健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第121話 朝のピンチと自由行動

「んん……」

目が覚めた僕はいつものように目を開けた。
窓のほうのふすまから洩れる朝日が、今が朝であることを知ることができた。
周りの静けさから、まだみんなは眠っているようだ。

(それにしても律たちには困ったものだ)

若干頭の回転が鈍い中、僕は昨夜のことを思い出していた。
何があったのかを言えば、実に単純だ。
寝ていた僕を枕を当てて邪魔した。
むろんワザとではない(と信じたい)が、いきなりたたき起こされた方にはたまったものじゃない。
しかも、それがまくら投げに巻き込まれたのならなおさらだ。
だからこそ、人が寝ているところではまくら投げはするなという警告の意味を込めて僕は澪や律に全力で枕を投げたのだ。
枕の特性で、威力は和らぐし、命までとらないように加減はしたので問題はないだろう。

(今夜もまくら投げを始めたらどうしてくれようか)

自分でも驚くほど物騒なことを考え始めたため、僕は考えるのをやめさせるべく起き上がることにした。
だが、そこで僕は違和感に気が付いた。
何故か右腕が動かないのだ。
正確に言えば、動くことは動くがものすごく重いのだ。
まるで、誰かに掴まれているかのように。

(掴まれてる?)

「まさか……」

僕は嫌な予感がしたため、何とか動かせる左半分を右にねじるような感じで体を起こすと、自分の右腕を確認してみた。

「……なぜ?」

その光景に僕の口から出たのは疑問の声だった。
簡単に説明すれば

「スー……スー……」

僕の右腕に抱き付くようにして唯が寝ているだけだ。
しかも器用にテーブルの脚の隙間をかいくぐるように。

「一体どうすればそんなことができるんだよ?」

眠っている唯に疑問の声を投げかけるが、当然答えは返ってこない。

「しかし、これはまずい」

主に精神面と状況的に。
唯は僕の腕を抱き枕のように自分の体にくっつかせている。
要するに、女性が悩むであろう部分も触れているわけで。

(そういえば、腕に何かやわらかいものが当たってると思ったけど、これってそういうことなのか)

最初は布団だと思っていた感触も、状況を飲み込むとまったく違ったものになっていく。
僕とて男だ。
このような状況で冷静にいられるほど経験はない。

(理性を失って……ということは断じていや、おそらく……きっと……たぶんないと思うけど)

どんどんと自信がなくなってしまうのも男の性というものだろうか。

「って、一人で納得してる場合じゃない」

そしてこれが二つ目の問題だ。
何度も繰り返す通り、僕の右腕に抱き付くように唯は眠っている。
もしこんなものを律たちが見たらどうなるだろうか?




「おやおや、お二人さんは朝からお熱いどすなー」

こちらをにやにやと笑いながら見てくる律。

「はうぅぅ~」

処理能力を超えて失神する澪。

「あらあら、まあまあ、ふふふ」

いつにも増して微笑まし気な表情を浮かべるムギ。

「なによ! それは私へのあてつけのつもり!? うわああん!!」

血の涙を流しながらわめき散らす山中先生。

「裏切り者には死を~、幸せ者には疫病神を~」

同じく血の涙を流しながら物騒な言葉を呟き続ける慶介。


「想像してしまった」

思わずカオスと化した部屋の状態を想像してしまった。
だが、このままいけばそれが現実のものとなるのは間違いない。

(となれば、やることはただ一つ)

この状況からの脱出だ。

「まずは時間を……」

僕は首を動かして時計を探した。
時計はすぐに見つかった。
唯が自分の枕元に置いていたのだ。
時計が示している時刻は午前5時。
皆が起きる時刻は午前6時。
つまりタイムリミットは、後1時間ということになるのだ。
もしかしたら途中で起きる人がいるかもしれないが、その場合は魔法でもう一度眠らせればいいだけの話だ

「よし、やるぞ。平和な一日を手に入れるために」

こうして、僕の戦いは幕を開けた。





「ふう……ようやく腕を解放することができた」

長い時間をかけて奮闘した界があり、何とか腕の部分の束縛を解くことができた。

(しかし、敵も手ごわい)

唯は、僕が腕を引き抜こうとすればするほど、どんどんと抱き付く場所を移動させるのだ。
まるで僕の手から逃れるかのように。
その結果が手に抱き付いているというものであったりする。

(しかも手だからあそこの感触がよりダイレクトに)

あの箇所の柔らかい感触は、じわりじわりと僕から余裕をなくしていくのだ。

(と、とにかく……ここは慎重に)

僕は震える手を抑えながら唯の手から僕の手を解放させていく。

「んっ……」
「っ!?」

誤って右手を動かしてしまったため手に当たっている物に刺激を与えてしまった。
僕は息をのんでその場でじっとする。

「ふふ……浩君のエッチ」
「……」

(もしかして起きてるのか?)

何ともピンポイントすぎる寝言なだけに、疑問を感じたがふと時間のほうを確認してみた。
時刻は午前5時50分。
残り時間はあと10分弱にまで迫っていた。

(腕の解放で時間を取られすぎたか)

このままだと確実に間に合わなくなってしまう。
再び脳裏によぎる最悪な結果の未来の僕の姿。

(大丈夫だ、まだ時間はある)

僕は自分を落ち着かせて再び作業に取り掛かる。

(よし、あと少しで外れる)

何とか唯が掴んでいるのが僕の人差指と中指と薬指だけという状態にまで持ってこれた。
時間もまだ6分ある。

(勝ったな。これは)

僕は早くも勝利宣言を出した。
誰に対してかは知らないけれど。

(よし、一気に指のほうも進めるか)

僕は早速最後の関門である指の解放に取り掛かろうと

「何をやってるんだ?浩介」
「ヒギっ!?」

したところでかけられた澪の声に、僕は変な声を上げながら固まった。

(まさか、ここにきて最悪のパターンになるとは)

僕はこうなった運命を心の底から恨んだ。
だが、恨んだところで状況は変わらないわけで。

「って、こここ!!?」

僕の姿をじっくりと見ていた澪は、手元に視線を向けると顔を赤くして同じ言葉を繰り返し始めた。

「あ……」

澪の慌てように、僕は今の自分の体制を思い出した。
今僕の右手は唯の胸元にある。
これは唯が抱き寄せているからなのだが、何も知らない人から見れば僕が唯の胸に触っているようにも見えるだろう。

「こーこーこー!?」
「んぅ……」

(って、これはまずい!!)

先ほどよりボリュームを上げ始めた澪の声(叫び声にも近いが)によって、律たちも目を覚ましかけている。
あと数秒で、全員が目を覚ますことになるだろう。
そうなれば、僕に待っている未来はただの混沌だ。

「させない! リスリプト!!!」
「こー………きゅぅ」

左手を床のほうに掲げて呪文を紡ぐと、悲鳴を上げていた澪はまるで糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
そしてすぐに規則正しい寝息を立て始める。
それは、澪の悲鳴に目を覚ましかけていた皆も同じだった。

「やれやれ……まさか本当にこれを使うことになるとは」

僕はため息交じりにつぶやきながら、今度は勢いよく唯の手から僕の手を引き抜いた。
僕が澪たちにかけたのは睡眠魔法だ。
これをかければどんなに深刻な不眠症の人でも、一瞬にして眠りに就かせることができる魔法なのだ。
ただ、問題はこれをかけると、反対の魔法である覚醒魔法をかけないと一生目を覚ますことができないところだが。
現に、先ほど勢いよく手を引き抜くという暴挙を行ってもなお、唯はぐっすりと眠っており目を覚ます気配すら見せない。

「折角だし、この時計にするか」

僕は唯の目覚まし時計に手をかざすと呪文を紡いで、覚醒魔法をかけることに成功させた。
これによって、目覚ましが鳴り響けば覚醒魔法が発動して皆が目を覚ますという寸法だ。

「さてと、僕は着替えて顔でも洗ってくるか」

僕は残された3分間を、着替えと顔を洗うことに費やすのであった。
ちなみにこれは余談だが、覚醒魔法によってちゃんと目が覚めたみんなだったが、澪から『浩介と唯が抱き付いている夢を見た』という話を聞いた時は息が止まりそうになったということを、ここに記しておこう。










「皆、ちゃんと集まっているわね」

ホテルの出入りに集められた僕たち2組は、山中先生のほうに視線を向けていた。
時刻は午前8時。
各クラスごとに集まって担任の先生から今日一日の注意事項を聞いてから、皆お待ちかね(?)の自由行動という形になっている。
僕たちは2番目に早い時間での出発となるわけだ。

「本日は自由行動になります。班ごとに決められた場所のを効率的に見学するように。何かがあったら先生の携帯に電話をして、それと――――」

山中先生から、注意事項が説明されていく。
要約すると、ホテルに戻る時間は6時までとのこと。
そして何かがあったら、山中先生の携帯に電話をするということの二点だ。
そんな重要な話をしている中、平然と先にどこかに行こうとするのが二名いた。

「そこの二人、さっさと戻ってきなさいっ!」
「「う……ばれてた」」

すんなりと山中先生に見つけれてしまったことに、肩を落としながら唯たちは僕たちのほうに戻ってきた。

(本当に大丈夫なのかな?)

二人の様子を見ていると、無性に不安に駆られる僕なのであった。
そして、二人が戻ったのを見計らって、山中先生も連絡事項を続けるのであった。





「私たちは嵐山なんだけど…」

山中先生から渡された行先が記されたメモを見ながら澪がつぶやいた。

(嵐山か……どこか観光する場所ってあったけ?)

事前に調べておいたとはいえ、あまり興味がなかったのでさっと調べるのにとどめて覚えようとしなかったことが、こんなところで響いてくるとは全くの予想外だった。
それでも、覚えているのは、とても見て回るのが難しい場所だということ。
清水寺などの一般に知られている有名な観光地のエリアから見れば、影が薄いのが理由らしい。

「それじゃ、タクシーで行ってみるのはどうかな?」
「そうだな。それならある程度時間も稼げるし」

時間を稼ぐ方法を考えている時点で色々と損をしているような気もするが、あえて何も言わないことにした。

「律は何か案が……って、律と唯は?」
「さっきまで一緒にいたけれど」
「僕も同じだ」

律に意見を聞こうと話を振る澪は、律がいないことに首をkしげながら僕たちに聞いてきたので僕たちも首を横に振りながら答えた。

「一体どこに……」

二人を探すように周囲を、見渡し始めた澪に倣うように周囲を見渡した僕だったが、二人の姿はすぐに見つかった。
楽器店の窓に顔をくっつけて中をのぞき込んでいる二人の姿が。

「なんで京都に来てまで楽器店なんだよ!」
「いやーん、いけず~」

ツッコミを入れながら律の体を楽器店から引きはがす澪に、律は足をじたばたさせることで抵抗する。
その姿は完全に駄々っ子と母親だった。

「ちょっとだけだってば」
「まったく……置いて行くからな!」

いまだに抵抗する律に、呆れたようにため息を漏らすと背を向けて歩き出そうとした時だった。

「お、ここレフティーモデルが置いてあるんだ」
「っ!」

ふと律がなにかに気付いたように声をもらした瞬間だった。
右に180度体の向きを変えると早歩きで向かったのは楽器店の窓だった。
そして、先ほどの律たちと同じような体制で中を覗き込み始めた。
完全にミイラ取りがミイラになってしまった。

「澪、移動するぞ」
「ヤダ」

立場が入れ替わるように、今度は律が移動することを促すが、返ってきたのは拒否の言葉だった。

「小学生の子供か、あんたは」

このままではいつまで経っても移動ができないので、少しだけ暴挙に出ることにした。

「うわ!?」

暴挙とは言っても澪の服の襟首をもって窓から引きはがしただけだが。

「いい加減移動しよう? いつまでもここにいるのはもったいないから」
「そ、そうだったな」

すぐに正気(どちらかというと諦めがついたとでも言うべきなのだろうけど)を取り戻した澪によって、移動手段が告げられた。

「タクシーって何人乗りだっけ?」

問題なく澪の説明が進んでいたが、唯の出した疑問がそれを変えてしまった。

「確か運転手を除いて、四人乗りだったような」
『あ……』

そこで全員が気づいたように声を漏らした。
四人乗りということは、誰か一人が乗れないということになる。

「大型車のほうにするか?」
「いや、それだとお金のほうもかさむし、普通のでいいよ。僕が乗らなければいい話だし」
「でも……」

律の提案を断ると、ムギが申し訳なさそうな表情を浮かべながら食い下がってきた。

「大丈夫だって、タクシーぐらいなら走って追いかければ十分だから」
「あ、そう言えばそうだよな」

僕の一言で、僕が普通の人間ではないことを思い出したのか、納得したように相づちを打った。

「僕は走ってタクシーを追いかけるから、皆はタクシーに乗っていいよ」
「それじゃ……」

最後は強引だがムギを説得することができた。

「その代わり、僕の荷物をお願いしてもいいかな? これを持ったままだと少し走りにくいから」
「任せてくだんさいっ」

胸に手を当てながらされた唯の頼もしい返事に安心しながら、僕は自分のバックを唯に渡した。

「それじゃ、タクシーを呼んで。僕は姿を消して追いかけるから」
「悪いね」

話をうまくまとめたところで告げられた澪からの謝罪の言葉に、僕は首を横に振ることで返した。
澪が電話でタクシーを呼んで数分後、タクシーがやってきたので唯たち四人で乗り込むとそのままドアが閉まり走り出していった。
この時、僕は魔法で姿が見えないようにしていたため手を振るなどのことは一切やっていなかった。
とはいえ、澪たちは終始申し訳なさそうだったが。

「さて、僕も移動しますか」

タクシーが走り出したのを確認した僕は、軽く準備運動をするとそのまま車道の端のほうに立って、唯たちが乗ったタクシーを走って追いかけるのであった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
連続投稿四日目となりました今回は、少々砂糖成分があったりします。
次回も少々砂糖成分がある予定ですので、楽しみにしていただけると幸いです。

さて、拍手コメントへの返信に移りたいと思います。

『あけましておめでとうございます。 今年も楽しく読ませていただきます』

コスモさん、コメントありがとうございます。
そして、明けましておめでとうございます。
今年も楽しんでいただけるよう、精いっぱい努力して執筆をしていく所存でございます。


それでは、これにて失礼します。

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第120話 鬼門

「はぁ……疲れた」
「まったく、冷や汗掻いたじゃないか」

日も暮れ、僕たちはついにこれから二日間過ごすことになる旅館を訪れた。
そして向かった部屋は畳六畳ほどの部屋だった。
一人当たり一畳分のスペースがあれば十分なので、それほど窮屈ではないようだった。

(さて、これからが一番の鬼門なんだよな)

山中先生の連絡事項では午後六時に大広間に集合して夕食をとることになっている。
服装はジャージだ。
つまり、制服から着替える必要があるということなのだ。
澪は一足早くジャージを取り出して着替える準備を始めていたが、僕がいるために制服を脱ぐそぶりを見せない。

(これは思っていたよりもつらい)

僕は到底ここで馬鹿騒ぎができるような気分にはなれなかった

「唯、先に制服に着替えろ」
「え~、めんどくさい~」

いつもは賑やかに感じる二人のやり取りも、どこか夢うつつな感じで聞いていた。

「澪、頼みがある」
「な、ななななんだ?」

突然声をかけられたためか、それとも緊張状態にあるためか上ずった様な声を上げて返事を返してくる澪を見ていると、僕のほうが冷静になることができた。

「僕はトイレのほうで着替えるから、全員が着替え終えたらノックをして教えてほしいんだ」
「わ、わわ分かった」

僕はトイレという楽園に逃げればこの鬼門は軽々と突破することができる。
難しいことはない。

「ジーーー」
「な、なんだ?」

問題が解決したところで、こちらに向けられている視線に気づいた僕は、視線を向けている律に疑問を投げかけた。

「浩介はいつまでそこにいるんだ?」
「すぐに引っこむ」

律の疑問に簡潔に答えた僕は、着替えを手にトイレの方に向かおうとしたところで、律が再び口を開く。

「ははーん。なるほどな、浩介は私たちの着替えているところが見たいんだな」
「はい?!」
「なっ!?」

律の言葉に混乱した僕は、うまく言葉を紡ぐことができなかった。

「いやー、それじゃ、トップバッターは――――」
「そんなのダメだよ! 律ちゃん」
「そうだ、唯! 言ってやれ」

律が品定めをするように皆を見回し始めたところで、唯が止めさせんとばかりに異論の声を上げた。

「浩君が女子の着替えているところを見てもいいのは、私だけなんだから!」
「って、それも違うっ!!」

顔を赤く染めて言い切った唯に、僕は全力でツッコミを入れた。

「あらあら、まあまあ~」
「こ、浩介と唯はそこまで……はうぅ~」
「そこ! 頬に手を当てながら笑みをうかべない! それと、そんなことしてないから!」

頬に手を当てながら笑みを浮かべるムギと、顔を真っ赤にしている澪にも僕は全力でツッコんだ。

「おぉ~、今日も浩介は絶好調だな」

律の感心したような声が聞こえた。

(律のやつ、これが狙いだったのか)

僕は漫才師ではないと心の中でツッコんでいると、

「それじゃ、恥ずかしいけど見ててね」
「脱ぐなぁ!!!」

ブレザーを脱いでYシャツのボタンに手をかけたところで、僕は慌ててそれを止めさせるべく唯の元に迫ったが

「ぬぁ!?」
「きゃ!?」

何かに足を取られた僕は、唯を巻き込んで畳の上に倒れてしまった。

「あいたた……唯、大丈……ぶ」
「うん、大丈……」

自分の体制に気付いた僕たちは、そこから先を口にすることができなかった。
今の僕の体制は、僕が唯を押し倒しているようにも見えるのだから。

「はうわぁ!?」
「うお!? 浩介って意外と大胆だなー」

こうなることは予想外だったようで、驚いたような声を上げる律と、許容範囲を突破したのか、ひきつったような声を上げる澪とこの部屋は混とんと化してしまった。

「ぼ、僕はノーマルだぁぁぁ!」

そして僕は僕でわけのわからないことを叫びながら、トイレへと逃げ込むのであった。










「まだ、集合時間まで少しだけ余裕があるな」
「そうだね」

あれからしばらくして、何とか落ち着きを取り戻して着替え終えた僕たちは、各々が寛ぎながらのんびりと時間を過ごしていた。
別におかしなところは何もない。
さっきから唯がこちらを頬を染めながら見てきたりとか、澪が僕と目を合わせないようにしているとか、些細な問題だ。

「お茶でも入れようか」
「何か遊ぶものでも持ってくればよかったね」

テーブルの前に腰掛けた澪がお茶を入れようと準備に取り掛かる中、畳の上に寝そべって何かを読みながらぼやいた言葉に反応したのは以外にもムギだった。

「それだったら、これはどう?」

そう言ってムギが鞄から取り出したのは一回り大きな箱だった。
箱には『人世あてもんゲーム』と書かれていた。

「あ、それ知ってる。確かあの手この手でお金持ちになるやつだよな」

決して人生●ゲームではない。

「あ、それじゃおやつでも食べながら遊ぼうよ!」
「おい、この後夕食だぞ」

一体いくつお菓子を持ってきているのかが気になるが、この後には夕食が控えているのだ。
ここでお菓子なんか食べたりしたら夕食が食べられなくなる危険性だってある。

「大丈夫大丈夫~」
「ちゃんと全部食べるって」
「残すなよ」

余裕気に答える唯と律に、澪は少しばかり呆れたように目を細めるとそう口にするのであった。





「それでは、いただきます」
『いただきます』

数十分後、夕食の時間を迎えた僕たちは大広間で手を合わせると夕食に手を付けていく。
今日の夕食はうどんに天ぷら、そしてお寿司にお吸い物という豪勢なものだった。
ちなみに、お吸い物はお替り自由らしい。

「浩介」
「なんだ?」

天ぷらをお箸でつかんでいると、向かい側の席に座っている慶介が突然声をかけてきた。

「浩介にとても重要なことを聞きたいんだ」
「何?」

その表情はいつになく真剣そのものだったため、僕は気を引き締めて慶介から投げかけられるであろう疑問を待った。

「お前、唯ちゃんたちの着換えを除いたのか?」
「っ!」

慶介の疑問に、思わず先ほどの唯を押し倒してしまったことを思い出した僕は、肩を震わせたが表情には出さないですんだ。
だが、慶介にとっては今の僕の反応で十分に伝わったのだろう。
慶介の表情が驚愕の物へと変わっていっているのだから。

「浩介、お前というやつは……畜生! こうなったら俺もみんなの着替えを――――――っっ!」

慶介がバカげたことを言いきる前に、足で慶介の体を力いっぱい蹴り飛ばした。

「食事中だ、うるさい。それと、馬鹿げたことをやったら潰すぞ」
「男の勲章は、ダメだ……まじで、死ねる」

痛みに悶える慶介は放っておいて、僕は食事を楽しむことにした。
そんな中、二人ほど橋が止まっている人がいた。

「あんたたち、もう食べないの」
「き、休憩しているだけ……うぷっ」
「ちゃんと残さず食べる……うぷっ」

短めの黒髪に、男っぽい雰囲気をまとっている女子学生の問いかけに、律と唯が応えた。
とはいえ、声が何とも苦しげだった。

「二人とも、もしだめだったら僕が全部食べるからいつでもギブアップ言いな」
「協力感謝……うぷっ」

なんだか見ているだけで可愛そうに思えてくるが、本人たちが奮闘する意思があるのであれば、僕は手出しはできない。
僕は自分の料理に舌鼓を打つことにするのであった。
結局、二人からほぼ手つかずの料理を渡されたのはそれから数分後のことであった。










「ふぅ………」
「極楽だな」

僕と慶介は、浴槽につかりながら体を温めていた。
どうして慶介と一緒に入っているのかというと、夕食を終えてしばらくしたところで、慶介が部屋を訪ねてきたからだ。
なんでもお風呂の時間なのだとか。
ちなみに、女子はクラスごとにお風呂に入る時間が決められている。
とはいえ、一クラスの女子がお風呂に入ったら温泉がパンクしてしまうので、数人に分けて入るようにしているらしい。
それは僕と慶介も同じことで、男子の場合は各クラスで決められた時間に温泉に入るという形になっている。
つまり、わかりやすく説明すれば、今この温泉にいるのは僕と慶介の二人だけなのだ。

「それにしても、浩介はいいよなー」
「急になんだ?」

突然羨ましげな視線とともに告げられた言葉に、僕は戸惑いながら聞き返した。

「だってさ、浩介は毎日楽しく過ごしているし恋人だっているし。本当にうらやましいよ」
「慶介、君は一つ大きな誤解をしてるよ」

慶介の言葉を聞いた僕は、一つだけ慶介の考えに反論することにした。

「僕が今ここにいるのは唯や友人がいるから。そうでなければ僕はここにはいない。それに、慶介は羨ましいと思う」
「どうしてだよ? 俺は恋人だっていないし」
「いないけど、慶介は僕にはない良いものを持っている。僕が一生得ることができないものをね」

戦いの中で生まれた僕では手に入れられないもの。
それは、”優しい心”。
今の僕にそれがあるのかどうかは別として、仮にあったとしてもそれは人より劣るだろう。

「だから、慶介も本当の自分を出すべきだと思うけどね。そうすれば、恋人の一人くらいはできるはずだし」
「そうかね……」
「まあ、こういうのはもう少し後になってわかるものだから、今は分からないものかもしれないけど、でも一つだけ言わせて」

あまりぱっとしない表情をうかべている慶介に、僕はそこでいったん言葉を区切ると慶介から顔をそむけた。

「僕は慶介と友達になれてよかったって思ってる。慶介のおかげで今の僕はある。だから、ありがとう」

普段なら絶対に言えないようなことを僕は慶介に告げていた。
今振り返ると、本当に色々なことがあった。
部活をやめるかもしれないこともあった。
でも、その時にさりげなく僕の背中を押していたのは他ならない慶介だ。
彼は、いわば僕の恩人でもあるのだ。

「浩介……」
「さ、さあ! もう十分に暖まったんだし、でるぞっ」

慶介の言葉で、自分が何を言っていたのかを理解した僕は、恥ずかしさのあまり逃げ出すように脱衣所に戻るのであった。





「あ、浩君!」
「ん? 唯に律か」

外に出たところで声をかけられた僕は声のする方に視線を向けると元気に手を振っている唯の姿があった。
その横ではこっちのほうに視線を向けている、いつもよりおとなしめの律の姿もある。

「他の二人は?」
「今着替えてるよ。そろそろ出てくるんじゃないか?」

僕の疑問に答えた率は、どこからか牛乳瓶を取り出すと飲み口の部分に口をつけてそれを傾け呑み始めた。

「律ちゃん、身長も伸ばしたいの?」
「ぶふっ!?」

にやりとほくそ笑みながら唯から掛けられた言葉に、律が思いっきり牛乳を噴出した。

「汚っ!」

僕は慌てて律から距離を取った。

「何を言うか! これはご褒美ではないか!!」
「あんたこそ何を言ってるんだ!!」

もはやただの変態へと成り果てかけている慶介に、僕は全力でツッコミを入れる。

「ぢぐじょう、大きくなってやる~」

そんな中、律は涙を流しながらそうつぶやいていたとか。










なんだかんだあって、部屋に移動した僕たちを待っていたのは、すでに敷かれていた五つの布団だった。

「私はここな!」
「それじゃ、私はこっち」
「私はここだよ!」
「じゃあ僕はここで」

次々と自分の寝る場所を決めていく律たちに便乗するように、僕は出入り口側の端の方の布団を選んだ。

「そこのお二人さん、隣同士だからって変なことをしたらダメだぞー」
「するか!」

律のからかうような笑みを浮かべながらされた注意に、僕は顔が赤くなるのを必死にこらえながら全力で否定した。

「え? しないの?」
「してほしいの!?」

割と本気で残念そうな表情をうかべる唯に、僕は驚きを隠せずにツッコミを入れた。
そんな馬鹿騒ぎをしていると、ドアがノックされた。

「はーい」
「いきなりごめんなさい! 高月君はいる?」

ムギが返事をするとやや乱暴にドアが開け放たれた。
それを行ったのは、意外にも佐伯さんだった。
息を切らせながら僕の名前を口にしたため、僕は嫌な予感を感じながらも応対した。

「どうした?」
「その……佐久間君が」
「おーけー。案内してくれる?」

佐伯さんの口から慶介の名前が出た時点で僕は何が起こったのかを理解したので、佐伯さんに部屋まで案内するようにお願いした。

「それじゃ、ちょっとってくるね」
「お、おう」

僕は律たちに声をかけるとそのまま部屋を後にした。
目指すは佐伯さん達に割り当てられた部屋だ。
そして、そこで見た光景は……

「いやー! 来ないで!」
「ぐへへへへ~、良いではないか、良いではないか~」

どこかの時代劇の悪代官のごとく、青色の短めの髪が特徴の女子を追いかけまわしている慶介の姿だった。

「……」

他の女子はうまく逃げられたようで、出入り口のほうで何とも言えない表情をうかべてその光景を見ていた。
それをしり目に、僕はゆっくりと中に足を踏み入れると奥の部屋の出入り口に立った。

「ずいぶん楽しそうだな」
「浩介か! ああ、すっごく楽しい!」

僕が声をかけると、女子を追いかけるのをやめた慶介が、満面の笑みを浮かべながら頷いた。

「そうか、それはよかったな」
「だろ。あははは――――ギャバン!!」

僕は軽快に笑う慶介の脳天に、渾身の一撃を繰り出した。
ただの拳骨だが、威力はコンクリートでさえも粉々に粉砕するほどだ。
もちろん多少は手加減したが。
そんな一撃を喰らった慶介は地面に倒れ伏した。
息はしているようなので死んではいない。

「自分をさらけ出せとは言ったが、変態になれとは言ってないぞ、この馬鹿者が!!」

完全に気を失っている慶介に罵声を浴びせた僕は、慶介の対処を佐伯さんたちに任せる(押し付ける)とそのまま部屋を後にした。

(なんでこうなるんだ)

僕は心の中でため息をつきながら、自分たちの班の部屋へと戻るのであった。










「それじゃ、明かりを消すぞ」
「目覚ましはセットしたよ」

消灯時間ということもあり、明かりを消すべく紐に手を伸ばす澪に、唯が相槌を打った。

(僕の枕元で轟音を鳴らすのは勘弁してほしいんだけどね)

さすがに贅沢は言ってられないので我慢することにした。
そして僕は布団にもぐりこんだ。
ちなみに、僕の布団の上はテーブルがある。
最初はそのようなものはなかったが、区分けしたかったので、僕が設置したのだ。
そうすれば、どうやっても互いに布団を行き来することが難しくなるからだ。

「ふご!?」
「唯?!」

突然の謎の奇襲攻撃に、唯は僕のほうに倒れてきた。

「先生、琴吹さんがやりました」

唯の体を慌てて起き上った僕が支えていると、律からこの奇襲をした犯人の名前が告げられた。
そしてその犯人はすでに次の攻撃の準備を整えていた。

「え、ちょっと。むぎゅ!?」

澪の顔を直撃したのは枕だった。

「まくら投げだね! 面白――――ふぎゃ」
「ふっふっふ、もうすでにここは戦場なのだよ、お嬢―――うぎゃ!」

何とも楽しげな様子で始めたのは修学旅行定番(?)のまくら投げだった。

(早く寝たいんだけどな)

僕としては朝から色々とツッコミを入れたりなど、かなり飛ばしていたのでゆっくりと休みたかった、
だが、悲しきかな。
恐らくこれは小一時間は続くだろう。
そんな時、ここに入ってくる人物の姿があった。
赤いジャージを身に纏う顧問でもあり担任でもある山中先生だ。

「あなたたち、一体何を―――」
「行くぜ! スーパーショット田井中号!!」

山中先生が、まくら投げをしている律たちに声をかけようとしたところで、律がものすごくあれな技名を叫びながら一回転をし始めた。
そして、投げ放たれた枕はムギが立っているところを大きくそれて、先ほど入ってきた山中先生のほうへと飛んでいった。

「危な――――」

それにいち早く気付いた僕が手を伸ばして山中先生に直撃するのを防ごうとしたが、奮闘もむなしく枕は山中先生の顔面に直撃した。

「あっ……」

一気に氷点下まで下がったかのように凍り付く部屋の雰囲気に、誰もがその場から動くことができなかった。
そんな枕は重力に従ってゆっくりとされとて素早く床に落ちた。

(怖っ!?)

その時の山中先生の表情を間近で見た僕は、戦慄を覚えた。
怒りをこらえているのか、ひくひくと動く眼の端が僕が抱いている恐怖の感情を底上げした。
そんな大魔神と化してしまった山中先生だが、ふと、唯たちがどんな表情を浮かべているのかが気になったので、周りを見てみると、そこには床に伏せて寝息を立てて寝ている演技をしている皆の姿があった。

「いや,それは無理がありすぎるからっ!」

寝たふりをしている皆に思わずツッコミを入れる僕をよそに、山中先生がついに行動を始めた。
ずれ落ちたメガネをかけなおして、ゆっくりとした足取りで前方に進み

「うぎゃっ!?」

律の背中を踏みつけた。
悲鳴を上げる律を無視して、山中先生は部屋の証を完全に消すと、ゆっくりとした足取りで玄関先まで歩いて行った。
そして……

「早く寝なさいっ!!」

大きな声で怒鳴り、ドアを勢いよく閉めるのであった。
山中先生の怒りに満ちた足音が部屋の中にいる僕のところにまではっきりと聞こえた。
まさしく、大魔神だった。

(さてと、僕も寝るか)

周りの様子を見るからに、もうまくら投げはお開きだろうと思い、僕は布団にもぐりこむと眠りにつくのであった。

(明日はどこに行こうかな)

そんなことを考えながら。


★ ★ ★ ★ ★ ★


浩介が眠って数分後、唯たちに割り当てられた部屋から楽しげな声が響いていた。
中では、浩介を除く全員がまくら投げ第二戦を繰り広げていたのだ。
最も積極的にやっているのは澪を除いた三名だが。

「喰らえ、唯! おりゃあ」
「おっと! 私には当たらないよ! 律ちゃん」

そんな中、律が唯を狙って放った枕を、唯は右によけることでかわした。
だが、それが悲劇の幕を開けるきっかけとなった。
突然だが、ここで彼女たちの配置を説明しよう。
出入り口側の布団で眠っている浩介の前方に唯が立っており、その右斜め上の部屋の隅で澪は退避している。
その澪と出入り口との中間地点に紬が立ち、唯から見て前方に律が立っている。
つまり、唯が避けると枕の落下地点は当然のごとく浩介が寝ている場所となってしまうのであり……

「うぎゅ!?」

枕は浩介の顔面に直撃する結果となった。

「あ……」
「何をしてるんだよ、律!」

眠っている浩介の顔面に枕を直撃させたことを責める澪に、律は申し訳なさそうな表情をうかべた時だった。
浩介の手によって顔の上に乗っている枕が取り除かれた。

「一体これは何の嫌がらせだ」
「こ、浩……君?」

いつもとは違う浩介の雰囲気に、唯は目を瞬かせながら彼の名前を口にするが、浩介は反応することなく立ち上がった。

「明日は早いっていうのは分かってるだろ?」
「え、ええ……」

浩介の体から放たれる殺気にも似た重い雰囲気に圧されたのか、ムギが一歩後ずさりをしながら答える。

「だというのに……フフ……フフフ」
「こ、浩介ちょっと怖いぞ」
「お、落ち着こう。話せばわかる」

うつむきながら不気味に笑いだす浩介の姿がさらに恐怖を増させていく中、律は必死に対話による解決を試みようとしていたが

「むぎゃ!?」

一瞬のうちに澪は意識を刈り取られていた。

「澪!?」
「「澪ちゃん!?」」

慌てて床に倒れている澪のもとに駆け寄る三人は、澪の体をゆするもののうめき声を上げるだけで目を覚ます兆しが見えなかった。

「ま、まさかこれは……」
「あの伝説の―――」

澪の傍らに落ちている枕を見ながら律と唯が声を上げた。

「「超音速枕!?」」
「お、恐ろしいわ」

律と唯のつぶやきにムギが顔をこわばらせながらつぶやいた。

「ど、どうしよう律ちゃん」
「こ、こうなったら戦うしかない!!」

そう言い放った律は、先ほど浩介が投げた枕を手にすると立ち上がって勇敢にも浩介と向かい合った。

「喰らえ、こ―――――ぶぎゃ!!」
「「り、律ちゃん!?」」

枕を投げ用としていた律は、顔面に枕を当てられそのまま床に倒れた。
万事休すかと思われた唯たちだったが、二人を倒したことで満足したのか、それともただ冷静になったのか浩介は自分の布団にもぐりこむと再び眠りについた。

「浩介君って、もしかして寝起きが悪いのかな?」
「わ、わからない。でも、浩君、恐ろしい子っ」

紬の疑問に答える唯は、最後にそう口にして話をまとめた。
だが、それはこの場にいる者たちの考えていることと同じものでもあった。
結局、澪と律数分後に意識を取り戻したが、彼女たちの中には”眠りについた浩介を起こしてはいけない”という暗黙の決まりができるのであった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回もかなりのボリュームでありましたが、いよいよ修学旅行っぽい話になってきました。
ちなみに、金閣寺の本当の名前を初めて知ったというどうでもいい情報は置いときまして、この連続投稿はあと少しだけ続きます。

新年あけましておめでとうございます。
昨年は大変お世話になりました。
今年もよろしくお願いします。


それでは、これにて失礼します。

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第119話 京都狂騒歌

『京都ー、京都―。お忘れ物のないよう、ご注意ください』

新幹線で揺られること数時間。
様々な騒動を起こしながらも、なんとか僕たちは京都駅にたどり着くことができた。

「京都だー!」
「京都だね、律ちゃん! 浩君」
「分かったから、静かにして」

京都に到着したことで、さらにテンションを上げる二人に、僕は静かにするように促した。

「えっと、次はどこに行くんだっけ?」

1日目でもある今日は、学園側が指定したルートを通って京都市内を回っていくことになっている。
各班で自由に移動ができる自由行動は、2日目だ。
そんな僕たちの次なる目的地は

「金閣寺やで!」

まるで僕の心を読んでいるのかと思うほどのタイミングで声を上げた律だったが、語尾がおかしかった。

「やで?」
「京都にいる間は関西弁でしかしゃべってはけないゲームやで!」

首を傾げる澪に、律は元気よく関西弁で返事を返した。

「おぉー、ゲームですかな」
「そうやで!」

(本当に、次から次によくやるよ)

次から次に新しいことをし始める何時に、僕はある種の尊敬の念さえ感じ始めていた。まあ、どうなるのかが予想できたりするけど。

「あなたたちも早く移動しなさい」
『はーい』

そんな僕たちに、山中先生が若干ではあるが呆れたような表情をうかべて移動するように促してきたので僕たちは駅のホームを後にするのであった。










山中先生について行ってたどり着いたのは、改札口前の大広場だった。
見ればほかのクラスの学生たちが腰かけている姿が見えた。
山中先生に座るように言われたため、僕たちは周囲のクラスの学生たちに倣うように、その場に座った。

「みんなそろっているわね。班長は必ず班の人がそろっているのかを確認すること」

そして始まったのは山中先生からの注意事項の連絡だった。

「どうして、私たちは座らされてるんだ……じゃなくて、座らされてるんや?」
「ほら、こういうときって必ずいなくなる人かいるだろ?」

律の右隣で体育座りをしながら先生の話を聞いていると、関西弁でしか話してはいけないゲームを続けているのか、関西弁に言いなおしている律に、澪は冷静な様子で答えた。

(そういえばいたっけ)

昔の社会科見学で工場の出口と入口を間違えて反対側からやってきた、間抜けな同級生がいたのを思い出した。
その生徒は確か、ロストボーイとか呼ばれていた記憶があるが、今はどうしているのやら。
閑話休題。
ふと、それにピッタリ合いそうな人がいるのを思い出した僕は、視線を横……律の左側のほうに向けた。

「あ、いた」

視線の先にいたのはキャリーバックを机代わりにして両腕を載せて眠っている唯の姿があった。

(食べて寝て……一部の人には羨ましがられるほどのことをしてるよな)

しかも不思議なのは、見ていても不快な気分にならないことだったりもする。
逆に愛おしく思えてしまうほどだ。

(きっとこれが惚れた男の弱みっていうやつだね)

僕はそう結論付けると、再び先生の話に耳を傾ける。

「それじゃ、これからバスに移動するから遅れないようについてきてね」

どうやらもう話は終わったようで、山中先生の言葉に、クラスのみんなはゆっくりと立ち上がると移動を開始した。

(あ、唯を起こさないと)
「唯、起き――――」

立ち上がって荷物を持ったところで、いまだに眠っている唯を起こすことにした僕は、唯を起こすべく声をかけながら視線を唯がいる方へと向けたところで、僕は言葉を失ってしまった。

「皆、早く行こう!」

そこにはいつ起きたのか、キャリーバックの取っ手をもって声を上げる唯の姿があった。

「……なんでこういう時には目が覚めてるんだろう」
「すごいんだかすごくないんだか……わからないよな」

自然と口から出た言葉に続くように律が声を上げた。

「律ちゃん、澪ちゃん、浩君も早く―!」
「おう!」
「分かったから、大きな声で叫ぶな」

本日何度目かの注意をしつつ、僕たちは唯に続いて京都駅を後にした。





「ここが京都か」

駅を出た僕は京都の街並みを見ながらつぶやいた。
遠くのほうに白い塔のようなものが見える。
あれがいわゆる”京都タワー”なるものだろうか。

(やっぱり京都はいいよね)

これでも僕は、修学旅行の行き先でもある京都のことをいろいろと調べていたりするのだ。
‌金閣寺などが有名だが、お寺などが多く京都タワーもろうそくに見立てられて建設されたのではないかという説があることも調査済みだ。

(楽しみだな)

僕はこれから出会ういくつかの観光地に思いをはせたところで

「見てみて、律ちゃん!」
「おー、まるで大根みたいだな」

唯と律がさっそくはしゃいでいる声が聞こえてきた。
「そうだ! 写真撮ろうぜ!」
「賛成!」
「浩君も一緒に取ろうよ!」

律の提案にムギが即答で賛同すると、唯に近くに来るように言われたので僕は駆け足で唯の横に移動した。
どうやら京都タワーをバックにするみたいで、唯たちがしゃがみむのに従い、僕もその場にしゃがみ込んだ。

「はい、チーズ」
「こらっ! 早くバスに乗りなさい!」

そんなことをしていると後ろの方から山中先生の若干怒っているような声が聞こえてきた。

(そういえば、移動中だった)

初めて見る京都の街並みにすっかりと抜け落ちてしまったようだ。

(気を付けないと)

僕はもう一度気を引き締めながら、荷物を手にバスへと乗り込むのであった。
何せ、この班の中で、頼りになりそうなのは半分しかいないのだから。
それはともかくとして、バスの中は僕たちが最後だったこともあって、空いている席は残り少なかった。
とはいえ、前のほうにまとまって4席ほど空いている席がある。
この分なら前方の席に相席という形で座れば一つの班で固まれるだろう。

「おーい、浩介! こっちこっち」

その相席相手である慶介の隣に座れというアピールに、僕は慶介の後ろの席に腰掛けることで応じた。

「って、後ろかーい!」
「新幹線のようなトラブルは勘弁してほしいから」

思いだすのは同じ女性に二度も痛い目を見る慶介の姿だった。
さすがにここにその女性はいないが、どんなことに巻き込まれるのか不安でしょうがないので、隣ではなく後ろの席に座ることにしたのだ。

【あまり変わってませんけどね】

とりあえずクリエイトの言葉は無視して、僕は窓のほうに顔を向けた。
それから間もなく、律やムギ、唯に澪の四人がバスに乗り込んできた。
律は慶介の隣へ、澪とムギは僕の後ろの方の席に。
そして唯は

「はぁ、疲れた」

と言いながら僕の隣の席に腰掛けた。

「って、食べて寝ただけだろ」

唯の言葉にツッコミを入れるが、唯は意にも返さずにバックの中をあさりだした。

「次はこれにしよっと」
「いい加減にしろ」

事の成り行きを見ていた澪が、新しいお菓子の袋を取り出す唯に呆れたような声を上げた。

「はい、浩君どうぞ」
「どうも」
「あ、澪ちゃんとムギちゃんにも」

袋から取り出したお菓子を僕たちに配っていく唯の姿を横目に見ながら、僕は早速唯にもらったお菓子(飴だけど)を口に入れるのであった。
それからしばらくして、クラスの人が全員乗っているかどうかの確認作業を終えたのか、山中先生が最後に乗ってきた。

「それじゃ、お願いします」

山中先生がバスの運転手に向けて声をかけると、バスはゆっくりと動き出した。
京都駅を出て、市街地を走っている中、バスの中は話声で満たされていた。
それはこちらも例外ではなく、

「ねえねえ、浩君。明日はどこを回ろうかな」
「それはほかのみんなと相談だから、”ここだ”って言えないな」

早くも明日の自由行動に胸を弾ませている様子の唯に、自然と僕の顔もほころんだ。

『xお姉ちゃんをよろしくお願いします』

それが新幹線に乗っているときに送られてきた、憂からのメールの内容だ。
憂も、唯のことを心配しているのかもしれない。

(それはいいとして、最初の”x”はどういう意味だろう?)

何か意味でもあるのかと、考えをめぐらせてみるが、答えが思い浮かぶことはなかった。
なので、これはただの打ち間違いだろうと解釈することにした。

(よほど気が動転しているのか? ………まさかとは思うけど、唯が二日間戻ってこないことをさっき知ったとかじゃないよな?)

あの完璧という言葉がふさわしいほどできた妹である憂が、打ち間違いしたまま気づかないで送信する原因がそれしか思い当らなかった。

(まあ、梓がいるんだし大丈夫か)

向こうの様子を想像しそうになるのを必死にこらえ、すべてを梓に丸投げすることにした。

「なあなあ、浩介の恥かしい話でも話そうぜ」
「おっ、それはいいな!」

そんな考えに意識を傾けていると、慶介と律の声が聞こえてきた。
しかも、なんだか聞き捨てならない内容だったような気がする。

「それじゃ、まずは俺からな。浩介って無類のチーズケーキ好きだろ?」
「確かに」

僕はとりあえず、二人の話を静かに聞くことにした。
別に恥ずかしくもなんともないからだ。
チーズケーキが大好物であることくらい、親しい者は誰でも知っていることだからだ。

「前に浩介の好きをついてチーズケーキをおもちゃのケーキとすり替えたことがあったんだけどさ」
「おぉ、意外とすごいことをするんだな。それでそれで?」

(ん?)

慶介の話している内容にものすごく既視感を感じた。
それはいつの日かのように時間を繰り返しているというのではなく、ただ単純に体験したことがある内容という意味だ。
当然と言えば当然だが、ものすごく気になったので、僕は慶介の話の続きに耳を傾けることにした。

「ケーキを食べようとした瞬間『これはおもちゃじゃないか』って、おもちゃのケーキを真っ二つにへし折ったんだ」
「あれって慶介がやったのか。というか、へし折るところが浩介らしいな」

(それって、完全にこの間のじゃないか)

僕をだしに笑い合う二人は一旦置いとくとして、ようやくすべてを思い出すことができた。
数日前のことだ。
いつものように昼休みにチーズケーキを食べようとしたときに、それがおもちゃであることに気が付いたのでそれを勢いよくへし折ったのだ。
最初は自分で間違えて入れてしまったのかと思っていたが。

「なるほど、あれは貴様の仕業だったというわけか」
「あ……いや、そのぉ……」

恥ずかしさよりも怒りが込み上げてきた僕は、ドスを効かせた声で慶介を問いただす。

「ふんっ」
「オールバック!?」

後ろの席から慶介に制裁を加えた僕は窓のほうに視線を向けた。

「後からの攻撃とは……恐るべし、浩介の底力」

律のひきつった声を聴きながら、僕は流れゆく京都の街並みを見ることにするのであった。
結局、この後に僕の恥かしい話をすることがなかった。
こうして僕たちは金閣寺へと向かうのであった。










「ここからは自由行動になります」

金閣寺の駐車場でバスが止まると、山中先生は両手を数回たたいてクラスのみんなを注目させてから口を開いた。

「集合時間は1時間後なので、それに間に合うようにここに戻ってくるように」
『はーい』

山中先生からの中事項を聞いた僕は、クラスのみんなと同じように応じた。
こうして、僕たちは金閣寺へと解き放……観光するのであった。





「律ちゃん、皆―! 早く早く」

バスから降りた途端はしゃぎ始めた唯を追いかけていった先にあったのは金色の建物だった
これが、金閣寺なのだろう。

「うわぁ……」
「金色だ」

皆が感嘆の声を上げる中、僕は驚きのあまりうまく声を発することができなかった。
予め調べていたとはいえ、実際に目の当たりにするとそのすごさは違うものだ。
金閣寺の建物の周囲にある湖のようなものが風情を感じさせるのに一役買っていた。

「これって、本当に金でできてるの? じゃなかった、出来てるん?」
「そうだぜ! あ、いや。やで!」

何故か関西弁で疑問を言い直す唯に応えるように、これまた関西弁に言い直して答える律。
どうやら、まだあのおかしなゲームが続いているようだ。

「せやけど、これを持って帰ろうと思ったら駄目だぜ……アカンで。おまわりさんに、捕まる……捕まってしまうんがオチだぜ……やで」
「……」

律のおかしな関西弁を聞いていると、無性に悲しくなってくる。
けなげな努力に対してなのか、それともあまりの出来の悪さに対してなのかはわからない。

「金閣寺っていうんはな、昔に燃やされてしもうて今あるのは新しく建てられたものなんやって」

そんな中、助け舟を出すかのごとくムギが金閣寺を見上げながら、関西弁で説明をし始めた。
きっと、これが”本物”の関西弁なのだろう。
無理をしている感じもなく、自然な口調での関西弁は聞いていてもすんなりと頭に入ってくる。

「ほんまは鹿苑寺っていうらしいわ」
『おぉ~』

ムギの上手な関西弁での説明に、思わず僕たちは拍手を送った。

「うぅ……」

そんな中、一人敗北感のようなものに打ちひしがれているのがいた。

「律、悪いことは言わないから関西弁ゲームは止めておきな。なんだか見ていてすごく惨めだから」
「う、うるさいやい!」

こうして、律の関西弁でしか話してはいけないゲームは幕を閉じるのであった。
その後、抹茶を飲める場所で抹茶とお茶菓子に舌鼓を打ったりしながら、金閣寺を堪能した僕たちは、再びバスに乗り込むと次の観光地に向かうのであった。

「それにしても、お菓子を先に食べたら抹茶の苦いのが気にならなくなったね」
「そうだね。僕もびっくりだったよ。あれは」

抹茶を先に飲もうとした僕たちに、ムギが教えてくれたのはお菓子を先に食べてから抹茶を飲むと苦さが引き立つという豆知識だった。
実際に、その通りにしてみるとムギが言っていた通り、苦さがお菓子の甘さと絶妙に中和していた感じだった。
ちなみに、これは余談だが後々調べてみるとお菓子を先に食べるのは、そうすることでお茶の味がわかるかららしい。
逆にしてしまうと、お茶の味がお菓子の味によってわからなくなるらしい。
ちなみに、煎茶の場合はお茶を先に飲んでそのあとにお菓子を食べるのが正しい作法らしい。









バス車内で軽く昼食を摂った後に向かったのは、神社だった。

「北野、てんまんぐう?」
「有名なところなのか?」

鳥居の上のほうに書かれている神社名を読み上げた湯に、両手を頭の後ろに回している律がつぶやいた。

「有名じゃなければ来ないだろ」
「大体神社だったら近くにあるしな」

確かに学校の近くにもあるので、それほど新鮮味がわかないのは仕方がないのかもしれないが、修学旅行の見学で来るぐらいなのだから、何かがあるのかもしれない。

「きっと大仏とかがあるんだよ!」
「そんなものあるわけないだろ」

ここに大仏があったらあったでこっちがびっくりする。
そんなふうに唯にツッコミを入れながら境内を歩いていると、真鍋さんの班と遭遇した。

「ここの神社は学問の神様で受験生には有名な神社よ」
「あー、なるほど」

唯たちの話が聞こえていたのか、真鍋さんの説明に僕はここに来た理由を悟った。
確かに学生である僕たちには、この神社はとてもありがたい場所なのかもしれない。

「境内に牛の石像があるでしょ?」

そう言いながら真鍋さんに案内された先にあったのは、牛の形をした石像だった。

「これをなでると頭がよくなると言われて―――」
「よしよしよしよし」

真鍋さんの説明を聞いた律と唯が、目を光らせたかと思うと石像をなでまわし始めた。
しかも、その中になぜかちゃっかりと慶介の姿があるし。
恐らく、班のメンバーとはぐれたのだろう。

(あれ、絶対に罰が当たるな)

突然のことに茫然としていながらも、僕がそんなことを考えていると

「こら、そこ! 何をしてるの!」

まるで待ってましたと言わんばかりのタイミングで現れた山中先生によって、僕たちは怒られるのであった。

(なんで僕まで)

これが連帯責任というものなのだろう。
少しばかり理不尽にも思えたが、そう納得することにした。
少しして山中先生の説教も終わった僕たちは、境内の中を見て回ることにした。

「あ、見てみて律ちゃん! 絵馬だって」
「お、本当だ」

そんな中、突然一方向を指さして声を上げた唯のが指し示す先を見た律が、軽く驚いた様子で相槌を打った。
そこには絵馬が販売されていることとその場所を知らせる看板が立てられていた。

「絵馬に願い事を書こうよ!」
「そうだな! 記念になるかもしれないしな。そうなれば、善は急げだ!」

唯の提案をのんだ律は、そのまま看板の案内に従って絵馬が売られている方向に走り出した。

「牛牛!」
「カルビー!」

意味の分からないことを叫びながら走っていく二人の後を、僕たちは何とも言えない表情をうかべながら追いかけるのであった。





「っと、これでみんな書き終えたな。それじゃ、かけるぞー」

絵馬を二枚購入した僕たちは、それぞれが絵馬に願い事を書き記した。
僕の場合は、スペースの問題から別の絵馬に書くことにしたが。
律は武道館進出を、唯は生涯満腹を、澪とムギは志望校に合格することを願い事として記していた。
色々と個性のある絵馬になっていた。

「浩君はどんな願い事にしたの?」
「別に何でもいいでしょ」

かくいう僕もかなり恥ずかしい願い事をしているので、言葉を濁した。

「えー、別にいいじゃん」
「それじゃ、絵馬を見ようっと」

そんな僕に頬をふくらまして不満げに食い下がる唯とは対照的に、先程僕がかけた絵馬を律は直接確認し始めた。

「あ、ちょっと――」

僕が止めるのよりも早く、律はそれを見つけてしまった。

「あったあった。えっと……『皆が仲よくいられますように』………」
「「「……」」」

その願い事に、皆は驚いた様子で言葉を失うとこっちのほうに顔を向けてきた。
それは絵馬に書いた願い事を声にして読み上げた律も同じだった。

「へぇー、浩介って以外にも純情なんだな」
「べ、別にそんなことは」

沈黙を破るようにしてからかい口調で声をかけてきた律に、僕は視線を逸らしながら反論した。
そうでもしないと赤くなっている顔を見られそうだったから。

「……仲が悪いより仲がいい方がいい演奏ができると思って書いたのであって、深い意味はないんだからね!」
「なんで、ツンデレ口調?」
「あらあらあら~」

澪からジト目でツッコミを入れられ、ムギからは微笑ましげな視線を向けられるという、なんとも居心地の悪い状態となってしまった。

「あ、そうだ! せっかくだからお参りしていこうよ!」
「それいいな! 願いがかなうかもしれないし」

そんな状況を打破したのは、唯の提案だった。

「よし! みんな走れ―!」
『おー!』

律は唯の提案に賛成すると、そう告げて本殿に向けて一気に駆け出して行った。

「って。ちょっと待ってよ!」

気づけば僕だけが取り残される状態になっていたので、僕は慌てて皆を追いかけた。

「神様―! このお願いを叶えてくださーい!」
「お願いします!」
「乙女の願いを!」
「だから、大きな声で叫ぶな!」

大きな声で恥ずかしいことを叫んでいる唯たちに、僕はツッコミを入れながらみんなの後を追いかける。
そして本殿の前までたどり着くと、唯が鈴を鳴らして僕を含めたみんなで手を合わせてお願いごとをした。

「叶うかなー?」
「叶うといいね!」

一足早く願い終えた唯たちは再び大声で話しながら去って行く。

「おいこら! お賽銭を忘れてるぞ!」
「あ! 本当だっ」
「お賽銭を忘れた!」

お賽銭をしていないことを告げると律は思い出したように声を上げてこっちに向かってかけてきた。
お賽銭を上げないでお願いをしたことが悪かったのか、それとも僕たちがここで無礼なふるまいをしたことに対する罰なのか

「ちょっと、さっきから何なのよ!!」
「うわ!? びっくりした」

突然涙声でどなり声を上げたのは山中先生だった。
立っている場所からするとお守りかおみくじでもしようとしていたのだろう。

「私に対するあてつけのつもりなの!? 」
「ちょっ、さわちゃんそれは誤解だって」
「そ、そうです! 私たち絵馬を書いていて」

どうやら、唯たちの大きな声で叫んでいた言葉の何かが知らないうちに山中先生にとっての地雷を踏んでしまったようで、半ば錯乱状態に陥っている山中先生を落ち着かせるべく律を筆頭にムギと唯が宥めるが一向に落ち着く様子を見せない。

「そんなウソを言ってもダメ! こっちに来なさいっ」

それどころか、逆に怒りを増幅させたようで、僕たちは半ば連れて行かれる形でその場所を離れることとなった。
そして人気のない場所で僕たちは自由時間いっぱいまでありがたいお話を聞かされる羽目になるのであった。

「な、なんで僕まで……」

おみくじでも買っていたら、きっと今日の運勢は大凶が出たに違いないと、矢継ぎ早に山中先生から話しているのを聞きながら思うのであった。

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