健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第84話 終わりと思い

「ちくしょう、どうなってんだよ!」

とある廃工場にて、竜輝は毒づく。

「あいつはいつになったら来るんだ!」

竜輝は、探偵である田中が来るのを待っていた。
だが、来ると言った日から数日過ぎても来る兆しはなかった。
待っている間に、彼を取り巻く状況はさらに悪化していった。

(電話も止まって連絡ができねえ)

彼の携帯電話は、ついに止められてしまい連絡をとる手段がなくなってしまった。
食料は、手にしていた財布にあるお金を利用してコンビニ弁当で済ませている。
だが、お金も残り200円と、ついに底を尽きかけていた。
彼は電話が止まる前に田中から、浩介が魔法使いであるとの報告の連絡を受けていたのだ。
当初は笑い話にして気にも留めてはいなかったが、証拠を持ってくるという田中の言葉に、竜輝はその証拠が来るのを待っていたのだ。

(……まさか始末されたか!)

竜輝は、すぐにその結論に至った。
笑い話にして気にも留めていなかったことが、現実であるということを悟ったのだ。

「やっとわかったぜ。魔法で平沢唯の心を操ってるんだな! 何たる非業!! いや、外道!」

自分のやっていることを棚に上げ、勝手な妄想を口にする竜輝の心に、ふつふつと怒りが芽生え始めた。

「こうなったら、この俺様で化け物を始末してやろうじゃないか!」

(だが、どうやってだ?)

浩介に対抗する手段を竜輝は持っていなかった。
暴力団などとつながりがあれば別だが、今の隆起には武器になるような存在など残されてはいないのだ。

「…………とにかく、探すか」

竜輝は外を歩いて武器になりそうなものを探すことにした。
工業団地はどこも柵で覆われており、中に入ることはできても工場施設内にまで足を踏み入れることはできないのは、すでに把握していた。

「そこの坊や」
「あん?」

そんな時、彼を呼び止めたのは黒のローブをかぶった人物だった。

「誰だてめぇ」
「私は可愛そうな坊やの救世主」

威圧的な竜輝の言葉に、女性の声が返ってきた。
声からして老婆のようだった。

「坊やは大きな力に立ち向かおうとしている」
「…………」

老婆の話を、竜輝は生まれて初めて親身になって聞き入れていた。

「そんな坊やにこれを渡そう」
「何だこのおもちゃは?」

老婆から手渡されたのは首にかけるタイプのアクセサリーだった。
それを怪訝そうな様子で首をかしげる彼に、老婆は応える。

「それは、坊やの身を守るお守り。それがあれば自分を守ることができるぞよ」
「はっ…………まあ、ババアの顔を立ててもらってやるよ」

竜輝は老婆からひったくるようにアクセサリーを奪い取り、その場を去っていった。

「…………………」

その様子を、老婆は無言で見送るのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「じゃあな、唯」
「うん。またね―浩君」

哀れな探偵を一人潰してから二日たった。
夕暮れ時、僕はいつもの場所で唯と別れる。
この日も、何事もなく一日を終えようとしていた。

(あいつの話だと、すでに接触は済ませているようだから、そろそろのはずだけど)

一体いつになるのか、僕にはわからなかったが、とりあえず気長に待つことにした。

内村が行動を起こす時まで。

「ん? 電話だ」

自宅に戻って数時間程が経ったとき、携帯電話が着信を告げた。

「って、唯からか」

相手を確認すると、電話をかけてきたのは唯だった。

(一体こんな夜遅くに何の用だ?)

ため息をつきそうになるのを必死にこらえ、僕は着信ボタンを押すと耳にあてた。

「もしも――」
『浩君! 助けてっ!!』

僕が言い切る前に、唯の助けを求める声が聞こえた。

『よう、高月ぃ』
「内村っ」

続いて電話口から聞こえたのは内村の声だった。

『よくも俺様に、ひもじい生活をさせたな』
「自業自得だ。それよりも、貴様何をしている」
『何を? 俺様のものを取り返しただけだ』

僕の言葉に、内村は人を苛立たせるような声で答えた。

「………」
『話がしたいんなら来いよ。場所は――――』

内村から場所を聞き出した僕は、急いで家を飛び出す。

(なんということだっ!)

僕は自分の浅はかさを悔やんでいた。
極限状態に追い詰められた人間は、時にして理解できない行動をすることがある。
そのようなことはすでに知っていたはずだ。
僕はそのことを完全に考えていなかった。

(今は一刻も早く唯を助けないと!)

僕は途中で久美に結界を展開してもらえるように頼み、指定された場所へと向かっていくのであった。





指定された場所はどこかの廃工場だった。
周囲を見ると生活していた痕跡があり、ここが奴の寝床だったのだろう。

(入り口付近の花束は何の意味があるんだろう?)

ふと、目に留まった花束に僕は考えをめぐらせるが、それは今は関係ないため頭の片隅へと追いやった。

「よぅ、高月ぃ」

その奥の方に、奴の姿があった。
そんな奴の手元にはナイフがあり、それは唯の喉元に突き付けられていた。
完全に人質にとられていた。
唯の表情はやはり、恐怖などによって青ざめていた。

「浩君!」
「……何が目的だ?」

内村を射抜くように見ながら、僕は尋ねた。

「貴様の前で、こいつをめちゃくちゃにしてやろうと思ってなぁ! 他の男に手を出すなんて、躾けねえといけねえし」
「……………貴様はつくづく人間の屑のようだ」

内村に対して、怒りはこみ上げなかった。
逆に哀れにさえ感じる程だ。

「そう言ってられんのも今の内だ」
「きゃ!?」

唯の悲鳴が聞こえた瞬間、反射的に攻撃魔法を内村に向かって放っていた。
それはまっすぐに内村に飛んでいき、着弾する
―――はずだった。

「何?」
「ガハハハハ! どうだ、見たか!」

目の前で起こったことに顔をしかめている僕を見て、内村は面白おかしく笑う。

「お前の力は、私には効かな―――」
「インパクト!」

内村の言葉を遮るように、僕は呪文を唱える。

「きゃああ!?」

次の瞬間、唯はまるで誰かに引っ張られているかのように、内村から吹き飛ばされる。
だが、少し飛ばされたところで唯はゆっくりと地面に着地した。
そして彼女を守るように結界が張られる。

「なっ!?」
「これで、貴様は唯には触れることはできない」

今度は内村が言葉を失う番だった。

「確かにお前には魔法が効かないが、それは”お前を起点にした”だけだ。お前以外の人物に対して生じる魔法事象は無効化できないみたいだな」
「おのれぇ。高月浩介め」

自分の目的を邪魔された内村は憎悪に満ちた目で僕をにらみつける。

「さあ、始めようか?」

僕の手にあるのは剣状のクリエイト。
内村の手にあるのは攻撃を通さない何かと鉄パイプ。

「おらああああ!」
「浩君! あぶない!!」
「失笑! 危なくもなんともない。ほら、遅い遅い」

真正面から殴りかかろうとする内村の攻撃を、僕は叫び声を上げる唯に笑いながら否定すると、余裕で回避した。

「死ねええええ!」
「ッフ!」

バカの一つ覚えのように特攻する内村の手にある鉄パイプだけを、僕は真っ二つに切り裂いた。

「この化け物めが」
「私が化け物ならば、それよりも下のお前はなんというのだろう? ゴミ? カス? それとも屑か?」

僕にはその答えは持ち合わせてはいないが、一番最後が有力のような気がする。

「ふざんけんなぁ!」

そんな僕の言葉に、内村が咆哮する。

「俺様は! 選ばれた民だっ!」
「あはははは! これは傑作だ! お前のような愚か者が、まだいるとはなっ」

内村の攻撃をかわしながら、僕は内村の言葉を笑い飛ばした。

「貴様は選ばれてはいない。ただ親のすねをかじり、親の光だけで輝いている。哀れなドラ息子だ!」
「ッ!? 貴様ぁぁぁぁ!!!」

僕の言葉に、激昂した内村は黒い何かを取り出した。
それはどこからどう見ても拳銃だった。

「はぁ、そんなものがあるなら最初からだしなよ」
「うるさい黙れぇっ!!」

ため息交じりの僕の言葉に、内村は銃を連射する。
だが、僕はそれを余裕で交わしていく。

「拳銃は確かに恐ろしいが、当たらなければ意味がないんだぞ?」
「くっ!!」

先ほどの連射で弾が切れたようで、内村は拳銃を投げ捨てた。

「結局お前はその程度の人間ということさ。 頭も心も空っぽな可愛そうな子供」
「うるさい!!」

もう完全に僕のペースだった。
内村は、僕が怒らせようと思えばいつでも怒らせ、そして行動をさせることもできる。

「こいつは俺様の女だっ!  俺はこいつを愛しているんだ! だが貴様は凡人の分際で俺様の女を盗んだ! お前だけは許さねえ。絶対に許さねえ!!」
「愛してるだぁ? 貴様のそれは愛などではない」

内村の口から出てきた見当違いな言葉に、僕は呆れ果てていた。

「貴様はただ人を自由に操りたかっただけだ。操って自分が特別であるという幻想を見たかっただけだ」
「ち、違う! 俺様は本当に心の底から愛して―――」
「では訊こう。お前は彼女がピンチの時、命を張ってでも守れるか? 自分の命を懸けてでも」

必至に否定する内村の言葉を遮った僕は、問いただす。

「そ、それは……」

内村は僕の言葉に口ごもる。
それは応えているも同然だった。

「それができずして、何が”愛している”だ。覚悟もねえくせにちんけな言葉を使うな。ガキ」
「だ、黙れ! だ、大体関係の内規様にそんなことを言われる義理は――「関係ならあるさ」――何ぃ!?」

僕の指摘に激昂する内村の言葉を遮って告げた僕に、内村は目を細める。
その姿には威圧感などみじんもなかった。

「だって、僕は平沢唯のことが、一人の女性として好きなんだから」
「なっ!?」

僕のカミングアウトに、内村は目を見開かせて固まった。
僕自身も不思議だった。
なぜ、このタイミングで自分の思いを告げたのかと。
だが、それは今はどうでもいい。

「僕には覚悟もある。唯がお前に拉致されたと知って、私は刺し違えることになってでも唯を助けようと思い、ここに来た。私はこれからも唯を守る。そのために、私には魔法がある」
「は、はは! 馬鹿馬鹿しい! 何が守るだ! 化け物は化け物らしく、人間の奴隷になっていればいいんだっ!!」

僕の決意を、内村は笑い飛ばし暴言を吐く。

「私は変化を恐れた。自分が最強の座から転落すると思ったからだ。魔法だけが私の存在意義。それを失うのを恐れた」
「はぁ? いきなり何を言ってんだぁ?」

僕の独白に、内村は小ばかにしたような表情を浮かべるが、僕はそれを気にせずに続けた。

「でも、平沢唯という存在がそんな僕を変えてくれた。僕の存在意義を新たに作ってくれた。魔法に代わる新たなる意義を。だから、僕は変わる。これまでの自分を捨ててでもっ! そして―――」

僕はそこで言葉を区切った。
そしてこれまで封じてきた自分の力を解放する。

「この一撃がその証! 過去の変化を恐れた弱い自分への別れのレクイエム。そして新たな自分になるという決意! 貴様が平沢唯のことを本当に愛しているというのであれば、この一撃! 受け止めて見せろ!!」
「じ………上等だぁ! この俺様こそが平沢唯を愛するに足りる存在だと証明してやらぁ!!」

僕の誘いの言葉に、内村はうまく乗ってきた。
彼は大きな勘違いをしている。
奴は僕の魔法を防げると”思い込んで”いるのだ。
僕の魔法を”完璧に”防いだものは一人もいないのに。
僕の雰囲気に飲み込まれそうになりながらも、言い返せたのは彼なりのプライドだろうか?

(まあ、いいか)

僕はその一言で考えるのをやめた。
そして僕は杖状のクリエイトを内村に向けて構える

「永劫の闇よ。我が力に応えよ」

それが始まりだった。
それは数十年ぶりに紡ぐ、魔法の呪文。

「我が名の下に、集え」

それはかつて最凶と呼ばれた魔法。

「全てを滅ぼし、全てに裁きを下す審判の闇よ。我の名の下にかの者に裁きを与えたまえ」
「ひぃ!?」

僕が内村を見据えると、怯えたような表情を浮かべた。
僕の体中に言葉にはいい表せないほどの力が込み上げてくるのがわかった。
それは、僕の心を侵食しようとする。
でも、僕はそれに耐える術を知っている。
この僕こそが、闇を纏う魔法使いなのだから。

「闇を纏いし魔法使い、高月浩介が命じる。咎人に破壊という名の裁きを下せ! ダーク・ラスト・ジャッジメント!!」

ついにそれは放たれた。
死神に魅入られた魔法とも言われたそれが。
それを喰らって生還したものは0と言われた凶悪な力が。

「ぐ、ぐぐ……どうだ! 防いでるぞ! 俺様はお前の魔法を防いでる!!」

確かに、防いでいるという表現は正しいだろう。
現在、内村を覆うように守る何かは、僕のダークラストジャッジメントと拮抗している。
だが、それはあくまでも”均衡”状態にあるだけだ。
つまり、

「なっ!? ひ、ひびが?!」

ゆっくりとだが、内村を守る何かに小さなひびが入り始める。

「あんたが言っているそれは、確かに魔法攻撃から身を守ることができる。だが、”常時ではない”。それはあくまでも、一時しのぎでしかない」
「な、何を言って――」
「つまり、いずれそれは破れるということさ」

それだけを告げて、僕はその場をジャンプすることで、結界に覆われている唯の前に着地した。

「浩く―――」
「舌噛むから話すな」

僕の名前を呼ぼうとする唯に、告げると勢いよく飛び上がった。
天井が抜け落ちているので、外まで飛び上がることができた。

「兄さん!」

外まで飛び上がったところで、待機していた久美が空を飛んで近づいてきた。

「久美、唯を」
「任せて! ちゃんと家まで送るわ」
「浩君――――」

唯が何かを言いかけるが、それよりも早く久美は唯の家へと向かっていったため、僕には聞き取ることができなかった。
そしてそれと同時に、爆音が響き渡るのであった。










「……ぁ……ぅ」

トドメの爆発によるダークラストジャッジメントの余波が止んだのを確認した僕が、再びあの廃工場に戻るとそこには地面に倒れている内村の姿があった。
着ている服はいたるところが切り裂かれており、赤い物も見える。
完全に満身創痍の状態だった。

「あの一撃を受けてもなお生きているのは、運がいいな」

虫の息ではあるが、まだ息があることに僕は驚きを隠せなかった。

(まあ、久美に作らせた防御特化型のマジックアイテムのおかげだろうけど)

久美に老婆の姿に変装してもらい、あらかじめマジックアイテムを渡しておいたのだ。
それはこのアイテムの特徴を伝え、内村の絶望に染まった顔を見るためだ。

「さて、お前には二つの道がある」

虫の息の内村を見下ろしながら、僕はそう告げる。

「お前は自分の好きな道を心の中で応えろ」

僕はそう告げるとクリエイトを彼の体に当てる。
それによって、彼の心の声が一気に流れ込んできた。
その声は”殺す”や”許さない”といった負の感情が主だった。

「まず一つ目。このまま死にゆくのを待つ」

僕の言葉に”死にたくない”、”いやだ”と言った拒絶の言葉が入り込んでくる。

「そして二つ目。改心し、第二の人生を過ごす」

その案件に、内村の”それがいい!”、”頼む、助けてくれ!”と言った懇願が聞こえてきた。
その姿は、まさしく哀れだった。

「心得た。お前の選択した道の先に、命運が有らんことを」

僕は祈りの言葉を継げながら、剣を上空に掲げた。
”何をする気だ”
今度は怯えが込められている声が聞こえた。

「さようなら、内村竜輝」

僕はお別れの言葉を紡ぎながら、剣で内村の身体を躊躇もなく貫くのであった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話と新作を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
竜輝の策によって翻弄される浩介。
そして今回初の犠牲者が出ました。
次話では、いよいよ佳境となります。

そして、本日新作を掲載しました!
タイトルは『カミカゼ☆エクスプローラー~無を司りし者~』です。
原作はクロシェットの『カミカゼ☆エクスプローラー』となります。
ちなみに18歳未満はプレイできないタイプの原作ですので、ご注意ください。
なお、本作ではR-15ということで、18歳未満の方でも閲覧して問題のない作品となっておりますので、ご安心ください。

本作に登場するオリ主の『浩介』ですが、他作品の『浩介』に関する設定とは微妙に違いますので、ご注意ください。

さて、拍手コメントの返信を行いたいと思います。

『面白い話しでした。 内村竜輝がださいのが よかったです』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
竜輝が小物キャラに見えるようにしていたので、ある意味ダサいというのも思い通りな感じになったので、安心しました。
先に申しました通り、次話で一つの佳境を迎えますので、楽しみにしていただけると幸いです。


それでは、これにて失礼します。

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カミカゼ☆エクスプローラー~無を司りし者~

カミカゼ☆エクスプローラー~無を司りし者~

あらすじ

海面上昇によって、人の生活圏が少なくなっている時代。
超能力のようなもの”メティス”を扱う者が現れるようになった。
そんな人物たちがメティスについて学ぶための学び舎『澄之江学園』に転校してきた速瀬 慶司。
彼のほかにも、もう一人の人物が転校することとなった。

これは、その少年たちが紡ぐ物語である。

*不定期更新ですが、よろしくお願いします。
また、感想やアドバイス等がありましたら、何なりとどうぞ。



プロローグ

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プロローグ

それは無価値の物。
人々にとっては存在する意味のない物。
ならば、私がそれに意味を持たせよう。
無価値の物が存在する意味を。
私の手で周りにある価値ある物すべてを奪ってしまおう。
”無”という力の名の下に。





『次は終点、澄之江学園都市、澄之江学園都市です。どなた様もお忘れ物ございませんよう、ご注意ください』

上ヶ瀬市街の方から、バスで約30分ほどかかったが、何とか目的地に到着したようだ。

(さすがに”向こう”からここに来るのは骨が折れる)

来るだけでも疲労感を感じたような気がした。
実際には片道2時間という距離だが。

(まったく、何で出発前日に来るかな)

疲労感を感じながら、僕は愚痴をこぼす。
そんな僕の心境とは裏腹に、窓の向こう側に青色の空が見えた。
それから程なくして、バスは僕の目的地である『澄之江学園都市』に到着した。
海面上昇により、水没した上ヶ瀬市の沿岸部を埋め立て、そこに作られた複合型の場所が今僕がいる『澄之江学園都市』だ。
ちなみに、正式名称は『上ヶ瀬市澄之江学園都市町』らしい。
都市なのか町なのかどっちなんだと思わずツッコんだので、よく覚えている。
僕は、明日からその澄之江学園に転入することになっている。
それに至る経緯は少しばかり特殊だ。
半年ほど前、この学園都市付近を散策する機会があったのだが、その時にある女性に呼び止められたのだ。

『澄之江学園に転入しませんか?』

正確には違うが、その女性の説明は要約するとそんな感じだった。
最初は返事を保留にさせてもらっていたが、色々な事情で転入を決めたのだ。
正直半年も保留にしていたので、ダメかとは思ったが向こう側は快く受け入れてくれたのがとても意外だった。

「確か、この辺りで案内をする人が待ってくれているはずなんだけど……」

当然だが、この場所や学園のことをよく知っているわけではないので、案内人が必要となる。
僕をスカウトした人は多忙のようでそれができないため、代わりの人にお願いをしているそうだ。

「あの、すみません」
「あ、はい」

そんなことを考えていると、ふいに呼び止められた僕はその声の方に向き直った。
そこに立っていたのは橙色の髪をした少女だった。
おそらく100人いれば100人ともが振り返るほどの美少女であった。

「人違いでしたらすみません。あなたが、転入生の高月 浩介さんですか?」

(僕のことを知っているということは、彼女が案内人かな)

もしかしたら人さらいの可能性もあるが、そんなことをする意味もないし、制服も来ているので案内人で間違いはないはず。

「す、すみません! 人違いでした。本当に申し訳ありませんでした」
「あ、こちらこそすみません。ボーっとしてただけですから、人違いではないです。自分が高月浩介です」

少女の姿に思わず見とれてしまった自分に、恥ずかしさが込み上げてきた。

「良かったです。また人違いかと思ってしまいました」

ほっと胸をなでおろす少女だが、僕は”また”という単語が気にかかった。

(一体何人間違えたんだろう)

ふとそんなことを聞きたくなったが、初対面の人に聞くのも失礼なので、心の中だけにとどめておくことにした。

「澄之江学園へ、ようこそ。私は姫川 風花といいます。高月君が転入する2年A組のクラス委員です。よろしくお願いします」

改めてこちらに向き直った姫川さんは自己紹介をすると僕に右手を差し出してきた。

(な、なかなかにフランクな人なんだ)

普通であれば、もう少し事務的な態度をするかと思っていたが、まるで昔からの知り合いなのではないかと思わせるような感じで接してくるので、驚いていた。
驚きはしたが、別にいやではない。

(とはいえ、可愛い美少女と握手をするというのも……恥ずかしいな)

そんなことを考えること数秒。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

僕は姫川さんの握手に応じた。

「……ッ!」
「どうかしました?」

手から体に走った静電気みたいな”何か”に、僕は思わず息をのんでいると不思議そうに姫川さんが訊いてきた。

「い、いえ。なんでも」

どうやら、この不思議な感覚は僕だけしか感じていないようだ。

「こちらこそ、よろしくお願いします。姫川さん」
「はい♪」

とりあえずは何とか最初の挨拶をすることができた。

(そう言えば、情報によれば転入生はもう一人いるらしいけど………)

姫川さんに怪しまれないように、周囲に視線を向けた僕はもう一人の転入生の姿を探すが、なかなか見当たらなかった。

「申し訳ないんですけど、転入生がもう一人来るので、ここで待っていてもらっていいですか?」
「ええ、別にかまいませんよ」

どうやらもう一人は僕の後に来るようだったので、申し訳なさそうに言ってくる姫川さんに僕はそう返した。

「あの、失礼」

僕は小一時間待たされることを覚悟したが、数分ほどしたところで誰かに声を掛けられた。

「貴方たちが学園を案内してくれる人ですか?」

その人物は紫色の髪に人当たりの良さそうな表情をする青年だった。

「いえ、自分は貴方と同じ転入生です。案内をするのはこちら」
「姫川風花です。速瀬君達が転入する2年A組のクラス委員をしています」

僕の言葉を引き継ぐように先ほどと同じように人当たりのいい笑みを浮かべた姫川さんは、速瀬君に手を差し出す。
それに応じた速瀬君だったが、一瞬驚いた表情を浮かべた。

(速瀬君もあの感覚を感じたのかな? いや、余談は禁物)

もしかしたら勘違いの可能性もある。

「二人とも、荷物はそれだけなんですか?」
「必要な荷物は送ってるので」
「自分は荷物自体が少ないので」

不思議そうに僕たちを見ながら聞いてくる姫川さんに、僕は速瀬君に続いてそう返した。

「ふふ、寮の部屋ってあんまり広くないですもんね」
「ええ、まあ」

やわらかい笑みを浮かべながら話す姫川さんに速瀬君が応じた。

(こういうところで差が出るものか)

僕は人付き合いが苦手だ。
どうしても相手の裏側にまで考えをめぐらせてしまうため、深い人づきあいができないのだ。
そして、自分の本心を悟られないようにガードしてしまう。
その原因は数十年前の”あること”にあるが、今はそんなことはどうでもいいだろう。
僕の目標は人付き合いができるようになるという、しごく当たり前のモノだったりもするのだ。

「それでは、このままご案内しますね。本当は職員室に行って、担任の先生を紹介しなければいけないのですが、今職員会議があるので、先に後者の方を案内しますね」
「分かりました」
「自分も構わないです」

少し申し訳なさそうな姫川さんの言葉に、今度は僕も相槌を打つことができた。
こうして僕たちは姫川さんの後に続く形で校舎内へと入っていくのであった。

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第83話 探偵現る

徐々に昼が短くなるこの季節。
僕はある問題を抱えていた。

(やっぱりついてきてる)

背後をついてくる人物がいることだ。
誰なのかはわかっている。
おそらくは田中探偵事務所の者だろう。
早い話が尾行されているということだ。
だが、僕はその鼻孔にすでに気づいていた。
この僕を尾行し始めて今日で3日目。
よく粘るなと感心してしまうほどだ。

(だがまあ、そろそろ頃合いだろう)

僕は今日でこの無意味な鼻孔をやめさせるつもりだ。
そのために、僕は人気のない場所に向かっているのだから。

(さて、そろそろかな)

心の中でそうつぶやいた瞬間だった。

「うわ!?」

何かに躓いた僕は、転びそうになるが何とかそれを防ぐことに成功した。

「あぁ!?」

だが、手に持っていた新聞で包まれた花瓶を落としてしまった。
ガラスの割れる音が、花瓶がどうなったのかを十分に物語っていた。

「やっちゃった」

この日、たまたまいい花瓶を見つけた僕は、家に飾ろうと購入しておいたのだが、それが仇となってしまったようだ。

「ここなら、人目もないし……」

周囲を見渡してみるが、人影は特に見当たらなかった。
探偵はいるようだが、見えないようにすればばれないだろう。
そう判断した僕は地面に無残にも落ちている花瓶に向けて手をかざした。

「リペア」

たった一つの呪文だった。
花瓶はまるで巻き戻したかのように元に戻っていき、最終的には僕の手のひらに収まった。

「よし、これで――「嘘だろ!?」――ん?」

大丈夫だと言いかけたところで、後ろの方で男の驚きに満ちた声が聞こえた。

「な、何か?」
「今、花瓶が……」

驚きか、それとも興奮か走らないが口をパクパクさせ手を花瓶と僕に向けて交互に指していた。

「この花瓶がどうしたんですか?」
「割れた花瓶を、今魔法で!」
「魔法みたいにいい花瓶なんですよ?」

しっかりと見ていたようで、声を上げる探偵の人に、僕は誤魔化すように口を開いた。

「いや、違う。俺は見た……お前人間じゃないだろ!!」
「ちょっと、大きな声を出さないでくださいよ! 人に聞かれるじゃないですか」

大声で叫ぶ探偵に、僕は慌てて懇願した。

「だったら、素直に認めろ。お前は人間ではない」

(面倒くさいな)

遊びで相手をしていたが、そろそろ鬱陶しくなってきた。

(どこかに行ってもらおうか)

外国はかわいそうなのでこの近辺でいいだろう。
僕は手の平に魔法陣を描く。

「リブルト」

そしてたった一言呪文を唱えた。
次の瞬間、探偵の姿は無くなっていた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


日本某所にある小さな事務所。

「俺は2枚交換だ」
「なら、俺は3枚だ」

アンティーク調の家具に囲まれたその一室に壁に立てかけてある『人情』という文字が書かれている額縁という異様な空間に、3人の男の姿があった。
手下と思われる二人はトランプ(おそらくはポーカー)をし、社長椅子に腰かける黒ひげを生やしたおそらくは頭であろう男は、デスクの上に置かれた何かに目を通していた。
ここは、とある暴力団の事務所なのだ。
だが、普段はとても優しい人たちだ。
人情に厚く義理堅いのが彼らだ。

「お前は人間ではない! ………あれ?」

そんな一室に現れたスーツを着込んだ田中が現れ、一番偉いであろう社長椅子に腰かけた男を指差して大声で告げた。

「あぁ?」
「あれ?」

突然の侵入者と、余りにも無礼なその言葉に組員たちの怒りは爆発した。
一瞬で二人に挟まれる田中。
がっしりとした体格の良い手下の男は、指の関節を鳴らしながら、田中をにらみつける。

「やれ」
「のぉぉぉぉぉぉ!!!!」

頭の一言で、田中は組員からの手荒い洗礼を受けることとなった。
そう、彼らは怒らせると非常に恐ろしい暴力団なのだ。


★ ★ ★ ★ ★ ★


今日は学校も部活も休みだ。
こういう日は、買い物をするのに限る。
そう言うわけで、この日は町一番の大型スーパーにやって来ていた。

(食用酒でも買おうかな)

そう思い、僕はお酒のコーナーへと向かっていく。

(それにしても、やっぱりついてきてる)

後ろの方をつけてくる探偵の気配を僕は察知していた。

(やはり近場はダメか)

懲らしめるつもりだったが、近場ならば大して懲らしめることはできないのではと思った瞬間だった。

(とはいえ、このまま追いかけっこを続けるのもいやだし……話しますか)

僕は探偵と話し合おうと考え、角を曲がると反転して探偵が来るのを待った。

「っ!?」
「さっきから人を付け回してますけど、何の用ですか?」

突然目の前に現れた僕に驚く探偵に、僕は用件を尋ねることにした。

「俺の尾行に気付くとは、さすがは人間じゃないな」
「あんなバレバレな尾行、誰でもバレますよ」

ため息交じりに反論をする僕をしり目に、探偵は僕のほうに歩いてくる。

「この間は良くもやってくれたな。おかげで俺はやくざにボコボコにされたんだぞ」

(なぜにやくざ?!)

探偵の言葉に、僕は思わず驚いてしまった。
飛ばした先は適当だったが、そういう場所に飛ばされるというのはある意味すごい奇跡なのかもしれない。

「俺はな、とある人物からお前を調べるように依頼された探偵なんだよ。いいのかな? このことを報告しても」
「報告されて困るようなことを、僕はしてませんよ」

男の脅迫に、僕はとぼけながら言い返す。

「魔法使いだってことも?」
「魔法使い!? 探偵さん、童話の読みすぎですよ」

探偵の言葉を笑い飛ばしながら否定した。
これは僕にしてみれば言い交し方だという自信がある。

「俺、童話は読まないんだけど」

だが、男の切り返しも非常に鋭かった。

(だから魔法使いの怖さを知らないのか)

男の無謀さの理由が、僕にはなんとなくわかったような気がした。

(それなら、もう一度ボコボコにしてもらいますか)

「もうすでに証拠は揃えてるんだ。これをあの方に報告してその後に世間に言いふらしてやる。今度こそ―――」
「リブルト」

僕はこの間と同じ場所に男を転移魔法で飛ばした。


★ ★ ★ ★ ★ ★


日本国内にある暴力団事務所。

「穴に落ちて一回休み!」
「ちくしょう!」

この日も、事務所内は和やかな雰囲気に包まれていた。
ちなみに、手下の二人がしているゲームはすごろくのようだ。

「その時に後悔するのはお前だっ!!!」
「あぁ?!」

そんな雰囲気をぶち壊すように突如現れ頭に向かって指をさしながら大声で告げたのは、また田中だった。

「あ、あれ!?」

手下の二人は、素早い動きで田中を挟むように移動すると指の関節を鳴らす。

「ど、どうぞ!」
「どうも」

そんな時、田中は偶然手にしていたお酒を、頭の男に差し出した。

「やれ」
「ぅそぉ」

頭の指示でさらに距離を詰める二人に、田中は絶望に染まった表情を浮かべた。

「のぉぉぉぉぉぉお!!!!?」
「てめぇ、ふざけるなよこの野郎!!」
「いい加減にしろ!!」

前回よりもバイオレンスな洗礼を、田中は受ける羽目になるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


明日もまた休日。
だが、僕に気の休まる時はない。
次に開かれるH&Pのライブなどのプランを考えたりする必要があるのだから。

「ん? 電話だ」

そんな時に鳴り響く携帯電話に、僕は相手が誰だろうと思いながら出ることにした。

「はい、高月です」
『この間は良くもやってくれたな!』

電話口から聞こえてきたのは探偵の男の声だった。

(まだ懲りてないのか)

その執着心には、敵ながら称賛の声を送りたくなってしまう程に強かった。

『貴様のことを世間にばらしてやる。これでお前はおしまいだぁ!!』

(またボコボコにされて、壊れたか……いや、本性が出てきたというべきかな)

さすがは生きる価値のない男と関係を持っている探偵なだけはある。

「分かった。何が望みだ? 金か?」
『そうだなぁ……まずは車が欲しいな。それと大金に不老長寿だ』
「………」

思わず罵声をあげそうになるのを、僕は必死にこらえた。
これが、人間の愚かさというものだろうか。

(反人間派が出るわけだ)

こういう人しか会わなければ、きっと僕もそうなっていたかもしれないのだから。
そう思うと、僕がどれだけ恵まれていたのかがわかるような気がした。

「分かりました。ですが、電話越しではうまく出せるかわかりません。なので、実際に会ってお渡ししたいんですが。場所を指定してもらってもいいですか?」
『いいだろう。ではお前の家の近くの公園に来い』

それだけ告げて、電話は一方的に切られた。

「…………」

不通音を聞きながら、僕は目を閉じる。
だがすぐに目を開けた。

「さあ、行くか」

そして、僕は男との待ち合わせ場所に向かうのであった。










公園には夜遅いせいもあってか、人の気配は一切なかった。
だが、公園の街灯付近にそいつはいた。

「来たな」
「お待たせしました」

仕度を済ませてきた僕は、待たせていた探偵の男に詫びを入れる。

「まあいい。感じが出てるじゃないか」
「ええ。成功させるために必要ですから」

僕は杖状のクリエイトを構える。

「それじゃ、いきます」

男の前に立った僕は、そう告げると杖の先を男に向けて構えた。

「グラビティ・プレス」
「がっ!!?」

僕がつむいだ呪文によって、男はまるで地面に縫い付けられるかのように地面に這いつくばる。

「ぎ、ぎざまぁ、なにをじだぁ!!」
「グラビティ・プレス……対象の重力を重くすることによって動きを封じ込める魔法。貴様のような雑種にはぴったりだ」

僕は男に懇切丁寧に、今掛けた魔法のことを説明した。

「だ、騙したのかッ」
「そもそも、お前の願うような魔法など、この世には存在しない。存在したとしても誰が貴様のようなゴミに魔法を使うか」

魔法とは奇跡を起こす力。
不老長寿の魔法など、おとぎ話に過ぎないのだ。
魔法でお金は増やせるが、それはただのコピーでしかない。
人間が描いたむなしい夢なのだ。

「畜生! こうなれば、こいつを使って、やる」
「防犯ブザーか」

かろうじて動かせた男の手にあるのは、防犯ブザーだった。
紐を抜くと大音量でアラームが鳴り響く代物だ。

「これで人がやってくるっ」
「無駄だと思うよ」

男の目論見を、僕はバッサリと斬り捨てた。

「だって、この空間結界に覆われていて外からも内部からも僕たち以外には入ったり出たりすることも干渉することもできないから」
「は、ハッタリを」

男はそう言うが、これは本当のことだ。
もうすでにこの公園は隔離結界魔法によって完全に隔離されていた。

「おかしいと思わない? まだ人通りがないとは言えない時間帯なのに、人っ子一人通らないなんて」
「…………」

僕の指摘に、男の顔が青ざめていく。

「ではご紹介しよう。僕の誇る優秀な部下たちをね」

僕が右腕を上げた瞬間、男を取り囲むように数十人の魔法連盟の職員が姿を現した。

「ひぃ!?」
「いやぁ、我が国はね今反人間派がうっぷんをためすぎていて爆発寸前なんだよ。お前という存在でそれを鎮静化させようと思ってな」

その職員たちの迫力に、悲鳴を上げる男に僕は肩をわざとらしく竦めながら男に言った。
僕の計画は、この男を利用して国民の人間に対する攻撃感情を柔らめるというものだった。
一度憂さ晴らしをすれば、冷静になるだろうからその際に話を詰めていくのだ。

「いいことを教えてやるよ」

僕は地面に這いつくばっている男の前でかがみこみながらそう切り出した。

「僕は、最初からお前の尾行には気づいていた。気づいていて”わざと”魔法を使ったのさ。お前に弱みを握らせるためにね」
「ッ!?」

僕の告げた真実に、男は歯をカチカチと鳴らしながら震えていた。

「目的は貴様を生贄に、人間と魔族の共存を進めるため。貴様らのようなゴミを掃除できて一石二鳥だ」
「ぁ…………ぁ」

僕の言葉に、男はさらに震える。
そんな彼に止めを刺すように、僕はこう告げた。

「お前は手と手を取り合うきっかけを作る事しか価値のない、哀れな男なんだよ」
「ぁ――――――――――」

その言葉を告げた瞬間、男の目から色が抜けた

「|精神崩壊《マインドブレイク》を確認。罪状は倫理規定法違反、および脅迫罪。連行しろ」
「はっ!!」

僕の指示に、職員は敬礼をしながら応じると、男の腕をつかんで転移魔法によって僕の前から姿を消した。
残されたのは、僕と久美の二人だけだった。

「兄さんも残虐だよね」
「そうか?」

久美の言葉に、僕はとぼけながら応じた。

「わざと人間の心を破壊するなんて」
「それくらいしても罰は当たらないだろ。奴はそれ相応のことをしたのだからな」

僕のあの言葉は、男の精神を破壊させるための物だった。
それを人は精神干渉魔法といい、僕はこの魔法に掛けては群を抜いて強い力を持っていた。
僕がその気になれば、先ほどのように心を破壊することができるのだ。

「人間は意思のない人形のようなもんだ。操ろうと思えば簡単に操れるし、破壊しようと思えば簡単に心を破壊できる」

僕は最後に”まあ、そこがいいんだけどね”と続けた。

「さて、そろそろ大詰めに入るよ。久美も準備の方、頼むよ」
「任せて」

僕の言葉に、久美は力強く答えて僕の前から立ち去ろうとするが、ふとその足を止めた。

「ねえ、兄さん。聞きたいことがあるんだけど」
「何だ?」

久美の切り出した言葉に、僕は先を促した。

「兄さんがそこまで躍起になって財閥を滅ぼそうとするのは何のため?」
「いきなり何を言うんだ?」

久美の疑問の言葉に、僕は軽く笑いながら返した。

「だって、兄さんはこれまで何をするにも目的があったはずでしょ。今回の目的は私にはどれも後付けのようにしか思えないの」
「……………何が言いたい」

久美のもったいぶった言い方に焦らされているような感覚を受けた僕は、思わず声のトーンを低くして言い返した。

「兄さんが、ここまで力を入れるのは、軽音部の皆のため? それとも、唯さんのため?」
「ッ!!」

思わず唯の名前に僕は反応してしまった。
鼓動が速くなる。

(………そうか)

そして僕は理解した。
僕自身の気持ちを。
ここまで行動をする本当の理由を。

「僕が、ここまでするのは―――――」

そして、僕は久美に告げるのであった。
僕がここまでする本当の理由を。
自分の本心を。

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