部分には、常に30~50㎏程の力で引っ張られている状態なんだ。でも使っていくにつれてネックは弦の力に負けてしまう。これがネックが反る理由なんだけど……理解できた?」
「全然っ!」
「だろうね」

今の説明は少し難しすぎたという自覚があった目に、唯が理解できなくても驚きはなかった。

「確実に直したいんであれば、楽器店に持っていってメンテナンスをしてもらった方がいいと思う。下手にいじって失敗すると、数万円の修理代がとられるから」
「うっ……それはさすがにきつい」
「ということで、楽器店に行くこと」

数万円という額に、唯の顔が引きつった。

「うぅ……律ちゃんは手入れとかしてないよね?」
「しとるわ!」

すがるように律に聞くが、速攻で答えが返ってきた。

「えぇー」
「私が手入れをしていないみたいな感じで聞くなっ!」
「そうだよ。いくら大雑把でいい加減であれな性格をしているからと言って、決めつけるのは良くない」

僕も律の援護射撃に回った。

「律ちゃんの癖に―――あいた!?」
「いつっ!? 僕もですか………」

律から鉄拳制裁を喰らうこととなった僕たちは、楽器店『10GIA』へと向かうこととなるのであった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回で、時間ループの花者終了となります。
犯人の正体、そして動機などが語られています。
そして次話からは原作の11話の話に入ります。


それでは、これにて失礼します。

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第66話 一日の終わり

11時45分、桜ヶ丘高等学校内。

「またやってる。無駄なことを」

そこの一室内でほくそ笑む人物が見ていたのは、浩介達が魔法を使い周辺を白い光で包み込むところだった。

「それじゃ、また繰り返すんだね」

その人物はそうつぶやきながら、鏡に手をかざそうと―――

「そこの君! そこで何をしているんだい?」

したところで、その人物に懐中電灯の光と警備員の声が掛けられた。

「あ、ご苦労様です。私はここの生徒会の者です。ちょっと、忘れ物をしてしまったので、取りに戻ってきていたんです」

女子生徒は、笑顔で答えると学生証を警備員に手渡した。

「曽我部さんね」
「ええ」

少女――恵は、警備員のこおt場に、人当たりのいい笑顔で応じた。

「それじゃ……」

その時、警備員はほくそ笑んだ。

「っ!?」

次の瞬間、恵は見えない力で両手を前方でくっつけるようにして拘束された。

「ようやっと見つけたよ。犯人さん?」
「な、何のことを―――」
「最初は不自然だなぁと、思っていたんだ。君の後姿が妙に”揺らぐ”んだもん」

警備員は得意顔で、説明を始めた。
それを恵は歯を食いしばりながら睨みつけるように、警備員を見ていた。

「でも最初は、確固たる証拠はなかったし、揺らいでるのも気のせいかなと結論付けてしまったけれど、この時間のループを考えると、無関係ではないのではと思うようになったんだ」
「………」

警備員の説明に、恵は何も反応を示さない。

「だからよく観察をしてみると、君だけ同じ行動をとっていないんだよ」
「何を言ってるんですか? 私はいつも通り行動してますよ」

恵の反論に、警備員は首を横に振る。

「例えば、宣誓をするとき、君は右手を上げていたが、その際の右手の角度が5度ぐらいずれているし、手の開く幅も数センチほど違う。ちなみに、君以外で時間のループに気づいていない人たちはすべての所作やフォームの角度や間隔、その他諸々が同じ事は確認済み。これが意味することは何か、わかるかい?」
「あ、貴方は一体……」

あまりにも異様な根拠に、恵の表情がこわばる。

「私か? 私の正体はこういうものさ」

警備員が不敵の笑みを浮かべながら指を鳴らした。
すると、警備員の姿がぐにゃりとゆれて崩れ始めた。
そして、それはゆっくりと別の人物の姿へと変わっていく。

「なっ!?」

その正体を目にした時、恵の表情は驚きに包まれた。

「た、高月浩介!?」

そこにいたのは、浩介の姿だった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


浩介(?)の前には粉々に粉砕された時計だったものの残骸があった。

「あの、電話が鳴っていますけどでなくていいんですか?」
「ああ、これ。これは合図だよ」

そんな中、先ほどからけたたましく鳴り響く電話の着信音。

「何を言ってるんですか?」
「浩君?」

浩介(?)の言葉に、困惑の色を浮かべる二人に、浩介(?)は笑みを浮かべる。

「さすがに違和感を感じるようね。さすがは選ばれた人間……勘がいいようで何よりよ」

そう言いながら、指を鳴らすと浩介の姿が崩れていき、それは元の姿へと変わる。
月の光に照らされるのは白いフードつきのローブのような服だけだった。
フードを深くかぶっているため、二人はその姿まで確認できない。

「だ、誰ですか!」
「ごめんなさいね。それは言えないわ。でも、私は貴女たちの味方で、危害を加えるつもりはないから。そんなに警戒しないでちょうだい?」

警戒心むき出しで、声を上げる梓に女性は穏やかな声で返した。

「どうしてなんですか?」
「だって、彼が私をここに来させた時に特に指示がなかったからね。そういう時は私は何も言わなくてもいいということでもあるから」

唯の疑問に、女性は窓の方を見つめながら言葉を返した。

「さて、もう夜も遅いし、いい子は帰る時間よ」
「あの―――」

女性は、唯の声を右手を上げることで遮った。

「リーブン・アロー・メジェスタ」

女性の紡ぐ呪文によって、音楽室に続くドアが一斉に開け放たれる。

「また縁があれば会いましょう」
「え、ちょっと……きゃあ!!?」
「にゃぁぁぁ!?」

女性の言葉に、返事を返すこともできず、唯たちはドアに吸い込まれるのであった。
そして、ドアは大きな音を立てて閉じるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「それじゃ、あれはいったい誰―――」
「|完全複製《パーフェクト・コピー》」
「は?」

僕の口にした単語に、犯人は口を半開きにさせる。

「全てにおいて完璧に模写してしまう能力。人だろうと力だろうと、すべてを。それを持ってるのが、僕だけだと思ったら大間違いだ」
「………鉄壁の盾か」

僕の説明で、どうやらあの鏡に写る偽物の僕の正体に気が付いたようだ。

「ここから部室を監視して、時間の巻き戻しや停止など諸々の操作をしていたというわけか。だが、時間操作の影響を受け付けていないことが逆に仇となったな」
「それはどうかな?」

僕の言葉に、犯人は不敵な笑みを浮かべながら反論した。

「あの時計には、爆破機能がついてるんだ! 指示さえ出せば、あいつらはお陀仏だ!」
「ならばやってみな」

犯人の言葉に、僕は促すように告げた。

「あ?」
「だから、爆破してみなよ。そのスイッチだろ? ほれ」

筒状で先端に赤いスイッチのようなものがついている物を僕は犯人の手に渡した。

「気でも狂ったか。ならばお望みどおりに……は?」

ボタンを押した恵だったが、何も変化がないことに慌てた様子で、ボタンを狂ったように押し始めた。

「爆破機能がついていることはもう把握している。だから、時計をこんな風に木端微塵にしたわけだ」
「なっ!?」

ホロウィンドウを展開して、部室の状況を犯人に見せると、驚きに満ちた声を上げた。

「で、なんでこんなくだらないことをした? 動機を言いな」
「許せなかったんだ」

僕が動機を言うように促すと、犯人はポツリポツリと動機を語り始めた。

「浩介様は、あのような低俗で知能程度が低い野蛮な愚者共といるべきではありません! 我が祖国で、腕を振るわれていた浩介様に、戻っていただきたい!」
「………やれやれ」

犯人の動機に、僕はそれしか口にできなかった。

「いいか? 魔族優位説の時代は終わったのだ。これからは、我々は人間と共に共存をしていく必要がある」
「なりません! 人間は再び我々を飼い殺しにする気だ!」
「確かにな。だが、それは魔族とて同じ、いいやつがいればお前のような犯罪者もいる。全生物がそういうもんだ。だからと言って閉じこもっていては衰退をもたらす。進化するには人類との共存が必要なのだ」

それは僕が前から持っていた持論だった。

「かなり長い服役になるだろう。そこからでいいからじっくり考えるんだな。衰退化進化を取るのかを。お前を広域魔法の無断使用と、高月家倫理規定法違反で逮捕する」





「お疲れ様。無茶な要望を出して悪かったね」
「まったくだよ。いきなり呼び出されたかと思えば、いきなり演技をしろだなんて」

僕が毎回降り立った屋上で、白いフードつきのローブに身を纏っている女性に、声を掛けるとどこか呆れたような声色が返ってきた。
その女性はこちらへと振り向くと、そのフードを脱いだ。
そして現れたのは青色の短い髪に赤い目をした少女だった。

「久しいな。何年ぶりだ?」
「ここに来る前だから約10年になるかな」

僕の疑問に、少女は簡単に考え込む仕草をすると答えた。

「そっちの方はどうなの? 順調?」
「順調と言われれば、そうだし。そうでないと言えばそうなるな」

首をかしげながら、僕は矛盾した答えを返した。

「クスクス……なにそれ」
「矛盾してるな」

少女が笑い、それに倣って僕も笑い出す。

「そろそろ戻りな。一時停止状態にさせた僕が言うのもあれだが、あまり長い間止めておくと、任務遂行に支障が出るだろ」
「大丈夫よ。この程度の停止なんて、良いハンデだから。それにあと少しで任務終了になるし」

僕の心配に、少女は自信に満ちた表情で告げた。

「早いな、おい」
「当然よ。この私を誰だと思ってるの? かの、最強の魔法使い高月浩介の一番弟子であり―――」
「僕の妹だもんな。当然か」

少女……妹に、僕はそう声を掛けた。

「それで、そっちの方はどうだったの?」
「こっちも成功だ。別室でモニターしていやがった」

妹の問いかけに、僕は空を仰ぎ見ながら答えた。

「兄さんの推測通りということね」
「ああ」

何回にも及ぶ時間のループ現象。
その時に見つけた不自然な点が、事件を解決へと導きだした。
あの時計に掛けられた探知魔法は、”術者への通達”のみの役割だった。
ならば、時間操作の魔法を制御する人物が、近くにいるはずだ。
例えば、原因となった時計が置かれた校舎内。
離れれば離れるだけ、見つからない可能性は大きくなるが、臨機応変な反応は難しくなる。
距離が開けば開くほど、魔法の具現化には時間差が生じる。
地球の反対側へと魔法を具現化させる際には最大で5秒程度のズレが生じるらしい。
要するに、この街の中からならば、せいぜい1秒程度のズレで済む。
たった1秒、されど1秒。
とっさの判断から魔法を行使して、それを具現化させる全行程を加味すれば、この1秒は致命的だろう。
だからこそ、即座に発動できる校舎内に留まっていたのだ。
しかも、魔法を使えば居場所が特定されるかもしれないという不安から、犯人は探知魔法を仕掛けて反応があれば、モニタリングするという形式にして。
尤も、それが居場所の特定につながってしまったわけだが。

「犯人が成りすましていた生徒は無事に保護して自宅に戻したよ。記憶の方も一通り削除して、適当な菊を植え付けておいたから、今回のことは何も覚えていないはず」
「そうか。これで、解決だな」

妹の報告に頷きながら、僕は事件解決を告げた。
こうして、僕たちの長い長い一日は、ようやく幕を閉じるのであった。










「そんなことがあったのか」
「本当に大変だったよー」

翌日、放課後の部室で、僕は一連の事件について話していた。

「それで時計がなくなってたんだ」
「ムギもゴメンね。時計を壊しちゃって」

梓達にした約束通り、僕はムギに時計を破壊したことを謝った。

「ううん。気にしないで。もとはと言えば、私が持ってきた時計が原因だったんだから」
「でも、どうしてムギ先輩にそんなものが渡っていたんでしょうか?」
「犯人によると、彼女が僕の知り合いであることを突き止めていたらしく、彼女に渡せば確実にこの部室に持ち込まれると考えていたらしい」

あの後、魔法連盟の方から報告があり、時計をムギに渡したのは”そうすれば部室へと持ち込まれる可能性が高かったから”らしい

「部室に持ってこさせる理由ってなんだろう?」
「この部室には僕がいて常時魔力……魔力残渣だけどを放出しているから、そのおこぼれを吸収しようと考えたらしい」

時間操作の魔法には莫大な魔力を消費する。
しかも24時間ともなればかなりの量だ。
それを軽減するため、時計自体に魔力を蓄積させるようにしたのだ。
そうすれば、使用魔力量も必然的に少なくなるからだった。

「でも、浩君いつの間に犯人のことに気づいたの?」
「昨日、時計に触れた時にね」

昨日の放課後に、手を触れた際に僕はそれに掛けられている探知魔法が”術者への通告”しかなかったことに気が付いた。
さらに爆破機能なども仕掛けられているのも把握できたため、犯人確保と時計の完全破壊をする必要があったのだ。

「普通にやったのでは、犯人に気づかれるから、影武者を用意していつものようにやってもらったのさ。その隙に僕が犯人を拘束するという作成でね」
「でも、調査とかを始めるのに一日はかかるって言ってましたよね?」
「あれは正式に依頼すればの話で、一番頼もしい相棒が担当中の任務を強制的に止めて連れてこさせることくらいは、1時間もあればできる」

僕は紅茶を口にしながら梓の疑問に答えた。
尤も、最初ここに来たときはものすごく嫌味を言われたが。

「まあ、そのせいで書類が5倍に膨れたけどね」
「あ、あはは……」

まさに苦笑ものだった。
ちなみに、全部始末書だったりする。
理由は、妹を職権乱用でこちらに連れてきてしまったからだ。

「でも、その人はどうしてこんなことをしたのかな」
「なんでも、人間と馴れ馴れしくするのが嫌だったから。らしい」
「なんだそれ?」

ムギの疑問に答えた理由に、律が顔をしかめる。

「魔界では人間は”悪”で滅ぼさなければならない種族という認識だから」
「え?」
「魔女狩りというのが昔あったでしょ?」
「確か15世紀から18世紀のヨーロッパで行われたものよね」

この世界の歴史では、”悪魔と契約を交わした人間”という解釈で通っている

「その魔女狩りで、魔族が大量に惨殺される事態に陥ったんだ。ほかにも、自分の為に力を行使しないからという理由で死罪になった者までいるほどだ」
「ひどい」
「そんなの、あんまりですよ!」

僕の話に、梓がまるで自分のことのように怒りをあらわにする。
他の皆も口には出さないが顔をしかめていた。

「それで、人間は強欲で、自分のことを考えない野蛮の種族という風に言われてしまい、魔界では魔族こそが世界を束ねるのにふさわしいという魔族優位説までもが誕生してしまった」

本当はそれが原因で魔界という世界が隠匿されるようになったのだが、それは言わなくてもいいだろう。

「でも、皆も知っての通り、魔界にある家電や建造物は、全て人間界から技術を持ってきている。もはや魔族優位説というのは、魔界の衰退を意味する物へと変わりつつある。今僕は人間と魔族が互いに手と手を取り合い共存する、”共存説”を魔界に定着させる運動を進めている」
「それじゃ、浩介がここにいるのって――「それはない」――」

僕は澪の言葉を遮った。

「確かに人によってはそう捉えている物がいるのは否定しないが、だからと言って、みんなが気を使うことはない。必要なのは”いつも通り、生活すること”だ。気を使いだした瞬間に、すべては終わりを意味するから、それだけは覚えておくといい」
「浩君」
「何?」

きっぱりと澪に告げた僕に右手を上げながら声を上げた唯に、用件を尋ねた。

「全然わかりません!」
「…………」

唯からの申告に、僕は思わずずっこけてしまった。
唯はある意味で期待を裏切らない存在だ。

「だったら、それでいいんじゃない」
「えー! 何だか誤魔化されたような気がする!」
「あ、そう言えばあの女性は誰だったんですか?」
「うーん……秘密」

抗議の声を上げる唯をしり目に梓が問いかけてくるが、僕は少しだけ考えこんで出した結論は秘密にすることだった。

「おやおやこれはあやしいですねー」
「勘違いしないで。皆は知らなくていいことだし、それにどうせ会うこともないからだ」

変な勘繰りをしようとする律に、僕は釘を刺した。
本当のことを言うと、あまり紹介したくない。
妹は、根はとてもいいがすごく変わり者だ。
それにあいつは僕のことをいろいろ知っている。
それを皆に言われるのがとても嫌だった。

「ぶーぶー。横暴だ!」
「そうだ~! 我々は頑固として名前を言うことを要求する!」
「さあ、練習でも始めるか」

律たちの抗議をすべて切り捨てた僕は、席を立ちながら告げた。

「はい! 分からないところがあるので、そこを教えてもらってもいいですか?」
「もちろん」

すぐに目を輝かせて梓が訊いてきたので、僕は即答に近い形で頷いた。

「律ちゃん隊長、浩君たちが逃げるであります!」
「こうなったら、私たちも練習に加担するぞ!」
「了解であります」

結局、全員での練習ということになった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回で5回目のループですが、さて無事にループを終えることができるのか。
そしてこの事件の顛末は何か。
すべては次話にて明らかとなります。

ちなみに、何気に2週間ほど毎日更新していたりします。


それでは、これにて失礼します。

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